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角だけ魔族の太郎さん〜人材育成から始める魔王軍マネジメント〜  作者: 山田太郎
第5章「裂け目の中で」
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5-2 前哨地の炎

 前哨地は、森を切り開いて作られた小さな広場だった。

 夜明け前の薄光の中で、焦げた土の黒さだけがはっきり見える。


 太郎は荷車を押しながら、一歩足を踏み入れた瞬間、

 空気の重さに思わず息をのんだ。


(……ここだけ、別の世界みたいだ)


 第一小隊の隊員たちは、すでに散開しながら陣形を取っている。

 その動きは速いのに、ひとつも無駄がない。


 イルスは太郎のすぐ隣を進みながら、

 魔力を鎧に流し込むように胸当てへ手を添えた。


 胸当ての紋章が淡く脈打つ。

 青白い光が波紋のように走り、鎧の表面を薄い膜で包み込んだ。


(……これが、戦う人達の支度なんだ)


 そのとき。


「前方、影ッ!」


 鋭い声が木霊する。


 ガルドの号令と同時に、空気が震えた。

 次の瞬間、太郎の頬を何かがかすめた。


 風ではない。

 斬撃の残り香のような冷たい線が、皮膚をなぞっていく。


(……当たってたら、終わってた)


 太郎は理解するより先に膝が揺れた。

 そのわずかな揺れは、誰にも拾わせたくなかったから必死にこらえた。


 木立の影から、人影が飛び出す。

 人類側の兵――

 だが、その顔は太郎の想像とは違った。


 たしかに髪色は淡く、

 どこか西洋の俳優のような顔立ちをしている。


 けれど表情は、あまりにも普通だった。


 怒りでも狂気でもない。

 ただ、必死で、生き延びようとする者の顔。


(……こんな人たちと戦ってるのか?)


 太郎の思考が固まった瞬間。


「下がれッ!!」


 ガルドが飛び込み、敵兵と刃を交えた。

 火花が散る。

 魔力が鎧を伝ってバチッと音を立てる。


 ガルドの剣圧に押され、敵兵が弾かれる。

 その隙を狙って別の隊員が魔術を発動した。


「《火弧》!」


 魔力が空気を裂き、半月状の炎が走る。

 森の地面がえぐれ、湿った土が爆ぜた。



 太郎は荷車の影に身を寄せる。

 だが、荷車に積んだ魔石が魔力の衝撃に反応し、

 かすかに脈動しているのがわかった。


(やばい……これ、巻き込まれたら……)


「太郎さん、伏せて!!」


 イルスの叫びと同時に、

 太郎の真横を矢が通り抜けた。


 風切り音ではなく、

 空気ごと抉られたような鋭い圧。


 矢が太い木の幹に刺さる瞬間、

 幹が半分割れて破片が飛び散った。


(……こんなの、当たったら一瞬じゃん)


 怖い。

 怖いのに、足が動かない。


 いや、動かしたら逆に死ぬ。


 そんな本能だけが、太郎をその場に貼り付けていた。


 ガルドの怒鳴り声が飛ぶ。


「イルス、右側を押さえろ! 柔角族は荷車を死守しろ!」


「は、はいっ!」


 イルスは短く返事し、太郎の前へ滑り込んだ。

 剣を構えた姿が、たった昨日会ったばかりの人とは思えない。


(……守られてる立場なんだよな、俺は)


 でも、守られるだけで本当にいいのか?


 目の前では命が奪われ、

 奪われそうになり、

 奪い返されようとしている。


 なのに太郎は、ただ息を詰めて祈ることしかできない。


(何も分かってなかったんだ……)


 昨日見た帰還の姿なんて、

 まだ序の口だった。


 ここは、ひとつ間違えば死ぬ場所だ。


 角が、小さく揺れた。

 緊張か、恐怖か、風か。

 その揺れだけが、太郎の身体がまだ生きている証だった。

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