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角だけ魔族の太郎さん〜人材育成から始める魔王軍マネジメント〜  作者: 山田太郎
第四章 「前線の現実」
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4-12 出撃の命令

 前哨地の空が、わずかに白んできた頃だった。


 仮眠用のテントの隅で、

 太郎は毛布を肩まで引き上げたまま目を閉じていた。


 眠れたのかどうか、はっきりしない。

 ただ、意識が落ちかけるたびに、

 魔獣の唸りと爆ぜる音が頭の中で蘇る。


 テントの外から、人の走る音がした。


「第一小隊、集合! 前線配置の指示だ!」


 低い声が土塁の内側に響く。


 太郎は目を開けた。


 眠気より先に、胃の奥の重さが浮かび上がる。




 外に出ると、空は曇り気味だった。

 朝日というより、灰色の明るさ。


 広場には第一小隊が集まりつつあり、

 ガルドが指示書らしき羊皮紙に目を通していた。


「……前に出るのか?」


 ぽつりと漏れた隊員の言葉に、

 誰も返事をしない。


「太郎さん!」


 イルスが手を振って駆け寄る。


「すみません、起こしに行こうと思ったんですけど、呼び出しが先で」


「起きてたから大丈夫」


 太郎は軽く首を回し、自分の体のこわばりを確かめた。


「柔角族」


 ガルドが近づいてくる。


「前線との距離が縮んだ。

 敵が押してきている。

 第一小隊は迎撃と陣形維持だ」


 そこまではいつもの任務の説明らしく、

 周囲の隊員たちも聞き慣れた顔をしている。


 次の一言だけが、太郎に向けられていた。


「お前も来い」


 短い言葉だった。




「荷車は?」


「一台だけ連れて行く。

 回復薬と魔力石を積んで、隊のすぐ後ろにつける。

 前に出しすぎる気はないが……後ろに置きっぱなしにしても意味がない」


 ガルドは淡々としていた。


「前線で必要になったとき、

 取りに戻らないといけない場所にある物は、

 そこにないのと同じだ」


 太郎は言葉を挟まなかった。


 反論しても、状況が変わらないことを

 この短時間で嫌というほど学んでいる。


 ただ、ひとつだけ確認した。


「……俺、武器は持って行かなくていいですよね」


「お前が武器を振る暇があるなら、

 誰かの箱を持って走れ」


 それがこの場での答えだった。




 準備は早かった。


 前哨地で一晩のうちに消費された分を、

 新たに補給した箱で補い、

 太郎が並べた列から、必要なものだけが抜かれていく。


 その一部を、荷車に積み替える。


 イルスが箱を抱えながら言った。


「さっきの並べ方、すごく良かったです。

 夜中、何回も取りに来ましたけど、

 探すことは一度もなかったので」


「探してる時間が一番もったいないからね」


 太郎は箱の位置を微調整しながら答えた。


 仕事の会話をしていると、

 怖さがほんの少しだけ薄くなる。



 やがて、出撃の号令がかかる。


「第一小隊、前進準備!」


 ガルドが前に出て、視線を一度だけ全員に流す。


「さっきの魔獣とは違う。

 今日は人類が相手だ。

 魔法も矢も槍も飛んでくる。

 いつも通りやる。以上だ」


 簡潔な言葉に、

 隊員たちはそれぞれ武器と盾を確かめた。


 イルスは盾の革紐を引き締め、

 太郎のほうを振り返る。


「太郎さん。

 絶対に、隊から離れないでください」


「努力します」


 冗談半分のつもりで言ったが、

 口の中はひどく乾いていた。




 前哨地の門が再び開く。


 土塁の外の空気は、

 さっきよりも重かった。


 魔獣の気配ではなく、

 遠くから響く怒鳴り声と、

 低く唸るような魔力の振動。


 どこかで何かが燃えている匂いがした。


 荷車の手綱を持つ魔族が、

 小さく喉を鳴らす。


「行くぞ」


 ガルドが一言だけ告げた。


 第一小隊が前に出る。

 そのすぐ後ろに、太郎と荷車が続いた。

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