3-2
翌朝。
作業場の扉を開けると、ひんやりした空気の中で
ウルダが小さな木箱を抱え込んでいた。
「……戻ってる……」
ぽつりと漏らした声に、太郎がそっと近づく。
「どうかしました?」
差し出された箱の中には、
昨日太郎が仕切って整えた部品たちが、
ほとんど形を崩さずに収まっていた。
向きはバラバラ、少し雑。
でも、確かに戻そうとした手の跡がついている。
「昨日のまま……なんです。
誰かが戻してくれたんだと思います」
ウルダの指先が、仕切りの縁をなぞる。
驚きと、ほんの少しの嬉しさが混じった声だった。
太郎は棚の方へ目を向けた。
並びは歪んでいる。
書類の角度もひとつひとつ違う。
ただ——
昨日、散乱していたものが今日は散乱していない。
それだけで十分だった。
そこへ隊員たちがやってきた。
「太郎さん、おはようございます」
「おはようございます」
声の調子は落ち着いていて、
昨日まであった妙な気負いがない。
太郎は軽く会釈して、
作業場の空気に息を馴染ませた。
ウルダが作業表を抱えて歩いてくる。
「あの……太郎さん。
もし少しお時間があれば、
今日の作業の流れを一緒に見ていただけませんか?」
「もちろん。どこが詰まりそうです?」
ウルダは指でいくつかの欄を示した。
「伝票の整理と……午後の魔石の仕分けが混みそうで。
昨日、順番をつけてくれたのがすごく助かったんです。
今日も、少し整えていただけたら……」
「じゃあ、今日必要なところから整理していきましょう。
全部やろうとしなくていいですよ」
ウルダはほっとしたように頷いた。
「……お願いします」
近くの棚で作業していた隊員が、
ためらいながら太郎の方へ視線を投げた。
「昨日の……箱。
すごく使いやすかったです。ありがとうございました」
「そう言ってもらえると嬉しいです。
みんなが少しでもやりやすくなるなら」
隊員は小さく頭を下げて持ち場へ戻る。
その背中が、昨日よりわずかに軽く見えた。
大きな変化はない。
劇的な改革が起きたわけでもない。
それでも、
棚に残った元の位置を思い出した手の跡や、
声をかけてくれた隊員の表情の柔らかさが、
昨日とは違う今日をつくっていた。
太郎は作業表を受け取りながら、
胸の奥で静かに小さく息を吸う。
第二小隊が、すこしだけ動き始めている。
その実感が、ひとつの小さなあたたかさになって
太郎の中に残った。




