2-10 第二小隊の空気と違和感
昼休みの広間は、ほんの少しだけざわついていた。
何度か入ったはずのこの場所だが、太郎はいまだに空気の掴み方が分からなかった。
長机の上には、青く光る石がいくつも並んでいる。
魔石と呼ばれるエネルギー源だ。
近づくと、ほのかに温かい。
(……これ、どう見てもバッテリーだよな)
そう思うが、顔には出さない。
柔角族なら知っていて当然、と皆が思っている空気に気づいてしまったからだ。
第二小隊の隊員たちは、疲れた表情で各々の席へ座っていく。
何人かは肩を押さえ、何人かは紙束を抱え、何人かは机に突っ伏している。
そのなかで、ウルダが太郎のほうへ歩み寄ってきた。
「太郎さん、今日の作業……どうでしたか?
困ったことはありませんでした?」
いつもの柔らかな声。
だがその背後では――
「魔石、昨日また割れたんだってよ」
「補充されてないのか……」
「工具置き場、またぐちゃぐちゃだな」
小さな不満と疲労が、静かに積もっていた。
太郎は周囲を見渡す。
何度か見てきた光景。
だが今日になってはっきり分かった。
(……みんな、自分の仕事で手一杯だ)
道具管理、作業手順、連絡──
全員が目の前の負担だけを抱えていて、
全体を整える役割の人間がいない。
ウルダに悪意はない。
むしろ誰より動いている。
ただ、仕組みという概念がないだけだ。
ミラが太郎の横に静かに座る。
「太郎さん。
第二小隊、どう見えますか?」
太郎は少し考えてから答えた。
「……忙しすぎて、休む隙がない人が多いですね。
道具も、情報も、流れも……全部その場しのぎになっている気がします。」
ミラは目を細めた。
「やっぱり、そう見えますか。
わたしたち魔族は、仕組みという考え方が……あまり得意ではなくて。」
「得意とか不得意の問題じゃないです。
どの世界でも、手順や共有なしで回る組織なんてありませんから。」
そう言った瞬間、近くの隊員がひそひそ声でつぶやいた。
「さすが柔角族……物の見方が違う……」
「伝承にあった調停の種族って、こういう意味だったのか……?」
太郎は慌てて視線を逸らした。
ただ本質を言っただけだ。
それなのに勝手に格上の言葉として理解されてしまう。
(伝説ってのは便利だな……いや、怖いな……)
ミラが小さくつぶやく。
「太郎さんが来てから……少し、空気が変わりました。
誰も言えなかったことを、言葉にしてくれるんですね。」
太郎は肩をすくめた。
「……係長だったので。
こういう詰まりには、慣れてるんです。」
ミラは驚き、そして納得したように微笑む。
「……やっぱり、第二小隊に来てもらって正解でした。」
休憩室の奥では、魔石の光が淡く揺れている。
魔法の世界の象徴のような光だ。
太郎はその光をしばらく見つめた。
(……戦争の世界でも、結局やってることは仕事だな。
誰かが整えてやらないと、現場は潰れる)
ほんの少しずつ、
太郎の中で第二小隊をなんとかしたいという思いが強くなっていった。




