2-6 第二小隊、初訪問
翌朝。
ミラの案内で、中隊本部の奥まった廊下を歩いていた。
「この先が第二小隊の持ち場です。」
ミラは歩きながら説明を続ける。
「戦場から離れていますが、後方支援の多くを担っています。
物資管理、補給の調整……
どれも前線が動くためには欠かせない仕事です。」
太郎はうなずいた。
細長い通路に、木箱や袋が積まれている。
会社の倉庫裏を思わせる雑然とした空気がある。
(……見たことあるタイプの職場だな)
そんな感想が浮かぶ。
ミラが軽くノックし、控えめに声をかける。
「ミラです。入りますね。」
すぐに明るい声が返ってきた。
「どうぞー! 足元だけ気をつけてください!」
ミラが扉を開き、太郎とともに中へ入った。
太郎は思わず足を止めた。
壁一面の棚には木箱が積まれ、
床には半分開いた袋や工具が散らばっている。
だが、声の飛び交い方は明るい。
「それ昨日の分だってば!」
「え、マジ? あ、ラベル見てなかった!」
「誰か向こうの箱お願いー! 手が回らない!」
(殺伐って感じじゃないな……にぎやかってほうだ)
雑然としているのに、刺々しさがない。
“忙しすぎる仲良し職場”の空気に近い。
「ミラ、中隊からの見学者だね?」
奥から姿を現したのは、短い髪の女性魔族だった。
筋肉質だが目つきは柔らかい。
現場叩き上げの雰囲気があるのに、どこか肩の力が抜けている。
「第二小隊長のウルダです。
太郎さん、ようこそ。狭いけど、気にせず見ていってください。」
「山田太郎です。よろしくお願いします。」
太郎が丁寧に頭を下げると、
ウルダは朗らかに笑った。
「かしこまらなくていいよ。
今日は見学だって聞いてるし、危ないことはさせないから。」
ミラが補足する。
「太郎さんは、この世界での“働き場所”を探しておられます。
まずは第二小隊を見てもらえればと思って。」
「了解。太郎さん、好きに見ててね。
持てそうな荷物があれば声かけるから。」
「はい、分かりました。」
太郎が辺りを見渡すだけで、この職場のクセが見えてきた。
「それ、さっき運んだのと中身かぶってるよー!」
「え、ほんとだ……誰だ置いたの……あ、私だわ。」
「じゃあ戻すねー!」
誰も手を抜いていない。
むしろ全員がよく働いている。
しかし――
棚の分類はあいまいで、
通路には荷物が溢れ、
伝達はその場しのぎの声かけに頼っている。
(やってる人間は良いのに、仕組みのせいで効率が落ちてる……)
係長・主任として経験した現場の“痛いところ”が、
太郎の目に自然と映っていった。
「太郎さん、この荷物押さえてください!」
若い兵が慌てて駆け寄り、
太郎の腕に紐の端を押しつけてくる。
「はい。」
返事の拍子に、太郎の角が“ぴょん”と揺れた。
「あっ……す、すみません! 揺らしちゃいました!?」
「いえ……大丈夫です。」
(ただのバネなんだよな……)
青年はほっと息を吐いた。
「柔角族様の角に触れちまったかと思って……。
あれってすごく繊細なんですよね?」
(誰が言い出したんだその設定……)
太郎はごまかすように微笑むしかなかった。
ウルダが太郎の隣に立ち、苦笑しながらつぶやく。
「見ての通りなんだ。
みんな働き者なんだけどね、
仕事量に対して仕組みも人も足りなくて。」
ミラも視線を動かしながら言う。
「第二小隊は優しい人が多いんです。
だからこそ、無理を抱え込みがちで……。」
(……まただ)
太郎の胸がざわついた。
現世の職場で限界まで抱え込んでいた新人。
“迷惑かけたくない”と一人で背負い込んだ子。
(空気を見てないと、こういう兆候ってすぐ見逃すんだよな……)
胸に、あの時の感覚が戻ってくる。
(でも今日は……見学だ。勝手なことはしない)
まずは現場を知らないと、何も見えてこない。
太郎は物資の流れ、通路の詰まり、
どこに声が集中しているかを
静かに観察し始めた。
忙しさの中にある、確かな“優しさ”。
(まずは……ちゃんと見よう)
そのひと言だけを胸の奥に置き、
太郎は第二小隊の様子を黙って見つめ続けた。




