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角だけ魔族の太郎さん〜人材育成から始める魔王軍マネジメント〜  作者: 山田太郎
第二章 「本部の日常」
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2-5 働く場所を決める

 執務室に、しばし静けさが落ちた。


 机の上には、まだ仕分け途中の報告書の山。

 ミラは手を止め、ラグナも椅子の背にもたれたまま黙っている。


 太郎は、自分の握った拳をそっと開いた。


(……感情で動く前に、現実だ)


 この世界で生きていく以上、避けて通れないことがある。


「ミラさん、ラグナさん。」


 太郎は姿勢を正した。


「率直に聞きたいんですが……

 俺、この先の“生活”って、どうなるんでしょうか。」


 ミラがぱちりと瞬きをする。


「生活……ですか?」


「はい。

 住む場所は用意してもらってますけど、

 ずっと保護されているわけにもいかないと思って。」


 自分で言いながら、

現世で後輩たちに「自立」を説いていたときのことを思い出して、

少しだけ苦笑したくなった。





 ミラは、真面目な顔でうなずく。


「太郎さんの言う通りです。

 保護はできますが、ずっと“何もせず”というわけにはいきません。

 ここでも、働いて暮らしている魔族がほとんどです。」


「ですよね……。」


「柔角族として迎えていますので、

 ある程度は配慮されますが……

 ご本人が望むなら、仕事を持つのが自然だと思います。」




「ただ、一つだけはっきり言っておきます。」


 ラグナが口を開いた。


「戦場に出す気はない。

 柔角族を前線に立たせるほうがおかしい。

 あんたは争うためにここへ来たわけじゃないだろ。」


「それは……はい。

 正直、戦うのは無理です。

 武器も魔法も、さっぱりで。」


 ラグナは「だろうな」と短く笑った。




「戦わずに働ける場所なら……あります。」


 ミラが、机の札に視線を落とす。


「第二中隊の“第二小隊”です。

 後方支援が中心で、補給や荷運び、記録、連絡役……

 雑務も多いですが、戦場そのものには出ません。」


「第二小隊……。」


「人手はずっと足りていません。

 仕事が多いわりに、指揮系統が整理されていなくて。」


 ミラはそこで言葉を切った。


「でも、人を丁寧に見られる人がいれば、

 だいぶ変わるはずです。」


(丁寧に、か……)


 係長だった頃、

「そこまで聞かなくていいですよ」と後輩に笑われたことを思い出す。





 太郎の頭に、一人の顔がよぎった。


 “迷惑をかけたくない”と言って、

 抱え込んだまま限界を越えていた新人。

 あのときも、数字や報告だけ見ていたら気づけなかった。


 休憩室の空気。

 目の下のくま。

 机の上に積み上がったメモ用紙。


(……現場を見ないと、何も分からなかったんだよな)





「第二小隊の“働き方”を見てもいいですか。」


 言葉が自然と口をついて出た。


 ミラとラグナが、同時に太郎を見る。


「戦うわけじゃなくて……

 ここで生きていくために、どこで、どう働けるのかを知りたいんです。

 まずは、そこからだと思って。」


 自分で言っていて、

現世で部下に「まず職場の空気を見よう」と話していた自分と重なって、

少しだけおかしくなる。





 ラグナが腕を組み直した。


「……いいと思う。

 第二小隊は後方だし、危険は少ない。

 仕事を覚えるにはちょうどいい場所だ。」


 彼はミラの方を見る。


「中隊としても、構わねぇな?」


「はい。」

ミラはすぐにうなずいた。


「正式に配属される前に、一度見学という形にしましょう。

 太郎さんの希望と合うかどうか、確かめてもらう意味でも。」



---


「ありがとうございます。」


 太郎は深く頭を下げた。


(よし……まずは働く場所を知ろう。

 生活のために。

 それから先のことは、そのあとで考えればいい)


 角が、かすかに視界に入る。


 触れもしないのに、

“ここからだろう”と背中を押されているような気がして、

太郎は小さく息を整えた。


「明日でも行けます。」

太郎は顔を上げる。


「第二小隊、見せてもらえますか。」


 ミラは穏やかに微笑んだ。


「ええ。段取りは、こちらで整えます。」


 太郎は短くうなずいた。


 この世界で、自分が最初に踏み込む“職場”が決まった。

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