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数学弱者の最終定理 ~異能力バトルに数学って厄介すぎるんだが~  作者: 二毛作
第三章

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32ピタゴラス教団

「話は聞いている」


 お店に着くなり出迎えてくれたのはマリアさんではなく、いつも通りの恰好になぜかデカめネックレスを付けたユリスさんがお出迎えしてくれた。


「ではそういう事なんですけども」


 そういいながら中を確認すると、マリアさんが煙草をふかしてこちらに手を振っていた。ママ~どうしたらいいの~。


「とりあえず中に入りなさい」


 そのまま中へ通されるとすでにモカさんがソファ席のところに座っていた、無言で笑顔と共に手を振ってきたので僕も会釈して返す。


 今日の目的はユリスさんなのでユリスさんのいるカウンターの席に座ることにした。久々にこの席に座ったな、確か初めてマリアさんのところに来た時だった。あの日からガラッと変ったというか、ここを拠点にするようになった気がする。


「まさか向こう側から先に君に動くように求めるとは、珍しいこともある物だ」


「といいますと?」


「これもどこまで教えたらいいものか、いや、今回の事を実行してからというのが向こうの考えなのなら従ってあげることにしよう。すまないがそれは今回のミッションを達成してから直接聞いてくれ」


 ユリスさんもそのラプラスの子というのが何なのかを知っているらしい。となればこの場で知らないのは僕だけ、なんで僕だけ仲間外れなんですか?別に顔くらい見せてもいいじゃん。


「それで、教団に行くって話なんですけど、どこに行けば?」


「ああ、そのことだが――」


「ちょっと待って、そもそもなんでみなっちゃんは良くも知らない人の指示に従おうとするの?」


「え?」


 その時、急にモカさんがユリスさんの言葉にかぶせるようにして、低い声で聴いてきた。ソファに腰掛けたまま、顔だけこちらを向いているものの、その表情がいつものようなふんわりとした雰囲気ではなく少しピリッとしていた。


「誰かも分からない人の指示で、どんな人がいるかもわからない人たちがいるかもわからない場所に向かえってさ、普通そんなの受け入れる?」


 そこまで言われてから、確かにと僕自身で思った。何で僕は何も警戒もしないままあのメールの主の言うがままに従ってるんだ?いやもちろんモカさんからラプラス本人というのを保証するような連絡もあったし、何より明華もマリアさんもみんなその人が誰なのか分かって言うようだったから、あまりにも普通に受け入れすぎたというか、なんというか……。


「何も考えてなかったってのが正直なところで、それにマリアさんや明華も知っている人ってことなので、別に悪い人ではないって勝手に思ってたので」


「人良すぎる~こんな調子で大丈夫かなぁ?」


「あなたは一体どの立場で言ってるのよ、あなたが一番初めに阿智良君に手を出したでしょ」


「あぁ!確かに」


 そういえば僕が初めてしっかりと狙われたのって、モカさんのSP達だったよな、何で狙われたのか分からないけど、そうじゃんこの人のほうがよっぽど危ないじゃん。


「モカさんのほうがよっぽど危ない気がしてきたので、教団に顔出してきます」


「ちょっと!その言い方は無くない!?」


 モカさんのツッコミを無視してユリスさんに向き直る、少しあきれたような顔をしたユリスさんだったが、顔を振っていつもの表情を取り戻す。


「では私の後についてきてもらおう」


 そう言われユリスさんの後をついていくと、そのままキッチンのまで入っていきそこにある扉を開けると、何やら地下へとつながる階段が現れた。これは全男子憧れる秘密の部屋というやつでは!?


 そのまま階段を下りていくと、今度は昔ながらの作業部屋のような場所に出た。壁にいろいろな工具がかかっていたり、ピザ窯みたいな炉があったり、本が大量に収納された本棚だったりと、いかにも私研究してます!って感じの雰囲気があった。


「うわー歴史の教科書に出てくる実験室みたい」


 きっとこういう雰囲気が好きで集めたんだろうな、多分イタリアに居そうな顔の作りだからピザ窯も用意したんだろう。いいなぁこういうイケオジ。


「こうでもしないと、化学設備入れるのって難しいんだ、法律が厳しくて」


 その理由が現実的過ぎて萎えた。


 そうすると、天井にまで伸びた本棚の前でユリスさんが立ち止まった。本棚から1冊の本を取り出すと、僕のほうに向きなおる。


 手にしているのは、コンパスと分度器を合わせたような銀色のエンブレム、これは確かタナカとやりあった時に現れた教団のやつらが着ていたローブについていたものと同様の物だ。


 あぁ、本当に教団の人なんだなユリスさんって、なんてことを思っていると、いわゆるアニメで見かける魔法陣のようなものが床に広がった。青白く光ってから模様が揺らぐ感覚を覚えた。いやこれは視界というか、空間が歪んでいる?


「これが我々のアクセス方式といったところかな」


 その揺らぐ空間の中、ユリスさんだけがしっかりと認識できたのはおそらくユリスさんも魔法陣の中にいたからなのだろう。きっとそういった効果範囲が設定されているんだと思う。


「さてついたぞ」


 そういって視界が正常に戻ると、見えたのは長い通路、足元にはさっき喫茶店の地下であらわれた魔法陣と非常に似た幾何学模様。大理石なのか高そうな天然の石を使っていますと言いたげな床、両サイドはこれまたギリシャの古代遺跡とかに使われてそうな模様が入った柱。


 その柱の間には、大きな一枚の木から切り出された扉が並んでおり、この場所の広さがうかがえる。僕らの目の先には、無駄に2股に割れた階段、結局いったん合流してまたそのあとに反対に分かれて2階に通じるという何とも無駄すぎる作り、ただその分財力を見せつけられている気がした。


 その間には他の扉とが違った雰囲気の扉があった。白基調に金の細工が施された扉だった。


「あそこの扉だ、もうすでに話は付けてある」


 ユリスさんはそう言って目の前の異質な扉を指さす。そこに向かって歩いていき僕もそのあとをついていく。


「こんな広いくて荘厳な場所あったんですね日本ですか?」


「その質問は少し難しいな」


 ユリスさんは苦虫をつぶしたような顔をした。答えを貰うよりも先に、ユリスさんの手が、その白基調の扉の取っ手にかかる。


「阿智良湊をお連れしました」


「どうぞ」


 その返事を待ってからユリスさんはその取っ手を引いて開ける。そのあとに続いて僕も入っていく。中には個人ではきっと買うことのできないであろう、大きなパソコン。そして何が書いてあるのかわからないモニターに、ユリスさんが使ったような魔法陣みたいな幾何学模様。


 十数人程度が、各々の機械の前であーでもないこーでもないと頭をひねっている。見た感じは研究機関ってこんなイメージ。


 そしてやはりというべきなのか、その部屋の一番奥の一番大きなホワイトボードの前に立っている人、その人がここで一番偉い人と見て間違いないのだろう。


 白衣を着て金髪をポニーテールに結わえいる、背格好からして男性だとわかる。というかただの事務室を想像したけど、こんな広いと思わなかったし、何ならよくユリスさんの声聞こえたなおい、何か秘密の通信とか使ってたのかしら。


「おっほ、ユリスが来るのは久々だぁ、どうだここらで一局指していかないか?」


「お前は将棋を嗜むやつではないし、ここにきた理由は前もって話しておいただろうに」


「ほう、つまりその子が関数の子だ」


 ユリスさんと話していた男性が、突如持っていたペンを勢いよくふっ飛ばして僕の方を見る。だからここの付近ってペンが散乱してるんだ、この人が原因だったのか。


 そしてその人は僕の事を見て何度もうなずいていた、そしてなんか七つの球を集めたら願いを叶えてくれる龍が現れるアニメに出てくる、相手の強さを数値化してくれるようなものを付けていた。実在したんだスカウターって。


「じゃあ、見せてもらおうかな君の能力」


「え?ここで使うんですか?それなら」


「違う違う違う!!」


 その男の言葉通り一番得意な爆破の式か斬撃の式を発動しようとしたら、その男が慌てて止めに入った。ならどうやって見せろと?そしてユリスさんがいつの間にか他の人と話していて、僕が友達の友達と話している気分になってきた。気まずいよねああいうの。


「そういえば自己紹介がまだだった。私はピタゴラス教団の演算研究部日本支部の支倉(はぜくら)だよろしく阿智良湊君」


 そういって支倉さんが何かの装置をいじり始める。見たところパソコンのようなキーボードをたたいている。そして、レジにあるバーコードリーダーみたいなものをこちらに向ける。


「250円になります」


「安すぎだろ僕」


 なんか急にボケられたから思わず突っ込んでしまった、しかもタメ口で。でもこれは支倉さんも悪い。なんでこんな未来の研究してますって感じあるのに、向けられるのがレジのバーコードリーダーなんだよ。


 そう思っていると、僕そのリーダーに接続されてたパソコンのような機械が動き出す。僕もその画面をのぞき込んでみたが、数式とかが出力されたのは分かったが、これが一体何を意味しているのか全く分からない。


 そしてその出力を見つめている間、隣でサッカー観戦でもしているかのような盛り上がりを見せる支倉さん。この人何が見えてるんだ?


 そして、支倉さんが僕の両肩をがっしりと掴むと、大きく息を吸い込んで言った。


「面白い!!」


 声でっか……。

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