31ラプラスって何
月日が経つのは早いもので、あのビルの爆破銃撃事件が忘れ去られようとしていたころだった。僕もすっかりその事が頭から抜け落ちて、日々のエンコン退治で実験的に技の鍛錬や研究をしているころだった。
一つの連絡がモカさんから入ってきたこと、そして差出人不明の人物からの連絡が僕のスマホに届いた。その差出人不明の人物というのが、どうやらモカさんによると例のラプラスの子という人物だということが分かった。
どうして急にそんな人物から連絡が来たのかは不思議だったが、おそらくモカさんが教えたのだろうと思う。そうでなければこんなほぼ同時のタイミングで連絡が来るとは考えにくかった。
モカさんからの内容としては、前回のブルバキと教団の事について、Nulls内部でも警戒しているらしくて、特にブルバキのメンバーに関してはかなり危険視をしている状況らしいが、教団に関してはユリスさんの事もあっていったい誰がどの派閥に属しているのかを見極めるのが困難という事、そして近々ラプラスの子から僕に対して何らかの形で接触してくることになると思うちょっとした警告じみた文面だった。
それが僕に対しての助言なのか、それともただ単に予定を教えてくれただけなのかは分からない。そして肝心のラプラスの子といわれる人からの内容というものが、あまりにも突拍子の無い事だった。
『阿智良湊、あなたの成長と能力の事はすでに私のところにも届いているが、そのことについて、あなたにはいくつかの選択肢がある。一つは簡単でこのまま日々エンコンの対処に当たり情報屋に対してストレージを売りながら金銭を稼ぐ今までと変わりない生活を送る事、もう一つは、ブルバキのメンバーとの対談を通し、現状のあなたの立ち位置が他の能力者とどのような違いがあり、その話を聞いたうえで今後の行動を考えるという選択肢、なぜあの時ブルバキに狙われ、身近にいる明華には監視対象で済ませているのかの真実を探る事』
大まかにいえばこのままの生活で暮らしていくか、少しの危険を冒してその先にある目的や僕自身のことについて深堀をすること、そして最後の選択肢があまりにも予想外だった。
『ピタゴラス教団のほうへ赴き、自身の能力を開示し、自己の能力に対しての理解を深めて、教団による協力を取り付けていくこと』
教団の場所に僕から赴いて、能力の開示?それは万が一教団が僕と敵対するような関係になった際に、僕の弱点や攻略法が筒抜けになってしまう問う事、それならば現状通りモカさんと明華との特訓で事足りている気がしている。わざわざ、立場のわからない人たちにわざわざ僕の能力を教えてなんの特になるのだろうか、すでにユリスさんという教団のメンバーに僕の能力が割れている以上、余計に開示するというのは弱点の開示に等しいのではないのだろうか?
そしてこのラプラスの子とよばれる人物の意図が全く読めない点も不気味である。この人物がどこかの組織に属しているのか、はたまたマリアさんのような中立としての活動をしているのか、そしてなぜ急に僕への連絡をとることにしたのかという点である。
返事の期限は設けられていないにしろ、この内容からして、僕がブルバキの事を知っていることは確定していて、一度戦闘に発展したことまでも把握しているのか、その後の教団の人たちに囲まれそこからの脱出したことも知られているのか、それをモカさんが報告し連絡に至ったのか、いずれにしろ判断が付かないというのが現状である。
賭けてみるか?明華、モカさん、マリアさんあの三人がこの人物について知っているようなそぶりを見せていた。ともなれば一番初めに接触するのはこのラプラスの人物なのではないだろうか?
そこで僕は思い切ってただ提示された選択肢のほかに僕側からの交渉を持ちかけてみた。
「この業界、界隈について僕の知る知識はあまりにも少ない、判断するにはまったくもって情報が足りず、できることなら貴方とのサシでの対談を挟みたいと思うのですが、いかがでしょうか」
これが今僕が思いつく最善の策だと思っている。どの選択肢もメリットとデメリットが存在するのは当たり前だが、僕が知る情報は他の能力者からしてはあまりにも少ないというのは自覚している。なんせこの能力を自覚してからまだ半年すら立っていなければ未だに自信を持た技の行使には至っていない。そんな中途半端で安全性の確保をできない人物を果たしてそのような組織が受け入れてくれるのかは甚だ疑問だ。
難しい顔をしていたのがばれたのか一路と晴斗が「どうした?何かあったか?」といった声をかけてくれる。二人を前にして明け透けに全部を話せてしまえれば楽なんだろうけども、そうもいかない。どうにかして信じてもらうことは可能だろうけど、こんな状況になった今無暗に話して巻き込んでしまう可能性もあり得る。
と、ここまで来て、もしかしてあの時の明華と今の僕は似ている状況なのかもしれないと不意にそんな考えに至った。あぁ、だからか、あんなにキツく僕を拒んでいたのは、そう思うとあれは明華なりの優しさだったのかもしれない。
「いや、マジでこの参考書ムズイってなってる」
すぐに数学の参考書を取り出して適当なページを開く。そりゃそうだ、これはだって大学受験用の参考書なんだから、教科書レベルの事なんて、もうすでに知ってますよね?見たいな顔してさらっと流して問題をぶち込んでくる。しかも剛速球で160キロくらいのストレートみたいな問題もあれば、いきなりエゲつないシンカー投げてくるような問題もある。つまりどの問題もムズイ。
「え~阿智良君こんな問題もできないのぉ~?こんな問題で躓いて許されるのは小学生までだよねぇ~」
「うっわメスガキめっちゃ似合うな晴斗、そのまま性転換して来てよ」
「待ってその反応は予想外だった」
勝ったな。晴斗のドン引いた顔を見て心の中で勝ちを宣言した。勝鬨を掲げてやった。
「あぁ、この参考書か俺も持ってるけど難易度高いよな」
「え?一路も?なんで持ってるの?」
一路が僕の参考書の中身を見てからそんなことを宣う、一路が参考書を持つ?明日雪でも降るんじゃないか?いや、他人から見たら僕が参考書で勉強するのも同じようなことか。
「俺はお前みたいになんか行けそうとかいう理由でテストで点取れる奴じゃねぇの、お前がおかしいの、特に数学のばらつきはマジでおかしいと思う。絶対お前この参考書やってても、あ!これなら答えこれっぽいとか、この解き方であってるわ、みたいな解き方してるだろ。それ普通出来ないから」
「え?そうなの?皆もそういう事あるでしょ?いやあるって絶対」
「無いな」
「無いね」
二人して真顔で答える。うっそだぁ、マジ?そんなハズは……。僕ってそんな特殊個体なの?敵モンスターならレアドロップとか経験値たくさんもらえそうだな。
「ほえ~初めて知った、なんか特殊能力みたいでいいね」
そう返すと、二人とも呆れた顔をしたが、今のどこにあきれる要素があったのだろうか、特殊能力とかいうワードチョイスが良くなかったんだろうか?
――――
放課後、どうすることもできずスマホとにらめっこしていた。というのもラプラスの子と呼ばれる人物からの返事がどうもわからないというか、意図が読めなかった。
『それは先ほど提示した3つの選択肢を選んでから考える』
つまりは僕と今の状況で一対一で会うつもりはなく、おめーが従ったらこっちも考えてやらんこともないぞという事だ、どうしようもない、現状維持なんて選択肢は始めから無かった。ブルバキの内部に入り込むのなんてありえない、正直命がいくつあっても足りなさそうだ。そうなると残ったのは教団との接触となるのだが。
ユリスさんに話せば分かってもらえるだろうか?そこから話を取り付けてもらえるなら、それが一番手っ取り早いのは間違いない。そうならこのままその旨をラプラスに伝えるか、それとも明華とかに相談した方がいいんだろうか?でも連絡来たのを知っているのはモカさんだし、やっぱりモカさんなのか?
どうにもこうにも決めきれず、僕はとりあえずモカさんに連絡を取ると、その旨をラプラスに伝えてからマリアさんのところに行けとのことだった。やっぱりラプラスが何かしらの指令をモカさんに出しているのかもしれない。となるとラプラスはNullsのメンバーということになるのか?
若干の不安を残したまま、謎のメールアドレス、つまりラプラス宛に返事をしてマリアさんの喫茶店へと向かうのだった。こんなことなら初めからマリアさんのところにいればよかったかもしれない。
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