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数学弱者の最終定理 ~異能力バトルに数学って厄介すぎるんだが~  作者: 二毛作
第三章

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30頑張れば変化は遅れてついてくるって有名人が言ってた

 今回、モカさんとの練習で行っているのは、主に式のみでの戦いを行う事だ、相手の攻撃を防いだり回避する際の移動などは可能だけど、主にこちらからの攻撃については式をメインにするので、ただの格闘技のようなパンチとかキックは基本的に禁止となっている。


 最近の定石となってきているのが、開始早々に斬撃飛ばしの式を展開して、相手の人数に対して斬撃を飛ばすこと、それぞれに燃焼と凍結の補助式を入れる。今回は燃焼を3個、凍結を2個分用意して演算容量を注ぎ込む。


 右腕を横に振って、タイミングを合わせて主たる式を発動する。そのタイミングで斬撃が飛んでいき、SP達の下へと向かっていく。そして次が爆破の式これも燃焼と凍結を1つずつ用意して左右に投げつける。真ん中のSPに向かって発動するのは波動の式。ここまでの流れが最近の僕の作戦なのだが、なかなかうまくいかない。


 斬撃の式は躱されてしまうものの、燃焼と凍結の効果は発揮されているようだ、きちんとそのあとが見て取れたので今回の式は成功ということで続いての爆破式、こちらも問題なく発動してくれた。燃焼によって足止め、凍結による妨害で、今僕は目の前のSP一人に集中できる瞬間が来た。


 波動の式に燃焼の補助式を追加して発動する。式が解けるように消えると、僕の右手からいくつかの火炎弾のようなものが発射された。


「ありゃ?」


 想像と少し違う、イメージとしては火炎放射のようなものを想像していたのだが、これだと火球を吐き出しているだけだ。何か軸の設定をミスってしまったのだろうか、でもこれはこれで使えるぞ、つまり、今の火球に形の情報を与えてやり、かつ何か質量をもたせることができれば隕石みたいな技にすることもできる。


 逆に燃焼じゃなく、限りなく限界まで冷やした空気を圧縮して矢のように放てばそれだけでも結構なダメージを与えられるかもしれない。


 棚から牡丹餅とはまさにこのことだ。問題はここから。ここで僕は波の式を中断するために、演算容量の供給を立って、もう一つ式を立てる、その式が波を発する主たる式を停止する作用として働いてくれればいいのだが。


 式が解けた瞬間、右手から吐き出されていた火球が止まる。演算容量が持っていかれるような感覚もない。


「よっしゃ!!キタ!!イッタ!!」


 そう舞い上がっていたのもつかの間、ゴム弾が僕の眉間にきれいにヒットする。これがもし実弾だったらこの世ととのお別れさよならバイバイだった。


 気を引き締めなおして次に移動の式を展開する。僕から見て左側のSPの横をとれるように目算での位置計算を終えてそれに合わせて式を調整する。発動のタイミングで斬撃の式の準備をする、使いやすいのは圧倒的に斬撃と爆破の式だな。


 今回は補助式なし、その分圧力を高めて切断の威力を高める。移動が完了するとちょうど燃焼の爆破式の影響で足止めされているSPの横に出た。ほぼほぼ位置は予想通りの場所だ。そのまま横なぎに右腕を振って斬撃を飛ばす。


「まずは2体!」


 飛ばした斬撃によってSP二人をまとめて肩から腰にかけて切り裂いた。二人のSPが血を流すことなく赤い光芒となってまるで天に上るかのように浮遊して消えていく。最近知ったが、これもモカさんが能力で作り出したものとのことなので人体錬成とかいうレベルじゃねぇぞ、一体どれだけ代償として差し出したら良いんだよ。


 その光芒に紛れて銃撃が二発、来ることは想定していて、かつ身体リミッターを外した式を展開している僕の方が早い。すぐさま右前に飛び出して、次の式を準備する。


f(x) = sin(ωx)・e^(−αx)

g(x) = Vx


 実際これまでも試したことがあるけど、なかなかうまくいかない式の一つで、何か一つコツを掴めたら結構汎用性のある技になるとは思っているんだけど、それが何なのか、何がいけないのかわからない、本当に感覚との戦いになっている。


 指際に青白い光がまとわりつく。そして座標を決めると、主式のf(x)が発動し、補助式のg(x)で電圧を操作して威力の調整をする。要は、落としたい相手の位置と、僕の式との電位差をつくりだして通電させるっていうイメージで作ったんだけど、あまりにも一極集中しすぎて命中率がよろしくない。エイムの難易度が半端ない。


 目標として設定したのは僕から見て一番手前のSP、すでにSPたちは僕の周りを取り囲もうと左右に展開しつつ牽制として銃を撃っているが、ここで動いてしまうと座標の設定がややこしいことになってしまう。ともすればこの場合は同時発生として自分の反発係数を高める式なのだが、これもうまく発動するかわからない。


 2つの式の併用が難しいのは知っているけれど、よりにもよってその二つともが不安のある式というのがさらに難易度を上げる。


 発動。


 指先の光がバチッと音を立てて消えた後、SPのところで落雷のように一瞬だけ光る。同時に襲い掛かるのは空気の振動と高い音程の圧。SPにまとわりつくように細く青白い選考がいくつも走る。そのままSP自体が赤い光芒となり消える。


「やった……」


 喜びに浸る間もなく次に目標を定める、爆破の式でもう一人を牽制して、もう一度波動の式を立てる。さっきのは恐らく軸の取り方が違ったのだとすれば、それをそのまま応用して、火球の連射として使うまで。一つ一つの大きさを小さめにすることで消費する演算容量も少なめにしていざ鎌倉。


 目論見通り、十数個の火球がSPに襲い掛かる。そのまま副産物なのか爆発までしてくれて、これでほとんどあいつは片付いたとみていいだろう、先ほどけん制したSPに向けて僕は再度斬撃の式を立て、凍結の補助式を付与する。


 そのまま右手をはらって斬撃を飛ばすと、ヒットした鳩尾のあたりから、SPが徐々に氷におおわれていく。あの斬撃に乗せていた補助式がこうも効果を発揮するとは、そこでSPの体が消えてなくなると、氷はその場で砕けていった。


 程よい疲労感が残り、波動式を当てたSPの方も注意深く目を凝らしたが、SPの影は見当たらない、今日はここでゲームセットのようだ。


「おつかれー、だいぶ安定してきたね、でも1ヒットだし、場所が悪いね実践なら死んでたよ?」


 モカさんが手を振りながら近づいてくる。手ごたえとしては悪くなかったけど、あの貰った1発が当たり所が悪すぎた。


「いやぁ、何かいい防御の方法考えないとですね」


 防御の式はあるにはあるのだが、今回もうまく発動はしていなかった。というよりも、試すような場面がなかった、正直攻撃が上手いこと行ったがために、攻撃力でごり押しした感じだ。


「れーちゃんから見てどうだった?」


 モカさんが遅れてやってきた明華に話を振る、腕組みしながら歩いてくるのがなんか様になっている。


「前までよりも安定はしていそう、けど手段が少ないというか、これだけで終わるような能力ではないというのが、私の正直な感想」


「手厳しい~これでも結構苦労したんだよ?」


 モカさんがフォローしてくれるも、明華のいう事はまったくもってその通りで、確かに手数は少ない、ただ補助式でアレンジをしているだけで、根本となる式自体は2つしかないとみていい。さらに今回の練習で発覚した波動の式が何らかのエラーで僕の思い描いていたものとは違っているという事。あぁなんかうまいこと行かないもんだなぁ。


「頑張ってるのは知ってる」


 その一言が僕にとってはあまりも予想外で、救われるような一言だった。きちんと見てくれている人がいるというのはこうも心強いというか、支えになってくれるものだとは思わなかった。今の僕の顔は若干ニヤけているかもしれない。


「術の練習って意味でやってるなら悪くないだろ、これに加えて本番だともっと動くことになるんだろうし、ひとまず一人で頓死することは無くなったように思うけど」


 頓死は確かにあり得る、あの波動の式を初めて使った時なんて、明華がいなければそのまま死んでいてもおかしくなかった。今までも自滅の式か何かかと思っていたけど、今日でそのイメージが変わった。ちょっと使い方が難しいけど、一旦家で考えてみるのもありだろう。


「それじゃあ今日はこの辺で」


 そういってモカさんが式を解除するとコロッセオの光景から、マリアさんのお店の裏にある謎の空き地に戻っていた。ほんとこれ便利だな、なんか緊急回避とかに使えそうじゃないか?別空間へいったん逃げて戻ってくるみたいな。どれだけ演算容量使っているのか分からないから気軽にいうのもあれだけど。


「それじゃみなっちゃん今日もお疲れ!!」


 モカさんはそう言って足早にその場から去っていった。あの動きを見るに身体リミッター系の式を発動してるな。そんなに早く帰りたかったのかな?それなら言ってくれればよかったのに。それかSPたちから何かいい報告来て向かっているとか。


「じゃあな、私もエンコン倒しにいって稼がないと」


 そういって鞄を肩にかける明華そういえば、明華の親御さんって心配したりしてないんだろうか?というか、僕も別に能力とかエンコンについては親に話したりしたことは無いけど、最近夜遅いねとか、なんでそんなに汚くできるの?とか親から言われる。


 そのことを聞こうと思ったのだが、明華も能力を使っていたのかいつの間にかいなくなっていた。はっや。二人ともそんなにエンコン退治に忙しいの?僕もちょこっと退治に行ってお小遣い稼ぎでもするか。


 そんなさみしい気持ちと、成長を実感した充足感を抱いて僕は帰路につきながら、エンコンを探しに向かった。

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