29僕はまだ成長の途中で
二人してお店に入るとモカさんとマリアさん、二人が一斉にこちらを向いた。
「うわぁ!!」
そんな驚きと歓喜の声を上げてモカさんがこちらに近づいてきた。一方のマリアさんは嬉しそうにニコニコとしていた。
「どうしたのさ二人して、放課後デートか?放課後デートなんだろ!あたしにはお見通しだよ!」
「全然見通せてねぇじゃねぇか」
僕らの肩をバンバンとたたきながらモカさんが揶揄うように言う。残念ながら放課後デートではないんですよね、一応勉強会ということになってるので、クラスのやつらの中では。それにしても今考えてみると、よく明華も律儀に待っててくれたな。これも一歩前進ってことできっと何かしらのパラメーターが上がったということにしておこう。
やはり男子。数日合わないだけでレベルアップしています。僕は自覚ないけど。参考書読んでて賢くなった気がしない。なぜなら全く分からないから。というか今後学んでいったとして戦闘に応用できるのかすら怪しい。
「じゃあ、みなっちゃんの特訓?あたしとも最近やってるよね、今日もそろそろかなって思ってたら二人できたからびっくりしちゃった」
「お前がこいつの面倒見てるのかよ、ならあとは任せた、私は帰る」
一瞬驚いたような顔をした明華だったが、これ幸いと言わんばかりにそういって踵を返して立ち去ろうとした。しかしその肩をモカさんががっしりとつかんで離さなかった。
「何言ってんのさ、ちゃんと彼氏の成長見てあげなよ」
「誰が誰の彼氏だって?」
「ブチ切れるやん」
こめかみあたりに血管が浮き上がりそうなくらい、一気に狂暴な表情になる明華、めっちゃ怒るじゃん。それはそれで僕に失礼ではないかね?遺憾の意を表明してもいいんだぞ?
「あれ違うの?てっきりそうだとばかり、ラプラスの子からもそんな感じのこと言われたし」
「あいつ、また適当なことを……」
ため息とともに顔を覆う明華、そういえば前もモカさんが言ってたけどラプラスの子って誰なんだろ?なんかファンシーな名前してるけど、きっとゆるキャラみたいな見た目なんだろうなとか勝手に考えている。
「ラプラスの子って何ですか?人間?ゆるキャラ?」
「え?」
「は?」
率直に思った疑問をぶつけると二人して意外そうな顔をして僕を見つめた。そして数秒の空白の時間の後、二人して僕に背をむけて何やらひそひそ話を始めた。カウンターの方に目をやると、飲み物を作っていてくれた最中であろうマリアさんまで、驚いた表情で固まっていた。
そのマリアさんの表情を二人も確認したのか、顔を見合わせると、二人してマリアさんのほうへ行き今度は三人で話し始めた。なんだろうこの疎外感、なんかまずい事でも聞いちゃったのかな?
そうして三人での会議が終わったのか、何事もなく、明華は僕のほうに、モカさんはカウンターにマリアさんはドリンク作りに戻る。何だったんだあの時間。
「さて、やるか」
平然とまるでさっきの時間は無かったことのように明華はソファ席に座った。他の二人も同様なので、なんとなく聞き出せずに僕も明華の向かいに座って参考書と筆記用具を取り出した。本当になんの時間だったんだ。
明華は依然僕が買った難しそうな本を取り出した。こうして使ってくれるのを見るとなんだかうれしい気持ちになる。ところどころに付箋が張ってあるのもちゃんと日常でも使ってくれている感じがする。偉すぎる、というか理解できてるのがすごいな。もうそれ僕らの範囲すでに超えてる本だよね?大学飛び級で行けるんじゃないの?
「で、さっきの事だけど」
「いや、なんの事かわからん、さっぱりだ」
「さっきマリアさんたちとなんか話して――」
「いや、そんな事実はない」
食い気味に否定された。まだ僕が触れてはいけない内容なのか?それともなんか僕に知られたらまずいとか、知らない方が安全とかそういう事なのだろか?否定の仕方が無理がある。
今の時点で聞いたところで教えてくれなそうなので、これ以上の深堀はやめることにした。そういうわけで、今日教室で開いていた物理の本を取り出した。今学んでいる範囲であれば数学を勉強しなくても内容の理解は可能なので、より現実に即した物理を学ぶことにしたというわけだ。
確か物理の先生が、数学は物理の道具で、物理は化学の道具で、化学は生物の道具って言っていた。というわけで、道具がまだそろっている間は物理を、そして化学、生物をやっていけばいいかという判断。それに今の物理だと、ちょうど波動の式が出てきて、これ明華ゼミでやったやつだ!!ってなっている。そして、後期になればおそらく選択科目なので、また力学と電磁気学が戻ってきて原子とかやるんだろうな。
「勉強だったのね、てっきりデートでうちの店を選んでくれたと思ったのに」
マリアさんがそんなことを言いながらいつもの飲み物を持ってきてくれた。もう何も言わずとも飲み物を用意してくれる。常連の中でもレベルの高い常連になってしまったようだな。
「なかなか実用的な式ができなくて、あと勉強もしとかないと学校の方もやばいので」
「それなら礼香ちゃんに聞けば安心ね、なんだったらそこに現役大学生がいるんだから聞くといいわよ」
そういって指をさすのはモカさんだった。大学生くらいの年齢であるとは思ったけど、ガチで大学生だとは思わなかった。大学生だし遊んでいる格好しているし文系学部なのかな?理系は実験とレポートで忙しいって聞いたし。
「あたし理工学部じゃないから役に立たないかもだけどね~」
モカさんが手をひらひらさせて言う。そうはいっても大学生なら僕らの範囲はすでに終わっているだろうし、文系学部だとしても数学を使う学部だってあるって聞くし、経済学部とか。
「どうせ今年の後期から専門決めるんでしょ?あなたもそろそろ決めておかないと」
「どこ行けばいいかわからないしなぁ、適当に医学部でもいいかなって」
「え?医学部?後期から専門決めるって……」
僕がそういうと、またしても三人が意外そうな顔をした。そして明華とマリアさんの目はモカさんに向く。
「あれ?言ってなかったっけ?あたし某国立大の2年生理科三類で入ったの」
「ひょえぇぇぇぇぇ……」
某国立大学で、理科三類で入ったってもう確定したじゃん。なんでこんなところにそんな化け物みたいな学力の人が?恐ろしいって。本当に存在してたんだ理科三類の人って。
「それにみなっちゃんの先輩」
「メモリエラー起こしそう。処理しきれない」
ええと、つまりモカさんは僕の先輩でイコール明華の先輩でもあって今某国立大学の2年生で理科三類で入っていて、僕の先輩で、能力者でNullsで、僕の先輩で、僕の能力者で、理科某国立大で、明華ののうりょk僕ののうr僕のbbbbbbbbbbb
あぁもうびっくりしすぎて処理が追い付かないし、頭の中がぐちゃぐちゃしてきた。え?うちの学校ってそんな頭いい人がいたの?そんな学校だったの?一路がここに行くっていうし、実家から通いやすいしここでいいやーで決めた学校がそんな最高学府の生徒を輩出する学校だったと?なんだそれ僕って実は頭いいのでは?
「僕の学校って頭良かったんだ」
「お前、うちの学校入ってるのに知らないのかよ」
「正直一路が行くっていうからそれで決めました」
「鹿野がいるからで入れるってお前いろいろ変な奴だな」
いや、確かになんか難しいなぁとか思ったよ?過去問やるにあたって結構点数取らなきゃいけないんだなって思ったけど、僕の場合国語と社会と数学でぶん殴って入った。数学は多分運がよかった。僕の得意な範囲だったし、ほとんどが答えのアタリがわかる問題ばかりだった。
「じゃあ、その調子でみなっちゃんもあたしと同じ大学に来ようか」
「そんなノリで行ける場所じゃないんですけど」
「でもれーちゃんは来るよ?」
「えぇ!?」
驚きの声と共に明華を見た。参考書に目を落としていたが僕の声に気が付き僕と目が合う。
「いや、全然そんなつもりないけど」
それは至極依然と言ってのけた、むしろ明華のほうが驚いていた。息するように嘘つくじゃんモカさん。マジで本気で言ってるのかと思った。
「いや、でもレーちゃんなら多分簡単に受かると思うけど」
「まぁ、今のペースで行くならありえなくはないだろうけど」
「かっこよ」
そんなこと、客観的に見てもそうでしょうね、みたいに言えるのマジですごい。格好良くて憧れる。さすが明華さん。僕には死んでもそんなこと言えないです。
じゃあ、今日は未来の最高学府の生徒と、現役の最高学府の生徒に相談可能ということで、ここで一気に僕の成績を上げるしかねぇ!というか、もはやモカさんを家庭教師にしたら僕も行けるかもしれない。今は理系科目特化しているけど、いつか英語とか勉強していけばきっといいところまでいけるかもしれないぞ。
そんなわけで、お店の中はマリアさんとモカさんの話声と、僕のペンを走らせる音と、明華のページをめくる音で満たされていった。
――――
窓から指していた太陽が消えかかり、路地の街頭に明かりがつき始めたあたりで、ちょうど僕の勉強の範囲が一区切りついた。途中でモカさんがちょっかいかけて来ながらも、的確なアドバイスや考え方なんかを教えてくれたり、明華からは解説を見てもよくわからないところを聞くと、これまた的確な答えが返ってきた。すごいな、成績のいい人がいい教師とは限らないとはよく聞くけど、頭のいい人は教えるのもうまいのかもしれない。自分の理解の仕方をステップ式に教えてくれる感じが僕には非常に助かった。
ただ、脳の使い過ぎで疲労感がある、ここでのマリアさんが作ってくれたアイスカフェオレが染みる。これは体どころが脳が直接甘味を欲していると見える。
「うっはぁ、疲れた、僕ってやればこんなに勉強できるんだ」
「私もそこそこ疲れたな」
明華はそういって首を回す、コキッと音を鳴らしながら肩や首のストレッチをする。僕も腕を伸ばしたりして凝った体をほぐしていく。
「終わった?それなら今日の分やりますか?」
そこでカウンターの方からモカさんが声をかけてきた。いつものというのは、ここ数日、モカさんのSPをお借りして技の精度とか制御の仕方、あとは戦闘の組み立て方を練習させてもらっていたのだ。どうやらモカさんも自己練習として同じことをした時期があったらしい。
「いつものって、どのくらいやってたんだよ」
肩を自分で揉みながら明華が聞いてきた。
「最近ビルの爆発と銃撃戦があったのわかる?あの日以来モカさんに協力してもらってるんだよ」
「へぇー最近ってことか」
「いやぁ、あの時のみなっちゃんは格好良かったんだよ、私を抱きかかえて教団とブルバキから逃げてくれてさ、それで可能性感じて手伝ってあげてるって感じ」
「はぁ!?お前らあそこにいたのかよ!?しかもブルバキって」
明華が勢いよく立ち上がる。そういえば明華には話していなかったっけ。あの時よく参考書をなくしたくらいで済んだなって自分でも思う。あの時の冷静さと判断力は火事場の馬鹿力みたいな何かを感じた。でも毎回その場の僕に頼るのも良くない。そんな感情の高ぶりとかに左右されて何とかなるのは少年漫画の主人公だけって古事記にも書いてある。
「最近は式の暴走は減ったけど、不発がどうにも治らないのがねぇ」
「あの土壇場で桁数の多い計算させられる感覚は僕だけなんですか?あれに対処できる気がしないですよ」
特に反射式は本当に無理だ、タイミング合わせてからの計算開始なんだもん、あんなのコンピューターくらいしかできないって。
「ちょっとそれ見てから帰るかな」
「おお!!いいねぇ!!じゃぁ早速行きますか、マリアさんまた借りるね」
「はいはい、どうぞごゆっくり」
そういってマリアさんに飲み物の代金を払って、従業員用の通用口の方からお店を出た。そこに広がるのは、何かしらのビルの跡地のようで、いつ使われているのかわからない足場に使われそうな部品や、ごみ箱がある空き地だった。初めて見たときはこんなアクセスの悪い場所じゃあ買い手もつかないよなぁとか思ったものだ。
「じゃあ、いつもどおり」
そういってモカさんの式が空間に現れる。そうすると、その景色が一転してタナカとやりあった時のようなイタリアのコロッセオみたいな場所に移動していた。というのもあのタナカの式を参考にモカさんがどうにかこうにか式をいじったらモカさんの能力でも再現可能だったとのこと。
難しい話過ぎて詳しいことは分からないけど、要は、モカさんの演算能力で空間を作り出したものを保存しておいて、そこに僕たちを読み込むといった感じらしい。集合ってすごい便利だけど、空間作り出すモカさんって何者なんだろう。一番すごい気がする。
そうして、いつも通りモカさんのSPが5人現れて各々持っているものは警棒とゴム弾の銃だ。
息を一つ吐いて身体リミッターの式を発動した。
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