33僕とは?
支倉さんの目が爛々と輝いている。そして顎に手をもっていてぶつぶつと何かをつぶやく。ちなみに僕には何が面白いのかさっぱりわからない。あたりまえだけど。
「結果から言わせてもらうと、君の式は我々の技術では完全に理解することが不可能なような、少なくとも現段階では」
そういう支倉さんの顔は、まるで新しいおもちゃを手に入れた子供の様にキラキラと輝いて見えた。そして支倉さんの言っている内容も完全に理解したわけではない。
「そりゃあ、僕自身もなにがなんだかわかっていないので、説明は難しいですけど」
「いやいやそうではない。少なくとも我々の開発したこの機械であれば、能力がどういったものなのかを解析に掛けることができる、ユリスがしているコンタクトにも、微小ではあるがその技術を盛り込んだデバイスで、それによってすでに君の報告は受けていたが、よもやここまで複雑だとは」
言葉を紡ぐたびに興奮の色が増していく支倉さん。その反応からこの状況がかなりの珍しい状況であるということは間違いなさそうだった。
「ちなみにその機械でどこまでわかるんですか?」
僕はその機械を指さしながら支倉さんに聞いてみた。この機械の限界というものを僕は知らないから参考までに誰だとどこまで知れたくらいの具体例はほしいなと思った。
「そうだな、以前は極限の能力を持った人が来ていたな、それについてはある程度、こちらの方で術式の再現というものが可能だった。あるいは、解析を続けていくと、どのような現象を引き起こせるかといった予想をすることも可能だったんだ」
そこで支倉さんは言葉を切って、もう一度その機械のモニタに向かう。そうして何度も目を通して確信したのか言葉を繋ぐ。
「君のは関数ということは分かっても、それ以上のことがまるで分らない。理論的に構築されたものの中に、ある種の理論を越えた不条理を混ぜ込んだかのようなそんな印象を受ける」
術式の再現と解析、そして予想ができる機械、なんともピタゴラス教団という名前にふさわしそうな機械ではあるが、どのような経緯でこんな機械の発明に至ったのだろうか。
タナカと対峙した時に、モカさんが言ってた祈里さんの式。つまりもうすでにこの世には少なくとも能力者の能力を多少劣化してもコピーすることができる技術が存在しているということになる。
つまりそれの本家本元?という事かそれで僕を解析したところでどうなんだって話ではある。
「それで、僕の能力が分かったとして、何か利益でもあるんですか?主に僕に」
「それはもちろんあるとも、解析を続けていけば、今の君では想像もつかないような現象を引き起こしたりできるかもしれない。そして我々はその能力を解析することで、一つ世界の真理に近づける。お互いにwin-winなはずだったんだが」
途中まで楽しそうに話していた支倉さんが途中から、目をしょぼしょぼとさせていく。どうやらこの人にも予想外の事が起きていると察するには十分だった。
「それで、僕の能力が予想外すぎると」
「はっきり言って変態だ」
「どうしてその評価になるんですか」
変態はおかしいだろ、人の能力診ておいて何たる評価だ。失礼ではないかね?
「これはまた、こちら側も何かしら対策を講じねばならんという事、問題を見つけるというのは、新たなヒントと同じなのだよ」
そういって支倉さんがモニターとにらめっこを始めたが、そのままにらめっこしていても何も改善しないという事だけは、わかる。ということで今は何を見ているんですか?
「自由に関数を設定し定義できるくせに、ある程度の制限と制御がかかっていると見るのが妥当なのだが、それが何なのか検討もつかない」
「あぁ、なんかたまに補助式が勝手についてくる時とかありますね、あと自分の想像していたものと違う結果になっちゃったりとか」
特にエラーが起きやすいのは波動に関する式を使った時だけど、他にも移動の式とか、燃焼、凍結の式も使い始めの時は謎の効果を発動したりもしていた。
正直僕の計算ミスとか、能力の使い方が悪いと思っていたのだが、もしかしてもともとの僕の能力の性質の問題だった?
「それが一体どういう条件なのかも探れるはずだった。しかし、まるで強固なファイヤーウォールを設定しているかのようにその先からの解析が進まない、時間をかければ進むのか、それとも根本的に何かを間違っているのか、その手がかりもない状態だ」
「え?じゃあ今の状態って」
「君が知っている現状と、我々がもらった情報から1歩も進んでいないということになる」
「悲報、僕の能力前進できない」
これ結局顔合わせしたくらいしか進展ないってこと?何だったんだ今日は、そしてそれを要求してきたラプラスの子って一体何の目的があったんだ?僕も教団もなんも進展なく終わっただけだったんだけど?ただただ掌の上で踊らされただけ?
「少し待っていてほしい」
そう言って僕の解析結果を見せる為に他の人たちを呼び込んだ。そこには当然ユリスさんも含まれていて、みんながまるで研修生がレントゲンとか見るかのようにわらわらと集まって、モニターを食い入るように見た。
それからみんなが僕に聞こえないように会議っぽく何かを話し始める。聞こえてくるのはよくわからないので、恐らくは専門用語とかなんだろうけど、その中の一つに気なることがあった。
「危険すぎるのでは?」といった言葉。それが何に対して危険だと言っているのか、研究を進める段階の過程でのことを言っているのか、それとも僕の能力そのものを言っているのかは分からなかった。
「ともかくこの情報を我々だけで処理していいはずがありません」
研究者のうちの一人がそんなことをいう、ここにいる人たちだけで全部じゃないんだ。ほかにもいろいろな部署があるとかかな?
「報告を上げたとして、これを収束派に知らせるのはまずいだろう」
支倉さんがその研究員に向かって少しきつめに言う。それに対してユリスさんも頷いていた。なんだ収束派って。
「しかし、ログを見られてしまえばいずれ――」
「だから隠す、君たちも知っているだろう?ブルバキに奪われた技術のもととなった研究。あれがどこの所属か知っているはずだ」
「隠すってそんな――」
「黙れ、これは決定だ」
有無を言わさない支倉さん。食い気味に研究員の言葉にかぶせているその声は本当に先ほどまでのあっけらかんとした人物と同じ人なのだろうか。支倉さんは大きく息を吐きながら疲れ目をほぐすかのように眉間を抑えていた。
ただどちらにしろ、僕は危険なことなんて百も承知で進んできた。というか巻き込まれに行ったわけなので、この人たちが協力してくれなくてもこっちで勝手に進んでいく。
そう思いなおしていると支倉さんとユリスさんが僕のほうに来た。なんだろう何かユリスさんは真剣な顔をしているが、支倉さんはニコニコいている。
「さて阿智良君、すまないね。結論として我々はできる限り君に協力しようと思う、もちろんそれは君の了承と君の協力も必要になる。そうすれば互いに知りたいことを知れると思うのだが、どうだろう?」
支倉さんがそんなことを言っていたが、隣のユリスさんは厳しい顔をしたままで何も口をはさむことは無かった。
「僕は僕の事については知りたいし、それで誰かの助けになるなら喜んで協力しますよ」
誰かの助けになるなら喜んでとはもちろんそのまま言葉の通り、其れのおかげで僕の自己満足も満たされて最高って話で、協力しない理由はない。
というか協力してもらわないと僕の命が危ない。例のビルの時にもタナカを持って行ったであろう人物とかに顔は見られたわけだし、何ならモカさんは味方だとしても、Nullsのほかの人がモカさんみたいな人とも限らないし。
そうなると僕一人で頑張るのも限界があるわけだ、というわけで、情報を提供することになっても、僕の事を調べてくれるならありがたいということになる。
その除法を解析している間に僕は僕の方でお小遣い稼いだり、技の精度上げていったり、試験勉強したりできるわけなので。
「ただし、君の能力のことについてはここにいる我々にしか話してはならない、まぁ君からするとユリスと私のみというわけだ」
「え?ほかにもいるならその人たちにも協力してもらったほうがいいんじゃないですか?」
「君が生きたまま脳をいじくりまわされてもいいというならこのことを全体に周知するが?」
「はい、支倉さんとユリスさんにしか話しません」
「それならよろしい、君との連絡役はユリス君に任せるのが適役だろう、というわけで引き続きよろしく頼むよ」
そういって支倉さんはユリスさんの肩をたたいた。そのつもりだったのかユリスさんも動じることなく頷いた。
「それでは、私は面白いことを試したいのでこの辺で」
敬礼をしてから颯爽とどこかに向かう支倉さん、ああいうちょっとおかしな人言動の人って研究者って感じするよね。
「まぁ、これで一応ラプラスの指令は達成したことになるのか」
「多分、正直何も進んでないと思いますけどね」
結局僕が協力するという承諾を出しただけで、もともとユリスさんとかから教団側に情報は言っていたのは間違いないので、果たしてなんの意味があったんだろうか?
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