報告
コンコン
誰もいないはずの深夜の英雄機関の指令室。そのドアを雪乃はノックしていた。
ガチャ
中から扉を解錠する音が聞こえると、雪乃は静かに部屋の中に入る。
「失礼いたします」
雪乃は正面の椅子に座っている人物に挨拶をする。
「やあ。遅くまですまないね。それで報告は?」
その人物は挨拶もそこそこに報告を促す。雪乃も普段から無駄を省く主義だったため、すぐに要点を話し始めた。
「紅太郎こと怪人ブラックは、自力で怪人に覚醒しました」
「だろうね」
その人物は紅太郎が怪人化したことを感知していた。もっともS級の怪人がフルパワーを出せば、その魔力はかなりのものになる。気づいたものはそれなりにいるだろう。
「結果、ボマーは瞬く間に無力化。現場に潜伏していたボマーの配下は英雄機関によって捕獲されました」
「ふむ」
「なお紅太郎の記憶はその時の会話を考えるに人間、九条紅太郎の記憶が戻っているものと推測します」
その報告を受けた小柄な人物は、腕を組みうなずく。怪人に覚醒した紅太郎とまともに戦えるものは、この都市にも数えるほどしかいない。ボマー程度では相手にならないのは当たり前だった。
「君から見て紅太郎はなぜ自力覚醒できたと思う?」
雪乃はしばし考える。なんでも淀みなく答える雪乃しては珍しかった。
「おそらく。紅太郎の……桜花を守りたいという気持ちが……変身、覚醒させたのではないかと推測します。非科学的だとは思いますが」
「そうだよね。やっぱり愛の力ってやつかな?」
彼女は満足そうに笑う。およそ科学者としてはあり得ない結論が出たにも関わらずに。
「しかし玉藻様は最初から予測していたのですか? この結末を?」
雪乃は目の前の人物、玉藻に質問を投げかけた。
「うーん。そうだね……まあ最初から完璧に予定通りってわけじゃないけど、紅太郎の記憶を戻す最後のリハビリだったからね。わざわざボマーがこの都市に戻ってくるときにあわせて調整した買いがあったよ」
「ただ本当なら桜花と接触することによって記憶を取り戻してもよかったんだけどね。残念ながら何回戦っても一向に記憶が戻る気配がなかった」
「やはりボマーの存在が有効ですか?」
「うーんそれもそうなんだけど。怪人状態の紅太郎が接触しても記憶が戻るか怪しかったからね。なんせまともに戦ったら一瞬でカタがついてしまう。せっかくの有効な試験薬なんだら無駄にはできないよ」
「やっぱりシチュエーションや相手に対する恐怖も大事だったと思うよ」
「まあ紅太郎がまた人質になるっていうのはできすぎだったと思うけどね。」
「しかし問題がひとつあります。」
「ん? なんだい?」
「怪人ブラックの正体は紅太郎であると、桜花にばれてしまいました。今後任務の続行は不可能かと思いますがいかがいたしましょうか?」
「そうだね。そのことについてだが、今後君たちには新しい任務についてもらおうと思う」
玉藻は笑顔でそう答えた。




