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ブリューナク

「ハアッハァッ、これでどうだ」


 爆発は紅太郎達に使われたもの比較して、数倍の威力を持っていた。


 しかしその凄まじい破壊力を持ってしても、桜花を地に伏す事は出来なかった。

 その衝撃で制服はボロボロになっていたが、桜花自身はその場にすぐに立ち上がる」


「さあ早く私を殺して2人を解放しろ」


 幾らかのダメージはあったのだろう。見ると口の端から血を流している。


 ただそれだけだ。


 ボマーの力では全力を持ってしても、桜花に致命傷を与える事は出来ない。


「っ!! 化け物め」


 桜花の規格外の強さに圧倒されたのか、一歩後ずさる。


「くそっどうすれば……」


 ボマーは、桜花を殺せない事に苛立ちを感じている様だった。


「お姉様っ!! ご無事で良かったです」


 紅太郎も桜花の無事に安堵のため息を吐く。しかし状況は何も好転していない。一見桜花を倒す手段はなさそうに見える。しかしいつも桜花を倒すことを考えていた紅太郎は、ほぼ確実に倒せる方法を思いついていた。


 しかもその方法は、ボマーも思いつく可能性は高い。


 怪人ブラックの紅太郎のとしても、桜花の幼馴染の九条紅太郎としても、自分が人質になっているがために、桜花が犠牲になる事など許せる事ではなかった。


「ぐ……」


 怪人は悔しそうに顔を歪めている。復讐が遂げられないのと、桜花の規格外の強さに対する悔しさがあるのだろう。

 桜花への復讐のために念入りに準備をしてきたと言っていたが、特殊弾でかすり傷しか負わせられないのは、想定外だったのだろう。


 ましてや自身の全力攻撃でも大したダメージが与えられない事が悔しいようだ。


「私を殺すのであれば、対戦術兵器を用意してくれ。もしくは……怪人であれば怪人ブラックガードならば私を殺せるかもしれない」


「やつの攻撃は私の魔術結界を貫いてダメージを与えている。最近では私にまともにダメージをあたえたやつは、怪人ブラックガードだけだ」


 紅太郎はまじまじと桜花の顔を見る。怪人ブラックガードは、やはり神前桜花にとって唯一無二のライバルなのだ。つい喜びが湧き上がるが、そんなことを思っている場合ではない。


 当然のことながら怪人ブラックガードがこの場に現れることはない。もしもこの瞬間に紅太郎に変身が可能であるのならば、とっくに怪人を倒して脱出をしている。


「てめぇ……」


 怒りのあまり小刻みに震えている。ボマーは怪人ブラックガードよりも弱い。お前では力不足だ、と桜花に侮辱されたことによって憎しみを増大させていた。


「そうだ」


 怪人がにやりと邪悪な笑みを浮かべる。


「おまえの必殺技ブリューナクで自分を自害しろ!」


「「なっ」」


 思わず紅太郎と六花の声が重なる。

 紅太郎が考えていた事だった。

 桜花のシールドを貫く事は容易ではない。


 ただ桜花自身であればそれは容易いだろう。ましてや必殺技のブリューナクであれば確実でろう。


 想定していた事態に紅太郎は焦る。

 しかし桜花は眉ひとつ動かさなかった。


「それで私が死ねば、二人は無事に解放してくれるんだろうな」


「ああ。約束は守る」


 ボマーは笑ってそう答える。


「お姉さま!! やめてください!! こんなやつが約束を守るはずがありません」


「そうだこいつはお前が死んだ後に俺たちを殺す。いいからこいつを一瞬で仕留めるんだ。お前のブリューナクならこいつに起爆の猶予も与えずに葬れるはずだ。昔みたいに俺を助けようとするな。相手を殺すことだけ考えろ!!」


 紅太郎が叫ぶと、桜花の右手が輝き始める。


 実際に、桜花が攻撃することは歩の悪い賭けではないはずだ。


 まさに縮地と呼ばれる様なスピードで、前触れもなく移動する桜花の動きは目で追えるようなものではない。

 また必殺のブリューナクをその身に受ければ、そのあまりの威力に体は跡形もなく消滅するだろう。起爆する間もなく消滅させる可能性は十分あった。


 しかし桜花は紅太郎の期待をあっけなく裏切る。


「六花……今までありがとう」


「っ」


「私がヒーローとして復帰できたのは、六花のおかげだ……」


「お姉さま!! やめてくださいっ!! お願いだから」


 六花は泣きじゃくりながら叫んでいた。


「思えば姉らしいことが何もできなかったな……。私が死んだら母様のところに戻るといい。すでに話は通してある。」


「うっうう……お姉さまぁ……」


 六花の頬を涙が伝う。


 ダメだ。桜花は最初から死ぬつもりでここにきている。


「大丈夫。六花なら母様のもとで研鑽すれば、私よりも強いヒーローになれるよ」


「そして紅太郎……君にはいつも迷惑をかけてしまってすまない。でも死ぬ前にもう一度出会えて良かったよ」


「何を言っているんだお前は。いいから俺のことを無視してこいつを倒せ!!」


 紅太郎は桜花の声を遮り怒鳴り散らす。

 認めない。俺をかばって桜花が死ぬなんて絶対に認めない!!


「いいんだ紅太郎。私は六年前君を守ることができなかった……。今度こそ君を守ることができる」


「ふざけるな!! お前が死んで俺が生き残って何になるんだ!! やめろ!! 早くあいつを消し飛ばせ」


「……」


 押し黙る桜花。その足元を見ると小刻みみに震えていた。


「お前……」


「紅太郎……気持ちは嬉しいけれど……ダメなんだ。私が前みたいに失敗して、紅太郎が死んでしまうかもしれない。そう考えると……足が竦んで動かないんだ……」


 桜花の頬を一筋の涙が伝う。桜花も死にたくて死ぬわけではない。紅太郎の死が、大切な人の死が自分の死以上に怖いのだ。

 六年前の紅太郎の死は、それだけの心の傷を桜花に残していた。


「紅太郎のことも母様に頼んである。六花と一緒に母様のもとを訪ねるといい」


「ぐっおぉぉぉぉ」


 紅太郎は渾身の力を込めるが、鎖はジャラジャラと音を立てるだけで外れる気配はない。


「死ぬ前に紅太郎と一緒にヒーローになれた。私には何の後悔もないよ……」


「――――っ」


 眼の前が真っ赤に染まる。

 俺は何のために怪人として生まれ変わったんだ!!

 力を桜花を守るための力を得るためじゃないのか!!


 ドクンッ


 玉藻の魔術処理と鎖の抑制を受け、それでもなお魔力の、変異の前兆である黒い煙が、紅太郎の体から一筋上る。

 しかしそれは暗闇に紛れ周囲の人間はおろか、紅太郎自身も気づいていなかった。


「それじゃあ二人ともこれでお別れだ」


 桜花の右腕が鋭く光り輝く。掛け値なしの全力でブリューナクを自分自身に放つつもりだ。


「ボマー!!よく聞け。この地域は英雄機関に完全に包囲されている。もしも2人に危害を加える様なら、貴様は殺しても良い事になっている!! 覚えておけ!!」


 言葉と共に少し離れた地点より全力の桜花と変わらないレベルの魔力が知覚される。


 それは紅太郎の感じた事のない質の魔力であったが、その波動は凄まじく、ボマーにもその波動は伝わっていた。


「へっ!! 俺は貴様さえ殺せればそれで構わねえ!!」


ボマーはニタニタと笑いながら答える。


「やめろ!! やめろっていってるだろう!!」


 紅太郎の言葉が聞こえているはずだが、桜花の魔力はそれとは関係なしに上がっていく。


 だめだあいつはこのままだと死んでしまう。

 桜花の右腕はその凝縮された魔力で光輝いていた。


 とめるなら力ずくで止めるしかない!


 ビシビシィッ


 紅太郎の体に無理やり魔力が通り始める。

 焼き切れた魔力回路は紅太郎に尋常でない苦痛を与えるが、そんな事は関係なかった。


「ガアアァッー」


 その時生み出された膨大な魔力は、玉藻の施した抑制回路を破壊しながら、同時に紅太郎の体を容赦なく傷つける。


 紅太郎の視界は赤黒く染まる。




 ーー足りない。


 このままでは時間が足りない。


 桜花の魔力は極限に高まっている。


 後数秒もしないうちに、その右腕は自身の急所を貫き絶命するだろう。


 紅太郎の体から赤黒い霧が吹き出され、ようやくボマーまその異変に気付く。


「てめえ!! なにやってやがる」


 ボマーの声は紅太郎には届いていない。構わず魔力を上げ続ける。


 しかしその時、


「ブリューナク」


 静かな掛け声と共に、桜花の右腕が超高速の動きを見せる。


 意識が。時間がゆっくりと流れていく


 紅太郎の目には普段は瞬く間に放たれるブリューナクがスローモーションに見える。


 しかし紅太郎は動く事が出来ない。一瞬後にはその指先は桜花の心臓を貫くだろう。


 そんなことは……

 このぼく

 

「絶対に許さない!!」

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