昔の夢5
「この死体はなんですか?」
紅太郎の死亡から一週間後。
紅太郎の死体は「とある機関」に持ち込まれていた。
「うん? 先日の事件で死んだ神前桜花の幼馴染だよ」
「ああこの人が。しかしまだ若いのに可愛そうな、事件でしたね」
表情を全く変えず雪乃は答える。
「まあそうだね。しかし連中の被害を考えると痛みわけとも言えるかな」
玉藻も涼しい顔をしてそう答える。
紅太郎の死亡した翌日。神前桜花主導による、犯罪組織ティターンズの殲滅作戦が開始された。
しかし内容は作戦でもなんでもなかった。その内容については雪乃も、自身の情報網で確認している。
桜花一人による組織の支部への特攻。
その支部を壊滅させ、組織にいた構成員に、他の基地の場所をはかせる。そして一人での特攻の繰り返しだ。
作戦も何もない。中には罠が張り巡らされている基地もあったようだがすべて力技で突破。
桜花の不眠不休の戦いは、ティターンズ本拠地を潰すのにわずか5日しかかからなかった。
「しかし末恐ろしい娘だね。ティターンズには総帥をはじめ、Sランクの怪人も何人かいたのに……」
「そうですね。あと数年も経てば更に磨かれるでしょう。彼女と正面切って戦うのは、我々と言えど得策ではないと思います。ところで――」
雪乃はさっきから気にしていたことを、再度質問した。
「この死体は何に使うのですか?」
「うん。実は我々の同志を増やそうと思ってね」
「この少年には適性があると?」
「うんさっき私の一尾を入れた。拒否反応がなかったからそろそろ効果があると思うんだけど」
玉藻がそう言った直後、紅太郎が脈をうつ。ただの肉片にしか過ぎなかった体に魔力が宿っていた。
「よしっ!! 予定通り。ただここからは大変だ。なんせ死後一週間もたった死体だからね。おそらく回復まで最短で一年はかかるだろう」
「しかしただの人間が使い物になるのですか? 確か彼の生前の能力はCランクのヒーローだとか。正直戦闘面での不安があるかと思うのですが……」
雪乃も紅太郎と同じような立場で玉藻から一尾を授かった身だが、もともとの種族が人間ではない。そういった事情から元の体の資質に大きな差があると言えた。
「んーまあその辺は今後の調整次第でどうにかなるかな。なんせ彼の死ぬ前の願いは身に余るものだ。しかも本当にできると信じて疑ってない」
「身に余る願いですか?」
雪乃は怪訝そうに眉を潜める。彼は怪人ボマー殺されたと聞いている。まさかボマーに復讐したいなどと言う願いだろうか?
しかしそのような願いが、玉藻様の一尾に適合するとは思えない。
「彼の願いは神前桜花を守ることだ」
「……なるほど。それは確かに身に余る願いですね」
「そうだな。彼女を倒そうとするならば最低でもSランク相当の力。しかも上位の方となると人数も限られてくる」
紅太郎は死ぬ直前、自分が死んでしまうことよりも、桜花を守れないことを後悔していた。そのことが、紅太郎の願いが、結果的に世界最強を目指すものになる。
「それだけの願いをを有しているのであれば、われわれの仲間として申し分ない。さすがです玉藻様」
雪乃は本心からそう思っていた。
「まあ気長に待ってくれたまえ。それまで組織の運営は雪乃に任せるよ」
「かしこまりました」
「報告です。神前桜花が食事を取らなくなってから三ヶ月になります。話しかけても反応を見せません。ティターンズの残党も暴れていて、英雄機関のヒーローたちだけでは街の治安を守るのが難しくなってきています」
「うーん、わかったその件は私が手を打っておこう。それとあと三日ほどたったら神前桜花に『九条紅太郎は実は生きていた』って伝えてもらってもいいかな?』
「それは構いませんが、神前桜花は九条紅太郎に会うため、この場所を突き止めようとするのではないでしょうか?」
現在紅太郎の心臓は動いていない。肉体の損傷は玉藻の力で修復しているが医学的には生命活動を停止している状態だった。
紅太郎の再生にはナインライブズの本拠地の施設が必要であったし、この場所を突き止められるのは、雪乃や玉藻にとって都合が悪い。
「まあそこは任せておいてくれたまえ。私に考えがある」
「わかりました」
ドクンッーードクンッ
紅太郎の心臓が鼓動を刻む。
研究室に紅太郎の体が運び込まれて一年が経過していた。
玉藻の治療のかいがあり、紅太郎の体は生命活動を再開していた。
死後一週間が経過していたため、脳も完全に死んでいる状態であったが、今は細胞レベルで回復をしている。
ただしかし記憶の状態がどうなっているかは玉藻にもわからなかった。
下手をすると言語も全て忘れている可能性はあったが、体の機能的な面では、紅太郎の体はいつ目を覚ましてもおかしくなかった。
「さて。僕のカンだと今日あたりのはずなんだけどね……」
玉藻はその発言が科学者らしくないと理解しつつも、紅太郎の目覚めが今日であることに確信を持っていた。
紅太郎の腕を手に取り、その回復具合を確かめる。
自身の力の権現たる一尾の力を譲り渡したのだ。その成果がないのでは玉藻も困る。
「しかし予想以上の魔力量だね。僕の力とも相性が良かったようだ」
玉藻は誰もいない室内で再度つぶやいた。
紅太郎の体は外見こそ一年前と変わらなかったが、生前とは異なり、すさまじいまでの魔力を宿していた。
「これならばきっと……」
玉藻は紅太郎に接続された装置の数値を確認する。意識レベルは睡眠時のそれと変わらない。
「いつまでも女を待たせるもんじゃないよ」
玉藻は紅太郎の額に手を当てながら微笑んでいた。




