昔の夢3
桜花は決して油断していたわけではなかった。
周囲の警戒を怠ってはいなかったし、桜花は紅太郎に危害を加えられないよう、常に前衛として探索を続けていた。
しかしボマーの方が、一枚上手だったのだろう。
守られている存在がどちらなのか。察知したボマーは遠隔操作型の爆発物を囮に使い、桜花の注意を逸らし紅太郎の捕獲に成功した。
「っ!! 紅太郎を離しなさい!!」
桜花は激昂して叫ぶが、ボマーが紅太郎を解放するはずがなかった。
あいつは神前千花の娘だ。噂ではガキの割にはかなりやるらしい。
まともに戦うと、自身も負傷するかもしれない。それよりも人質をとるべきだ。隣にいるもう1人のガキはどうみても大した力はない。そう判断したからこそ、桜花への攻撃よりも人質の確保を優先したのだ。
「あぁ!? 離すわけねえだろ! これ以上近づくな! 近づいたらこのガキを殺すぞ!」
ボマーは紅太郎の首元にナイフを当てる。それだけで桜花の動きがピタリと止まった。
この人質の効果は絶大だ。
うまく利用すれば桜花をここで始末することができる。
ボマーから桜花までの距離は約十メートル。
仮に桜花が強力なヒーローであっても、この距離を瞬時に移動できない。
「僕はどうなってもいいから! こいつを倒すんだ!」
紅太郎はナイフを首筋につき当てられながらも、桜花に向かって叫んでいた。
「うるせぇ! ぶっ殺すぞ! 自分の立場が分かってんのか!」
ボマーは紅太郎の言葉を遮るように、首筋にさらに刃物を突きつける。刃物が当たったのか紅太郎の首筋に僅かながら血が滲んでいた。ボマーが少しでも力を入れれば、紅太郎の命は失われてしまうだろう。
すると桜花が深く呼吸をすると、ゆっくり話し始めた。
「……もうすぐ仲間がここにやってくる」
その言葉にボマーはピクリと反応する。
仲間だと? いやハッタリに決まっている。仲間がいるなら、ガキ共を先行させる必要はない。
「仲間が来れば貴様が助かる道はない」
桜花は殺気をまき散らしながらボマーに睨みつける。その圧力はとても十歳の子供とは思えなかった。
こいつはまずい。
桜花の魔力がボマーにもわかるレベルで膨れ上がる。即座に2人の始末よりも、自身の保身を考える。
「しかし我々は貴様の逮捕よりも、人質の解放を優先したい」
……もしかすると……これは?
「今すぐ人質を解放しなさい。そのかわりに我々は、貴様が安全圏に到達するまで手を出さない」
ボマーはその言葉に迷いを生じさせていた。
おそらく仲間の話は嘘だろう。人質を解放したとたんにこちらに攻撃を仕掛けてくるだろう。
しかしこいつの焦り方は尋常でない。
解放のタイミングさえ間違えなければ、それだけで逃げ切れるかもしれない。
「私はヒーローだ。嘘はつかない」
ーーどうする。
解放するべきか否か。
その答えが出る前に状況が動いた。
「いたぞ! 怪人だ! 男の子が捕まっている」
男の発した声は決して大きくはなかった。だが桜花とボマーはその声をはっきり捉えていた。
目の前の少女から目を離してはいけない。
そのことはわかってていたが、一瞬目を離してしまった。
次の瞬間。
桜花の突進に気付いた時には、その姿は目の前にまで接近していた。
まずいっ
手が反射的にナイフを動かしたが、それよりも早く桜花の手に腕を掴まれていた。そのまま腕をを、圧倒的な力で逆方向に捻じ曲げられ、体ごと地面に叩きつけられる。
「ぐっ……くそっ」
掴まれた腕に力を入れるが微動だにしない。
それどころかその小さな手は、手を万力のように締め上げる。
こいつ化け物かっ!!
この化け物じみた力で攻撃を加えられたら、ただでは済まない。
下手をすると一撃で戦闘不能。あるいは死んでしまう可能性がある。
まともに戦って勝てる相手じゃない!!
「く、くそがっ!」
そう感じたボマーは、自爆まがいの奥の手を作動させるしかなかった。
「俺はこんなところで終わりじゃねぇぇ――」
叫んだ直後。膨大な魔力によって生成された爆弾は、自身の腕と共に、その場にいた全てのものを吹き飛ばした。




