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オーバーキル

 歩きだした対象と女幹部は二人で腕を組みしばらく歩いて行った。しばらくすると予約していたのか、高そうなレストランに入って行った。


 時間は既に夕方。食事であれば最低でも一時間は出てこないだろう。

 そう判断した紅太郎は、出入り口が一か所しかないことを確認し、近くの喫茶店で待機することにした。話の内容は気になるが、既にレストランは予約で一杯だった。

 任務中である事を話せば中に入れたかもしれないが、あまり目立つ事をして気づかれたくない。


「しかしあいつらどういう関係なんだろうな? 普通に考えれば、情報提供なんだろうけどな」


 もう一つ愛人という線もあったが、一応女子の前なので言わないでおいた。


「でもダイナストの幹部だったらもっと大それたことを考えているかもしれない。例えば基地内に爆弾を持ち込んだり、指令を誘拐したりとか……」


 想像は尽きないが、結局はわからない。実際に捕まえればわかることだ。


 そう結論付け紅太郎は窓の外に目を向ける。もちろん対象はまだ店から出てきていない。紅太郎は喫茶店でくつろいでいるふりをしていたが、店の出入り口から目を離していなかった。


「食べるかい?」


「ん?」


 話しかけられた紅太郎が桜花の方に目を向けると、クッキーを1つ手にしていた。


「ああ」


 だが受け取ろうとした紅太郎の手は空を切った。桜花が避けたからだ。


「あーん」


 クッキーを手にした桜花は小悪魔っぽい笑みを浮かべ、紅太郎の口へとクッキーを運んでくる。


 これは任務だ。任務だからな。


 本来の任務は「神前桜花と恋人関係になること」という免罪符を得た紅太郎は仕方なさそうに口を開け、クッキーを咀嚼する。


 対する桜花は満足そうに微笑み、紅太郎のことを見つめていた。

 楽しくって仕方がないといった様子だ。


 ーーったく俺がからかわれてどうすんだよ。


 気を取り直しレストランの出入り口に注意を向ける。


 もしも紅太郎が桜花のことをよく見ていればその頬には赤みが差し、明らかに挙動不審になっていたのだが、同じく激しく動揺していた紅太郎はそのことには気が付かなかった。

 

「これからどうする?」


「ん? なにがだ? このまま尾行を続けるぞ」


 先ほど紅太郎は本部と連絡を取った。対象がパララケルスと接触したことを雪乃を通して弓塚さんに報告した。

 念のため指令に判断を仰いでもらったが、やはり「できる限り尾行を続けるように」との命令だった。もちろん暴力行為に及んだ場合や、危険度の高い怪人が出没した場合、戦闘及び捕縛しても構わないということだった。


「もちろんいつ奴らを殺すかだよ。私は、食事を終えアルコールも入って奴らが油断したところを奇襲、という作戦が、良いんじゃないかと思って。相手は悪の怪人だし、手加減しないでいいよね。私は最初の一撃でパララケルスの足の骨を砕くから。紅太郎は対象を無力化しておいてね。私の方は全身の骨を砕いておくから。そこまですればダイナストの幹部でも逃げられないでしょう」


「…………」


 当然だが先ほどの指令の中には「相手を殺せ」などという物騒なものは入っていない。

 ……それともこいつの捕縛とは全身の骨を折ることなのか。


 確実にオーバーキルであろう正義のヒーローの提案に、紅太郎は思わず身震いがした。


「いやいやしばらくは尾行継続だから。うまくいけばあいつらの本部もわかるし」


「そうだねっ!! さすが紅太郎。本部を突き止めて皆殺しにするんだな。私の考えが浅かったよ。組織の人間は全員、全身の骨を砕いた後に、拷問にかけて最後は公開処刑にしよう。うんやる気出てきた」


 やばい。こいつ本気でやる気だ。


 桜花が口だけでないのは紅太郎も身をもって知っている。

 はっきり言って、悪の組織の俺達と比較してもはるかにタチが悪い。


 ダイナストは紅太郎の嫌いな組織ではあったが、正直相手に同情を禁じ得なかった。

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