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尾行開始

 任務内容は一言で言うとある男の尾行だった。


 尾行の対象は英雄機関に併設して建てられているヒーロー養成学校、英雄学園に勤務している教師だ。


 この男は敷地内の寮に一人で住んでいるため、英雄機関の人間にとっては張り込みは容易い。

 しかし特に他に情報は与えられておらず、いまいち目的のわからない任務だった。


 念のため雪乃には任務の事を告げておいたが、一般人の尾行であれば雪乃の力を借りるまでもないことだった。

 



 翌日。桜花との待ち合わせ場所へと向かう途中、紅太郎は弓塚と出会った。


「あら、おはよう紅太郎君」


「あ、おはようございます」


「今日はよろしくね。桜花は尾行とか、張り込みとか苦手なのよね」


 どうやら弓塚は、今日の任務のことを知っているらしい。


「ああ。今日の任務のことですね。俺割と得意なんで任せてください」


「ええお願いするわ。今日は三人とも特殊任務があるって聞いてるから。がんばってね」


「三人?」


「ええ、あなたたち二人と六花ちゃんも特殊任務があるみたいなの。今日退院なのに……まったく指令も人使いが荒いわよね」


 確かに普通、退院当日に任務を任せたりしないだろうけど。きっと六花にしかできない内容なのだろう。


「まあでも今日は私と雪乃ちゃんと、珍しく指令が本部にいるから安心してね。あなた達のサポートは雪乃ちゃんが担当することになるから」


 言われて紅太郎は自身の通信機器を確認する。

 正直雪乃がサポートしてくれるならば心強い。性格は極めて悪いが、情報収集やナビ、サポートなどはあいつの本職だ。


「わかりました。よろしくお願いします」


 紅太郎は気持ち良く返事をし弓塚と別れた。


 今のところ紅太郎や雪乃を怪人だと怪しんでいる反応はない。しかし、一度疑われてしまえばその疑惑を払拭するのは容易ではない。怪しまれていないうちの行動が大事なのだ。紅太郎は以前、雪乃にレクチャーされた内容を思い返していた。

 

 待ち合わせ場所で桜花と合流した紅太郎は、早速張り込みを開始した。


 対象の住居は3階建ての職員寮だったので、桜花が正面玄関、紅太郎が念のため窓を見張っている。まさか今の段階で対象が窓から逃走をするとは考えづらいが、以前ナインライブズの任務で対象が窓から逃げ出したことがあった。念には念を入れての対処だった。


「聞こえるか桜花」


 紅太郎は特殊回線を使い桜花に話しかける。


「紅太郎。大丈夫、聞こえる」


「そろそろ対象が外出しそうだ。そちらで確認が取れたら俺も合流する」


「わかった。…………対象が玄関から出てきた。このまま尾行に入ります」


「ああ。すぐに合流する。見つかるなよ」


 桜花は張り込みや尾行は苦手だと言っていたが、今の所問題はない。

 やはりただの謙遜だったんだろうか。紅太郎はそう思いながら、急ぎ桜花のもとに向かった。



 

「…………甘かったか」


 紅太郎は、道路の反対側にいる対象を注意深く観察しつつ、自分の認識が甘かったことを反省していた。


 既に対象を尾行している三時間が経過していた。

 確かに場所も繁華街で人が多い。しかし、正直まさか尾行中に5回もナンパされるとは思わなかった。


 ヒーローの神前桜花であれば、目につくのは仕方がない。

 しかし普段ヒーローが戦うスーツには認識阻害の術式がかけられている。一般人がここにいる人間が、Sランクのヒーロー神前桜花だという認識は持てないはずなのだ。


 やっぱり見た目が……

 潜入前とは180度考えが違うが仕方がない。正直認めるしかなかった。


 しかし桜花がなんで、尾行や張り込みが苦手なのか理由はわかった。

 ナンパによって対象を見失うのが1つ。そして10人中8.9人が振り変えるような容姿の場合、対象の目にとまりやすいという最悪の欠点がある。


 仕方がないので桜花には、ビルの屋上を飛び渡らせて尾行してもらっている。身体能力に有無を言わせた作戦ではあるが、仕方がない。


「紅太郎」


「ん? どうした」


「すまない私のせいで……」


「いやそんなことはない。お前のせいじゃないから気にするな」


 突然の桜花の謝罪についつい慰めているような感じになってしまう。

 まあ本当に桜花が悪いわけじゃないから仕方ないのだけれども。

 

 しばらく歩いて行くと、対象が駅前の広場で立ち止まった。

 少しの間、観察していると、対象はしきりにあたりを見回したり、腕時計を確認し始めた。おそらく誰かと待ち合わせをしているのだろう。


「桜花。聞こえるか」

「うん」

「対象は待ち合わせをしているようだ。姿を現したら屋上からの遠距離でいいので撮影を頼む」

「ああわかった」


 桜花にはヒーロー専用端末による撮影を頼んだ。こんな人ごみに出てこられたら対象に気づかれてしまう可能性がある。


 紅太郎は人ごみにまぎれ、周辺に注意を払っていた。対象との距離は二十メートル強。閑静な住宅街ならばともかく、このような場所で気づかれる距離ではない。

 

 5分後、待ち人が来た。


「っ」

「何っ」

 思わずその姿に二人は息を飲んだ。


 犯罪組織ダイナストの幹部パララケルスがそこにいた。


「おまたせ」


 パララケルスは薄く微笑みながら対象に近づいてくる。化粧が濃く、その服装も露出度が高い。正直飲み屋のねーちゃんにしか見えないが、間違いなくパララケルスだ。


「……ぶち殺してやる」


 桜花は小さな声でつぶやくと、敵を殲滅するためビルの屋上から飛び降りようとする」


「おい待て! 任務を忘れるなっ!」


 紅太郎は急ぎ桜花を制止する。


「ここで二人を捕まえるのは、任務内容と異なる。捕えろという指示がない以上このまま尾行を続ける」


「……紅太郎」


 桜花は不満げにつぶやいた。怪人が目の前にいるのに、倒さないのは我慢ならないのだろう。


「もちろん悪事を働くようなら別だ。その時は遠慮なくやってやれ」


「……わかった紅太郎。その時は任せて。ヒヒっ」


「……」

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