特殊任務の依頼
英雄機関にもどった紅太郎は、検査の結果を伝え自室に戻っていた。
玉藻の扮する桜花の誘惑から、脱兎のごとく逃げ出した紅太郎は、予定よりも早めに自室に戻っていた。
あのやろー絶対におちょくってやがる。総帥だからって調子に乗りやがって。
……しかしあいつの変化能力は大したものだよな。能力の完全コピー。昔雪乃に聞いた話では、指紋や声紋はもちろんのこと、DNA検査や魔力、能力まで完全のコピー能力を持っているらしい。逆に弱い奴をコピーしてしまうと倒されるリスクがあるとか。
……よく考えたら玉藻が九条紅太郎をコピーして、潜入すればよかったんじゃねーか?
完全コピー能力。細胞レベルでの変化を可能とするならばもしかしたら記憶のコピーすら可能なのかもしれない。よしんば記憶のコピーはできなくても、少なくとも俺よりはうまく九条紅太郎を演じるのは可能なはずだ。
ただしかし、おそらく本人はまったくやる気がないだろうと紅太郎は考えていた。どう考えても玉藻の性格は潜入捜査に向いているとは思えない。地味な事はやりたがらないやつだ。
玉藻について勝手にそう結論付けた紅太郎は、本物の九条紅太郎の過去について思い返していた。
九条紅太郎に瀕死の重傷を負わせた怪人「ボマー」
当時の怪人ランクAマイナス。現在でも国際指名手配を受けている。ランクイコール強さというわけではないが、おそらくかなりやる奴なのだろう。
数年前九条紅太郎を負傷させた事件を境に、消息不明になっている。一説によると、ボマーもまたその場にいたヒーロー、神前桜花にやられたのが原因らしい。
得意技は名が体を示す通り爆弾。両手から爆弾を生成する能力を持っているらしい。
その爆縮はAランクのヒーローですら耐えられないとか。
しかしこの怪人、今の桜花に出会ったら惨殺されそうだな。九条紅太郎の仇なわけだしな。全身バラバラにされてもおかしくない。
昨日の悪魔の姿を思い返していると、
ピンポーン
来客を知らせるチャイムが鳴った。
「だれだ、雪乃か?」
そう言いながらドアを開けると、そこには桜花が少しすまなそうな佇まいで立っていた。
「ど、どうした?」
瞬間、紅太郎の頭の中に玉藻の変化した桜花の姿がよぎる。
「じ、実は。こ、紅太郎に付き合って欲しいところがあるんだ」
「っ!」
つい「付き合って」の部分を意識し動揺するが、紅太郎はその動揺を表に出さないように努めた。
こいつはどこかに行くのを付き合ってくれっていっているだけで、恋人になってくれとは言っていない。
「それでどこに付き合えばいいんだ?」
「実は指令から特別任務を言い渡されたんだが」
桜花は紅太郎に一枚の写真を差し出した。
「おい。俺にに見せてもいいのか?」
「ああ。その点は心配要らない。自慢じゃないが、私は尾行とかの隠密行動がひどく苦手なんだ。本来このような任務はあまり回ってこないのだが。指令からの直接任務を与えられた。紅太郎と2人で任務にあたるようにって」
「指令が?」
確かに九条紅太郎の入隊時のプロフィールには、一般的な諜報活動は全てこなせると記入した。
事実、雪乃からレクチャーを受けた紅太郎は意外にも、尾行や張り込みなどは得意だった。
だが、長年組織に在籍している桜花に特殊任務の指令が出るのはわかるが、入隊して間もない紅太郎とのコンビの依頼が来るのは不自然だ。
「……その……ダメだろうか?」
紅太郎の無言を拒絶の表れかと感じ、控えめに聞いてきた。
「いや、俺が良いとかダメとか決めることじゃないだろう。もちろん受けるよ。それでいつから何だ?」
「ありがとう紅太郎。実は急な話で明日からなんだ……」




