表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/52

中間報告

 桜花との戦いから数時間後。紅太郎と雪乃は秘密結社ナインライブズの玉藻の部屋にいた。


 紅太郎の負ったダメージはすさまじく、鎧にも多数のヒビが入っていた。


「これは回復にはかなり時間がかかりますね。紅太郎の鎧がここまで破壊されるのは初めてじゃないですか?」


「誰のせいでこんなになったと思ってんだよ」


 紅太郎は正直憤慨していた。集中力を欠いたところにくらった必殺のブリューナク。今度こそ冗談じゃなく死ぬかと思った。


「おや?すいませんね。別の任務の経過を聞いていただけなんですが、そんなに集中力がそがれましたか? 別に桜花さんのことを好きになったんじゃなければ問題ないと思ったんですが……」


「そ、そ、そ、そんなことねぇよ。べ、別にあいつのことなんか好きじゃねぇよ。あいつは強敵だ。任務の対象だ。怪人の俺がヒーローのあいつを好きになるわけがない」


「……ですよね~~。そんなわけないですよね」


 すると今まで黙っていた玉藻がおもむろに口を開く。


「まあ今日からまた英雄機関に戻るわけだから問題ないだろう。もう怪人化は封印したし、鎧も使わなければ自動修復する。肉体的ダメージはそこまでではないし、君の治癒力なら薬と合わせて2、3日あれば治るだろう」


 今回のナインライブズへの帰還は、あくまで検査のためという名目で外泊許可を得たため、3日ほどしか時間が取れなかった。


 今日の夜には英雄機関に戻らなくてはいけない。


「それよりも本物の九条紅太郎は大丈夫なんだろうな」


 紅太郎は念のため確認をする。このタイミングで本物に出て来られてはたまったものではない。


「ああ、その件は問題ない。彼はまだ施設で治療中だよ。私の息のかかった施設だしその点は抜かりない」


 玉藻の答えに紅太郎は胸を撫で下ろした。正直本物の九条紅太郎には少なからず悪いと思うが、これも任務だ。仕方がない。


「そういえば先日の事件で逃げた怪人が発見されましたよ」


 雪乃は世間話を話すかの様に話はじめる。


「ただ死体での発見になりましたけど」


「何!? どういう事だ? まさか桜花か?」


 紅太郎は真っ先に桜花の名前を出す。あいつなら力加減を間違えればあり得る。


「いえ多分仲間割れの可能性が高いですね。巨大な刃物で腹部に一突。犯人は最初から殺すつもりで攻撃を仕掛けてます。争った形跡もなく正面から一撃。実力差があればもちろん可能ですが……」


「口封じと考えるのが妥当かもね」


 それまで聞いているだけだった玉藻が意見を述べた。


「口封じってどういう事だ?」


「なに。こないだの事件。なんか目的はっきりしなくてさ。もしかして誰かに依頼人されたものなのかなって」


「……」


 玉藻の発言に、紅太郎は思わず押し黙る。

 確かに現場にいた紅太郎の目から見ても、あいつらの動きはおかしかった。


 何かを盗むでもなく、まるでヒーローと対峙したいがために事件を起こした様なものだった。


 それは紅太郎が桜花と戦いたいがために毎回やっている事だから、なおさらそう感じた。

 

「あ、あとこれは未確認情報ですが、サイタマ市内にSランクの怪人が侵入した様です」


「何っ? どこのどいつだ!!」


「そこまでは掴んでませんが、ヒーローとして我々が戦う可能性もあるので注意してください。怪人化のできない我々では勝てませんから」


 事実怪人になれない紅太郎達は、良くてもAランク程度の強さだった。


「… …いや。工夫すればもしかしたら……」


「いえ無理です。怪人化さえできればどうにかなるでしょうが、今の状態では確実にやられますので。自重してください」


「……まあ仕方ないか。今回は任務を優先する。終わったらそのSランク怪人と勝負だな」


「そうだ。その任務の件!!」


 玉藻は忘れてたとばかりに紅太郎に食いつく。


「桜花攻略の任務はどうなっているんだ? 今日の戦闘を見る限り全然弱体化したように見えないのだが……。むしろ凶暴性がましてないかい」


「あ……ああ」


 きっと六花が怪人のせいで負傷したからだろうな。おそらく目の敵にしているんだろう。


「まあ少なくとも弱体化はしていないな。そもそも桜花は俺の事を好きになっているわけじゃないから、弱くなるわけはないんだが……」


「どちらかというと、弱くなったのは紅太郎の方ですよね」


 横から雪乃が口を挟んでくる。


「……ほう」


 玉藻は興味津々といった感じでなめるような目で紅太郎を見てきた。


「いやっ! そんなことねーよ! 今日のは戦闘中に雪乃が話しかけてきたから調子が狂っただけで……」


「やっぱり紅太郎が桜花さんに恋してしまったから弱くなったんだと思います」


「だからちげぇ――っていってんだろ!」


 照れ隠しと誤解を解きたいのとで紅太郎は大声で叫ぶ。

 しかしその程度では色々な意味で強者の、女子二人の勢いを衰えさせることはできなかった。


「いえっ、そうとしか思えません。二人は一つ屋根の下で一晩(飯)過ごしたと聞きました。もう既成事実(抱き合ってた)もありますし間違いないです」


「そうなのか紅太郎。ついにお前も大人の階段を上ったのか。さあ特に一晩の部分をお姉さんに詳しく話してごらん」


 二人は鼻息を荒くして紅太郎に詰め寄る。

 ――ダメだ。こいつら話を聞く気がない。かくなるうえはっ!!


 覚悟を決めた紅太郎は素早くドアへ向かってダッシュする。しかし玉藻の動きは早く、紅太郎をはるかに上回る速度で回り込んできた。


「君に選択肢はないよ。紅太郎」


 ドアの前に立ちふさがった玉藻は、不吉な笑みを浮かべていた。


 前から思っていたが玉藻のスペックは相当に高い。研究成果や思考力はもちろんの事だが、こと戦闘力に関しても、最低でも怪人化した紅太郎と互角に戦える力はあるだろう。腐ってもナインライブズの総帥なだけはある。


「なんだいその眼は。何か失礼なことを考えていないか?」


「いや別に……」


「まあいい。それはそうと君には訓練の必要がある」


「訓練?」


「ああそうだ。雪乃の報告を聞いている限り、君は神前桜花との接触に必要以上に緊張しているようだ」


 紅太郎は雪乃を睨んだが、雪乃の表情はまるで変わらない。


「いやだからしょうがねーだろう!! 俺は女と付き合ったことなんかねーんだから!!」


「そこでだ。私が免疫をつけてやろうと思って……なんだその露骨に嫌な顔は!」


 いや。嫌そうな顔もするだろう。見た目はともかくとしても、自分の生みの親と女の免疫をつけろ、と言われても正直困る。


「安心しろ君は私では訓練にならないと考えているのだろう? いや心配するなもちろん雪乃でもない。先日命令したら自害すると言われてしまってな。私もこんなことで優秀な部下を失いたくない」


「ええそうですね。紅太郎と性交に及ぶくらいなら死んだ方がましです」


 紅太郎はあわてて玉藻の方をみる。


「いや別にそこまでしてくれとは言ってない。接吻くらいまででいい」


「嫌です。どうしてもというなら自害します」


「ははは、まあそんなわけで雪乃にお願いするのはあきらめたよ」


 玉藻は笑っているが、聞かされた紅太郎の胸中は穏やかではない。

 雪乃の奴死ぬほど嫌なのかよ。やばい、ちょっと泣きそうになってきた。


「結果として訓練は、神前桜花に変身した私が付き合ってやろう」


 玉藻はその小さな体をくるっと一回転ターンすると顔だけでなく、姿形、服装までもが神前桜花のそれになっていた。


「なっ」


 さらさらのロングヘアー。引き締まった肉体。ぱっちりとした目。何もかもが神前桜花だった。


「さあ練習をしよう紅太郎」


 そういうと桜花の姿をした玉藻が、桜花の声、口調で紅太郎の近くへとよってきた。


「れっ、練習って何をすればいいんだっ! いやいいから近づいてくるなって」


「そうだね。まずは何から始めようか……そうだっ」


 玉藻は紅太郎の手を両手で握りしめ腕をからめる。

 予期せぬ感触、自身のひじに当たるやわらかな感触に、紅太郎は体を逸らし顔をそむける。


「お、おいお前何すんだよ。ちょっ、離れろって。」


 照れ隠しに腕を振り回し紅太郎は玉藻を腕から話そうとするが、さすがは桜花のコピー。能力までもコピーしているようで、まったく振りほどけそうもない。


「なんで離れなきゃいけないの? ……もしかして…………嫌だった?」


 目を潤ませながら上目づかいで紅太郎のことを見つめてくる。

 これは演技だ。だまされるな。これは玉藻なんだ。本物の桜花じゃない。


「い、いや嫌なわけでは……ない」


 紅太郎は蚊の鳴くような声で答えた。顔は紅潮し胸が苦しい。


「嫌じゃないんだったら……」


 玉藻は紅太郎の手から片方の手を離し、紅太郎の背中に回し抱きしめる。


「キスして……」


「んがっ」


 桜花の姿をした玉藻は目を瞑り、紅太郎の顔に向け少し顔を上向ける。


 れれれれ冷静になれ紅太郎。これは玉藻なんだ。決して桜花ではない。


 い、いやっ本物だったからと言って別にどうということはないんだ。俺は奴をほ、惚れさせるために潜入している。いずれはこういったこともしていくんだっ!


 紅太郎の頭の中はいまだかつてないほどのパニック状態になっていた。

 二、三秒紅太郎が硬直していると、玉藻の両腕が紅太郎の首に回ってきた。


「くっ……」


 か、顔が近いっ。本物と同じようないい匂いがしてきた。まずいっ。このままだと。


「うおぉぉぉっ」


 我慢できなくなった紅太郎は、力任せに玉藻を壁に向かってブン投げ、一目散にドアの外に駆けって行った。


「いやー予想以上の反応だったね。やっぱり若人には刺激が強すぎたかな」


 まだ変身を解いていない玉藻は軽く受け身をとり、桜花の姿でにやにやと笑う。


「いえ、これで紅太郎もより強く桜花さんの事を意識するでしょう」


「そうかな。まあどっちにしろ計画は次のフェーズに移行するみたいだね。もしもの時は頼むよ」


 紅太郎のいなくなった室内で、雪乃は黙って頷いていた。

本日数話投稿予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ