その後の2人
六花が負傷してから数日が経過した。
あの日、目を覚ました六花は、その日に退院できそうなほど元気だった。しかし怪我をした場所が場所だけに、検査を徹底的に行うこととなった。
しぶしぶながら了承した六花だったが、今日めでたく検査を終え、明日には退院の運びとなっていた。
「ところで」
紅太郎の装着したインカムから雪乃の声が聞こえてきた。
「救急車の中ではずっと手を握っていたそうですが、何か進展はありましたか」
「な、なななっ」
ヒュッ
慌てふためく紅太郎の顔の近くを、超高速で動く何かが掠めていく。
「お前どこで見てたんだよ!! 救急車の中だぞ」
今紅太郎の頭には泣きじゃくっている桜花の姿が浮かんでいる。
普段の悪魔の様な姿からは想像できない、歳相応の普通の女の子の姿だった。
しかしいま目の前には悪魔がいる。
「ヒヒッ。殺してやるぅ。殺してやるぞぉー」
確実にヤっている顔だ。
今日のテンションはいつにも増してヤバイ。
桜花は、おおよそ快楽殺人者の様な顔をしながらこちらを睨んでいる。正直あまり目を合わせたくない。
ヒュン
風をきる音と共に桜花の姿が掻き消えた。
しまっーー
「ふんっ」
桜花の光り輝く拳がシールドを突き破り、紅太郎の巨体をくの字に曲げる。
「ぐっ」
何とか両手で受け切ったものの、その衝撃は殺し切れず、そのまま十メートルほど吹き飛ばされる。
「あと病院で不謹慎にも抱きしめあっていたそうですね。ひゅーひゅー」
桜花の笑顔。体の柔らかさ、その香りを思い出し紅太郎は赤面した。
「おいっ! 今いうことじゃねーだろ! 戦闘に集中させてくれ」
紅太郎は照れ隠しに叫んだが、あながちその指摘は間違っていなかった。
高層ビルが立ち並ぶビジネス街で、紅太郎と桜花が再度戦っていた。
「誰と喋ってんの〜」
「うヴォオオオ」
腑抜けた声と共に放たれた桜花のとび蹴りを、身をひるがえし間一髪で躱す紅太郎。
そんな紅太郎の状況を無視して、雪乃は言葉は続ける。
「……もしかして、紅太郎の方が先に桜花さんのこと好きになりましたか?」
「ち、ちち、ちげーよ。そんなことねーよ」
戦闘中にも関わらず、紅太郎の意識は強制的に雪乃の言葉に反応してしまう。
「そりゃあヒーローの時のイメージと違って女の子らしいところもあるし、普通に見ると見た目もかわいいし、性格もまじめすぎるところもあるけどそれがまた……」
ふと紅太郎は自分が肯定していることに気付いた。
「ち、ちがう俺とあいつは強敵なんだ。ほら強敵と書いて友と読むってやつだグボッ」
ズシャァァァ――
桜花の機動力を生かした死角からの回し蹴りが、紅太郎の脇腹をまともに捉える。
紅太郎の巨体は宙に浮き、キリモミ状態で建物内部のエレベータホールまで吹き飛ばされていた。
「ヒヒッやる気ないのかな! ないなら殺しちゃおうかな〜」
そうは言いながらも、あまりの手ごたえのなさからなのか、紅太郎の様子を鋭い目つきで観察していた。
何か狙いがあると勘違いしている様で、すぐに追撃には来ないみたいだ。
「なんですかグボッって。新手のユルキャラですか。ちょっとかわいいですね」
「ぐ……ふぅ、違うから。モニターしてんだろ……神前の蹴りがまともに入ったんだよ」
しかし今の攻撃は効いた。防御力特化の特製のおかげで死なずに済んだか、それでも紅太郎の負ったダメージは相当のものだった。
「? そうなんですか。ちゃんと戦闘に集中してくださいね」
「てめぇ後でマジで覚えてろよ」
「あ、ほら桜花さんが建物内部に入ってきましたよ。注意してください」
あまりにもな扱いに、文句を言いたいのはやまやまだったが、対峙する桜花がそれを許さなかった。
「何か企んでるのかな? まーどっちでもいいやぁ。殺しちゃえば同じだし!!ヒヒヒっ」
紅太郎の目には、先日の少女と目の前にいる悪魔が、同一人物とはどうしても思えなかった。




