人質
「き、貴様ら動くな。動いたらこいつの命はないぞ」
声がする方を向くと、怪人が小さい子供の首筋にナイフを押し当てていた。
「おい!! 見てわかんねーのか。人質とってどうにかなる状況じゃねーだろうが」
紅太郎は怪人に諭すように語りかけた。
よく見ると怪人の足は震え、ナイフを持つ手も激しく震えていた。
ここまで来ると逆に危ない。
下手に刺激を与えると、暴れて人質を傷つけかねないからだ。
「この子供を殺されたくなかったら、そこの三人を引き渡せ」
思ったよりも仲間想いの怪人らしい。しかしこいつらわたしても構わないが、3人ともピクリとも動かねーぞ。
しかし人質をとられている状況にも関わらず、紅太郎は正直楽観視していた。
こちらには神前桜花がいる。
怪人の注意を紅太郎自身に向けておけば、桜花が一瞬にして間合いを詰められるはずだ。
どちらかというと心配なのは、人質に怪我の無いように救出できるかどうかだ。
戦闘中のイカれた状態の桜花なら、人質もろとも殺しかねない。
そう思い紅太郎は、怪人に気づかれないように、こっそり桜花の様子を確かめた。
結論から言うと桜花の様子は、紅太郎の予想とは予想と大きく異なっていた。
全身は激しく震えて、目の焦点は定まっていない。
身体はすくみ、一歩も動けない状態だ。普段でも白い顔が極端に青白くなっていた。
「!?」
「動くんじゃねー!! て、てめぇ、動いたら殺すからな!!」
神前の奴一体どうしたんだ?
紅太郎は目の前の怪人に構わず、一歩踏み出しそうになるが、慌てて踏みとどまる。
「一歩でも動いたら殺すからなぁ!! わかってんだろうな。後は車だ!! 車を用意しろ!!」
怪人は狂ったように叫ぶが、車を用意したところで人質は解放されないだろう。
しかし時間稼ぎが必要な事も事実だった。
「おい。今から本部に連絡を取ってみる……車も用意できるかもしれん。だから人質を傷つけるのはやめろ」
紅太郎がそう言った矢先、一台の乗用車が凄まじいスピードでカーブを曲がり怪人のいる方に唸りをあげて加速してきた。
「え?」
呆然としている怪人はなにが起こったか理解しておらず、その間に車はさらに加速して突っ込んでくる。
まずいっ!!
紅太郎は怪人に向かって全速力で駆け出していた。
「うわあぁっ!! く、来るなぁー」
怪人は紅太郎が突進して来たのに気づくと、人質を放し逃げ出した。
しかし乗用車はさらに加速し、そのまま倒れこんだ人質に向い猛スピードで突っ込んでいく。
くそっこのままじゃ間に合わない。怪人にさえなれれば!!
変身のための演算を開始するが、案の定変異は起こらない。
「おい桜花っ! 動けっ!! お前なら間に合うっ」
走りながら桜花に向かって叫ぶが、うつむいてその場を動こうとしない。まるで紅太郎の声が聞こえていないかのようだった。
「くそっ」
この状態じゃ桜花はあてにできない。
しかしこのままでは間に合わない。
あきらめかけたその時ーー
六花がどこからか現れた。
「受け取りなさいっ」
六花は力任せに人質を投げ飛ばす。
「うおっ」
間一髪人質をキャッチする紅太郎。
全く無茶しやがるぜ。
そう思ったその瞬間。
紅太郎が目にしたのは、猛スピードの車に吹き飛ばされた六花の姿だった。




