露払い
「お姉さまの料理を完食なさったですって!!」
先日の事件の顛末を話すと開口一番、六花は声を荒げて叫んでいた。
「うん。紅太郎は終始美味しいと言ってくれてさ。ちょっと作りすぎて土鍋いっぱいあったんだけど、全部食べてくれたんだ」
「しかも土鍋!?」
六花は以前食べた桜花の手料理の味を思い出していた。
排気ガスの様な匂い。
鉄さびを煮込んだかの様なエグみ。
ブヨブヨの触感
そして謎の怪しい酸味。
その食べ物が与える全ての感覚が、食べる者の吐き気を誘っていた。
六花からすれば、敬愛するお姉さまの手料理を残す訳にはいかない。
全身に汗をかき、震える体にムチを打ち、どうにか完食することができたが、もう一度同じことが出来る自信はなかった。
いま思い出しただけでも、全身からダラダラと汗が吹き出る。
しかしおかしい。
六花の感覚ではあんなものを食べきれるのは、自分の様に下心のある人間しかいない。
つまり紅太郎はお姉さまに下心があるという事になる。
「よし。やっぱり始末しましょう」
お姉さまに変な虫がつく前に駆除しなくては!!
善は急げと、六花は右手に武器を持ち食堂の出口へと向かった。
「は?ど、どうしたの?なんでそんな話になるの。とりあえず落ちついて座りなさい」
桜花に宥められて、六花は食堂の席に戻される。
仕方なく食事を再開するが、六花の頭の中からは紅太郎に対する疑念は晴れていなかった。
「それでね、明日街を案内することになったんだ。2人とも非番だから丁度いいし」
「はいぃぃぃ!?」
街を案内?誰と誰が?まさか2人で?
「認めませんわ!!認めませんわよ」
「どうしたの?もしかして六花も来たかった?でも明日は六花はパトロールの日でしょ?」
「くぅー」
確かに、明日は六花はパトロールの日だった。
組織内の手は足りている。六花が1人休んでも大丈夫だが、急の休みは周りにも迷惑をかける。何より桜花が良い顔をしないだろう。自分は繁華街に出て、パトロールをしなくてはいけない。なんとかならないかと考えていたところに、六花は名案を思いついた。
「お姉さま」
「ん?」
「明日の案内ってわたくしもご一緒してもよろしいですか?」
「もちろんいいけど、仕事は大丈夫?弓塚さんに迷惑かけちゃダメだよ」
「ええ多分大丈夫ですわ。実質的戦力の増加につながるわけですし」
「増加?」
「こちらの話ですの。後で明日の予定を詳しく教えてくださいましね」
六花は満面の笑顔を浮かべていた。




