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調査結果

 紅太郎たちが英雄機関に潜入してから一週間が経過した。


 まだ潜入期間は短いものの、調査の結果いくつか分かった事があった。


 まずは分かったのは、神前桜花の普段の性格及び容姿だ。

 品行方正、眉目秀麗。その長く伸びた黒髪は容姿と相まって、まさに大和撫子を体現していた。


 この評価は紅太郎にとっては非常に納得のいかないものだったが仕方がない。(普通大和撫子はゲラゲラ笑いながら怪人を殴って、その拳を血に染めたりしない)


 怪人として戦っていた時には、ドス黒いオーラを全身にまとっていた。しかし普段の桜花はそんなことは全くなく、その全身は陽光を思わせるオーラに包まれていた。


 正直人違いではないかと思ったぐらいだ。


 日曜日の朝、朝食を作るべく調理台の前に立った紅太郎は、そんなことを考えながらジャガイモの皮を剥いていた。


「おーい雪乃」


 桜花の詳しい調査内容を聞くため、紅太郎は調理を続けながら雪乃を呼ぶ。


「ん?なんですかチキン野郎」


 対する雪乃は、手に持った漫画から一ミリたりとも目を逸らさずに、紅太郎の問いに答えていた。


「……」

「すいません間違えました。あなたの名前は紅太郎でしたね。あーチキンが食べたいな」


 雪乃は紅太郎が潜入初日に、既成事実を作らなかったことが不満だった。以来、ことあるごとにねちねちと紅太郎いびっているのだった。


「一週間も前のことをネチネチと。会ったその日に何期待してんだよ。つーかあの手紙の中身はなんだ? あんな物使うわけねーだろ!」


 『あんなもの』の正体を思い出しながら、紅太郎は雪乃に詰め寄る。


「まさかいきなりノーガードの打ち合いですか!?学生ですし控えたほうがよいかと思いますが」


 雪乃は漫画から目を外し、わざとらしく手を口に当てながら驚愕の表情を作って見せる。


「ちげぇぇ―よ。使う機会がないっつってんの! 俺と神前はそういう関係じゃないんだよ!」


 紅太郎はバンバンとテーブルたたき抗議する。対する雪乃は手元の漫画に目を落としたままで、紅太郎の方を見ようともしない。


「これだからチェリーは……」


 ブツブツブツブツ


「…………」

 

 再び無言になる紅太郎。


「あっすいませんまた間違えました。あなたの名前はチェリー紅太郎でしたっけ?さくらんぼっておいしいですよねー」


 こいつマジで一回ぶっ殺してやろうか。と紅太郎は手にした包丁に力を込めた瞬間、


「これが調査結果です」


 雪乃は足元の鞄から封筒を取り出し、テーブルの上に置いた。


「今回の調査は男子学生を中心にしました。調査内容は、神前桜花の事をどう思っているかです」


 紅太郎は調理を一時中断し、レポート用紙をめくっていった。


 ・高嶺の花

 ・かわいいけど付き合うのは無理

 ・完璧すぎる

 ・強すぎる。どっちが怪人かわからない。

 ・何十人もの怪人を素手で吹き飛ばしている姿はまさに悪魔。

 ・観賞用。

 ・美人だとは思うけど、人間離れしすぎている。

 ・ペロペロしたい。

 

「……なんだ……この回答」


「優秀すぎる。強すぎる。美人過ぎる。人間とは思えない。などが回答の主でしたね。一部に熱狂的なファンはいましたけど、あれは恋愛対象とは違うようです」


「ふざけんなよ。みんなてめーが駄目なだけじゃねーか。優秀だと悪いのかよ」


 自分のふがいなさを原因に、桜花のことを悪く言われるのは、正直気分が悪かった。


「ずいぶんとかばうのですね」


「ま、まーなっ。俺のライバルだからな。他のやつに悪く言われるのは気に食わないだけだ」


「……そうですか……恋愛感情に発展するのは時間の問題ですね」


 つぶやいた雪乃の声は、蚊の鳴くような大きさだったため、紅太郎には聞こえなかった。



「ところで次の作戦は考えているのですか?」


 紅太郎は調査結果に雪乃は構わず言葉を続けた。


「あれから何度もチャンスはありましたが、幼馴染という関係のままです」


 事実、ただの幼馴染なのだからしょうがないだろう。紅太郎は反論しようと口を開きかけたが、雪乃に遮られた。


「では次のステップです。告白してみましょう」


「はあ!?」


 あまりにもな提案に、紅太郎は言葉を失っていた。


「もちろん今告白して成功するとは私も思っていません。しかし告白されてから相手のことを気になり始めるというケースが多いのは事実です。まずは「その他大勢」からの離脱を目指すのです」


「どこの情報ソースなんだよそれは?」

 

「これです」


 紅太郎の前に数冊の本が置かれる。どれも少女マンガだった。


「弓塚さんから借りました」

「いやでもこれはさあ……」

「なかなか参考になりました」


 雪乃は文献のような扱いをしているが、紅太郎の胸中はそうではない。正直、漫画はないだろう。


「いいですか」


 紅太郎と雪乃は長い付き合いだったが、こんなに興奮している雪乃を見るのは初めてだった。


「好きの反対は嫌いではありません。無関心です。神前さんにとって特別な存在になりましょう」


「それとも、振られるのが怖いのですか?」


「そんなことない。やるよ。やってやるよ。やればいいんだろ」


「すでに手紙は送っておきました。明日の昼休みに約束してあります。場所は屋上ですのでよろしくお願いします」


 正直はめられたと思ったが、後の祭りであった。

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