本日のお姉様は、はぐれてしまいました。
私生活が色々ありましたが、やっと落ち着きました。
しばらくすると馬車は止まり、目的地へ到着した。
支えを借りながら馬車を降りると、降り注ぐ陽光に一瞬目を細める。それでも、耳に届く賑やかな声と目の前に広がる光景に、フローラの胸は期待で高鳴り、その高揚を抑えることはできなかった。
フローラにとって、王都を訪れるのは初めてだった。
幼い頃から病弱で、屋敷の外へ出ることはほとんどなかった。そのため、目に映るものすべてが新鮮で、胸が躍る。
(あれは、何かしら?)
(すごい……! あちらは――)
もうすぐ国王陛下の生誕祭を迎えることもあり、王都は普段にも増して多くの人で賑わっていた。
「ねぇ、ミアン! あちらは……」
そう声をかけて振り返る。
しかし、その言葉に応える者はいなかった。
隣にいるはずのミアンの姿が、どこにも見当たらない。
「お姉様……?」
慌てて辺りを見回す。
しかし、一緒に来ていたミアンも、ロゼリアの姿も、人混みに紛れて見つけることはできなかった。
「ど、どうしましょう……」
胸がどくどくと音を立てる。
屋敷の外へ出ること自体ほとんどなかったフローラにとって、人で埋め尽くされた王都はあまりにも広く、どこを見ても知らない景色ばかりだった。
(きっと、お姉様にご迷惑をおかけしてしまっているわ……)
今回王都を訪れた目的は、来月から始まる学園生活に必要な品を揃えることだった。
病弱なフローラを案じ、父は本来なら屋敷で待っているよう勧めていた。しかし、フローラが「自分の目で見て選びたい」と、珍しく小さなわがままを口にしたのである。
その願いを受け入れる代わりに父から出された条件は、決してロゼリアとミアンのそばを離れないことだった。
それなのに――。
震える指先を、どうしても止めることができない。
「……お姉様」
その名を小さく呟いた、その時――
「そこのお嬢さん。大丈夫かい?」
背後から、穏やかな男性の声が聞こえた。




