ギルドマスターがホッカイの家も造ります
農業をしている時のホッカイはだいたいデフォルメされた二頭身の姿をしている。
畑を眺める今もその姿だ。
その目は汚れを知らぬ少年の目。
その目に映るのは。
可愛らしい双葉が列になって生えている。
「むふー」
初めて自分で作物を育てた。
初めて芽が出た。
小さく愛おしい生命。
いくら眺めていても全く飽きる気がしない。
「は~い、ホッカイ君いい加減ずっと眺めてるのやめようね~。おうち入ろうね~」
イバラークに引きずられてホッカイの家(良く言えば)に入る。
木製の大きな箱に屋根だけ付けたような建物である。
ホッカイの力作だ。
中には既に人がいた。
アキータだ。
美しい黒髪には一切のくせがない。
怜悧な美貌は並の男を寄せ付けない。
「ホッカイ、ずっと眺めてる暇が有るんなら家をもっとどうにかしなさいよ」
ホッカイがしゅんとする。
確かにこれでは掘建て小屋だが。
「人には向き不向きがあるからな。いずれちゃんとしたものにすればいいだけだろう」
「駄目よ。今が大事なの。エヒム君のところもそろそろ追い出されそうだから!」
「貴様が居候する都合かい!?」
この発言からすると、エヒムのところに入り浸っていて家に帰っていないっぽい。
本当はホッカイの所に居座るつもりだったんだろうが、住環境があまりよろしくないので気がすすまないのだろう。
結果、何日もエヒムのところに居候していた、と。
確かに、ホッカイの所はトイレ事情も上等とは言えないので、女性の身としては住みづらいのかもしれない。
王都は下水が通っているので、トイレの処理水を下水に流すだけでよいが、ここでは汚物の処理装置を造らなければならない。
仕組みは単純だが、仕組みを知っているかいないかでだいぶ違う。
まず、地面に傾斜をつけて穴を掘る。
可能なら一枚の岩の板を敷くのが良いが、重量的にきついので大体は石を敷き詰める。
穴の底にはスロマイトとという石を置いておく。
これは穴をふさがない程度には多めに入れておくと良い。
このスロマイト、実はスライムの化石で有機物を分解していくのだ。
しかも処理能力が高いので、下水がない地域ではこの方式のトイレが主流である。
ほぼまっさらな水になる上に臭いもしっかりとる。
そして処理するとしばらく熱を発する。
火事になるほどではないが、触れるとやけどするくらいにはなる。
ちなみに、普通に店で売っているし、少しダンジョンにもぐれば普通に手に入る石なので高価でもない。
そしてキレイになった水はそのまま土に染み込んでいくので、余程一度に汚物を流さない限りはあふれる事もない。
ホッカイが家を建てる時にイバラークが仕組みは教えていたので機能的には問題無いのだが、壁や便座などの造りが雑だった。
壁は薄いし隙間が有る。
覗こうと思えば覗ける。
当然、音も気になるだろう。
トイレの問題以外にも。
調理スペースはない。
部屋が仕切られていない。
家具が極端に少ない。
窓が木の板でふさぐか開け放しかの二択。
天井は無く、すぐ屋根。
しかも雨漏りする。
漏るのは雨だけではなく、壁からは隙間風が漏れてくる。
そして、悲劇の時間がやってくる。
ホッカイの家がガタガタと音を立て始める。
地震ではない。
風だ。
壁の隙間から音を立てて風が入り込む。
そして屋根も壁も吹き飛ぶ。
『あ~・・・・・・ここにいたか、イバラーク』
ホッカイの家を吹き飛ばした犯人はドラゴンのシニオレだった。
空を飛んでここまで来たようだ。
巨体を中に浮かす風はそりゃもうスゴい。
ホッカイの家を吹き飛ばすくらいには。
ホッカイが半泣きだった。
『すまん事をしたか・・・・・・』
「あぁもう、俺が家造ってやるから泣くなよ! シニオレ! 手伝えよな!?」
翌日からイバラークとシニオレで家造りをするのであった。
みなさん、いつも読んでくれてありがとうございます。
嬉しいことにホッカイの土地で芽が出ました。
なのにですよ。
やっと農業っぽくなりそうだったのに、何よ家の問題って。
ホッカイが上手に家を造れなかったので、農業はまたお預けです。




