R038話 乗り込む者達①
1942年夏 『日本 横須賀』
「うぉーこれに乗るのか。でっかいなぁ」
「10日の船旅だってさ」
「早く戦いてぇ」
軍服を着た男達が列を作って空母エンタープライズへの乗艦の順番を待っていた。
彼らは「桜華外班」の者達であり、アメリカ西海岸に新たに造られた航空基地「第八十八特別航空基地」に配属されるパイロット達だ。
乗艦を待たされている列の中で、渡された寝台の割当表を暇潰しに見ていた観津規斎文が隣の男に声を掛けた。
「おい、歌座、同室だってよ。宜しくな」
「ああ」
大して興味もなさそうに暗い声で歌座真親が返答する。
「先輩達、見て下さい。あの戦闘機、アメリカのカーチスじゃないですか!」
小柄な若い男、木無吾葉の指差す方を見ると、戦闘機がクレーンで吊り上げられエンタープライズの飛行甲板に運ばれている。
それは正しくアメリカのカーチス社製のカーチスP40Eキティホークだ。
「おお、そうだ。キティーだ。あれを持っていくのか」
髭もじゃで髪の薄い太目の男、愚烈虞が肯定する。
その時、エンタープライズに積み込む物資を降ろし終えたトラック数台が移動し、その向こう側が見えた。
そこには積み込まれる飛行機が並んでいるのが見える。
「おい、あっちにあるのはハリケーンだ! バッファローもあるぞ!」
細身の男、鳥横蓮も指差した。
ハリケーンはイギリスのホーカー社製のホーカー・ハリケーンMk2B戦闘機だ。マレー攻略戦で陸軍が鹵獲した物だ。
バッファローはアメリカのブリュースター社製のブリュースター339Dバッファロー戦闘機だ。ジャワ攻略戦でオランダ軍が使用していたのを陸軍が鹵獲した。
これらの鹵獲された飛行機は日本に運ばれ調査され国民に一般公開された後、ここに運ばれて来た。
史実でもこれらの戦闘機は実際に鹵獲され日本で国民に一般公開されている。
「おい、あそこに見えるのはメッサーじゃないか! ハインケルもあるぞ!」
見守丹都津が驚きの声を上げた。
メッサーと呼ばれたのはドイツのメッサーシュミット社製のメッサーシュミットBf109E7戦闘機。
1941年に陸軍がドイツから3機輸入し研究された。
ハインケルと呼ばれたのはドイツのハインケル社製のハインケルHe118急降下爆撃機だ。
1938年に陸海軍がそれぞれ1機ずつ研究用に輸入した単発の爆撃機だ。
「あっちにあるのはドヴォアチーヌじゃないか!」
観津規斎文も驚いている。
ドヴォアチーヌと呼ばれたのはドヴォアチーヌD510J戦闘機。
1935年に研究用として2機輸入されたフランスのドヴァチーヌ社製の戦闘機である。
プロペラの中心軸に20ミリ機関砲を搭載するモーター・カノンが特徴だ。
「あそこにあるのは見た事が無いな」
「あっちのもだ」
愚烈虞と、鳥横蓮が首を捻っている機体もある。
それらの1機はチャンス・ヴォ―トV143戦闘機だ。
1937年に陸軍が研究用として1機輸入したアメリカのチャンス・ヴォ―ト社製の戦闘機だ。
キ12試作戦闘機もある。
陸軍が中島に命じドヴォアチーヌD510J戦闘機を参考に1936年に1機だけ製造された試作戦闘機だ。
モーター・カノン付のエンジンの構造が複雑な為、正式採用は見送られた。
キ28試作戦闘機もあった。
陸軍が新型戦闘機の競作を中島、川崎、三菱に行わせた時に、川崎が1936年に2機製造した試作機である。この時は中島の試作機が九七式戦闘機として正式採用された為、この機は採用されなかった。
キ60試作戦闘機の姿もある。
陸軍が川崎に指示して造らせた防空用高速戦闘機の試作機で1940年に3機製造された。
しかし同時期に試作されたキ61の方が優れていると判断され三式戦闘機飛燕として採用された為、このキ60は不採用となった。
鹵獲機、研究用輸入機、不採用となった試作機のオンパレードだった。
多種多様な飛行機が一ヵ所に集まっている。
非常に珍しい光景だ。
しかし、それが日常となる航空基地がアメリカ西海岸にこれからできる。
それが「第八十八特別航空基地」だ。
これらの戦闘機はこの最前線の基地に運ばれ使われる事になるのだ。
そして、その戦闘機に乗るのは「桜華外班」のパイロット達だ。
彼らは傭兵出身だ。
群雄割拠し戦乱の絶えない中国で、これまで傭兵パイロットとして活躍していた。
しかし、その真の正体は当然「桜華」の孤児だった者達である。
他の桜華部隊の兵士達とは違い、パイロットとしての技量を磨く事を優先的にされて来た兵士達だ。
桜華としての思想教育は他の桜華の兵士達ほど狂信的には教育されていない。
それに傭兵として渡り歩いて来たせいか規律は乱れがちで軽いところや逆に暗すぎる者もいるが、長年の傭兵暮らしで腕は一流揃いである。
これから彼らはアメリカの大空で戦う事になる。
「第八十八特別航空基地」で。
エンタープライズに乗艦する列が動き出した。
「おい、行くぞ」
鋭い眼光をした細身の男が皆を促す。
彼こそは、この男達の隊長、咲馬首太吾瑠だ。
男達は隊長の命令に従いダッフルバッグを片手で背負うと進み始めた。
アメリカの大地で彼らを待ち受けるのは果たして……
【to be continued】




