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R036話 大西洋に吹く風

 1942年5月◯◯日 『スペイン 大西洋岸』


 スペイン各地の港より改装空母3隻、駆逐艦12隻が出撃した。


「桜華の壬(みずのえ)班、大西洋打撃艦隊」である。


 書類上は全ての艦艇がタイ海軍向けにスペインで建造されたり改装された艦であり、その後タイ海軍は南米のスクラップ業者に売却した事になっている。 

 

 これらの艦艇はそれぞれ大西洋上の定められた3ヵ所のポイントに3隊に分かれて集結する事になっている。

 以後3隊はそれぞれ作戦を行う事になっていた。


 そのうちの1隊が向かう先は南米とイギリスを結ぶ航路である。


 アメリカからイギリスへの戦略物資の輸送は未だ壊滅的状況だった。

 アメリカ国内は酷い状態にあり、イギリスへ戦略物資の輸出をするどころでは無い。


 そうなるとイギリスにとり重要な輸入場所が南米となるのは必然だった。

 ベネズエラの石油やブラジルやアルゼンチンからの食糧の輸入はイギリスにとり必要不可欠なものとなる。


 史実においてイギリスは1942年に食糧不足に陥っている。

 ドイツのUボートの活躍のおかげで多くの輸送船が沈み、食糧の国内消費量が国内生産量と国外からの輸入量を上回ったのだ。

 前の年からの食料の在庫分があったから切り抜けられた。

 もし、それが無ければイギリスでは餓死者が出ていたかもしれない。


 今回の歴史ではアメリカからの食糧輸入が完全に途絶した。

 それ故に南米からの食糧輸入は是が非でも続けねばならない生命線となったのである。


「桜華壬(みずのえ)班、大西洋打撃艦隊」はその補給ルートを寸断する為に出撃した。

 作戦は輸送船団への一撃離脱。

 イギリスに脅威を与えイギリス海軍の戦力を引き付ける。


 そうすれば、Uボートの活躍が更に期待できる。


 史実においてUボートは大戦後半にイギリス海軍とアメリカ海軍にその活躍を封じられてしまう。

 だが、それは1943年後半からであり、アメリカ海軍が護衛空母を大西洋で運用を開始してからの事だ。


 今回の歴史ではまだ1942年。しかもアメリカは今はあてにできない。

 それに加えて「桜華壬(みずのえ)班、大西洋打撃艦隊」がイギリスの海軍戦力を引き付ければ……


「桜華、壬(みずのえ)班、大西洋打撃艦隊」は正面から戦う必要は無い。

 ドイツの仮装巡洋艦やポケット戦艦の通商破壊作戦と同じである。

 叩き、逃げ、引っ掻き回す。

 その為の「大西洋打撃艦隊」だ。

 

 補給は南米から船が出る。


 開戦前に既に南米各地の港に手配済みである。

 その殆どはアメリカ船籍だ。

 建て前は戦争が始まりアメリカ本土が酷い事になっている為に帰航を見合わせているとしている。

 実際には閑見商会のダミー船会社の船であり、実態は桜華部隊運用の補給船だ。


 似たような事は史実でドイツも行っている。

 戦争が始まりドイツに帰航できなくなったタンカーを南米で無期限待機状態に入らせ、ドイツの仮装巡洋艦やポケット戦艦が通商破壊作戦を開始すると、南米から出港させ、燃料補給を行わせている。


 ドイツの場合は計画的なものでは無かったが、桜華部隊の場合は大々的な計画として行われている。


 残る2隊も通商破壊作戦を行うが、その前に一つの作戦を実行する予定だ。

 


「桜華、壬(みずのえ)班、大西洋打撃艦隊」の活躍する時が刻一刻と迫っている……


 【to be continued】

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