R029話 小競り合い
1942年2月 『カリフォルニア州 港町ユリーカ近くの海上』
左を飛ぶ二番機に手信号を送った直後だった。
二番機の翼に上から衝撃が加わり破壊されるのが見えた。
銃撃だ!
くそっ! まずい、敵機がいる! しかも上を取られている!
二番機は錐揉み状態になりながら落下していく。
だがパイロットの無事を気にしている暇は無い。
操縦桿を左に捻る。
フットバーを踏み込む。
急操作だが機体は応えてくれる。
下っ腹に熱の塊を感じる。頭頂部から下に熱が下がって来るような感じもある。頭が痒い。焦燥感だ。
焦燥感が身体を蝕んでいく。
心拍数が上がっているのもわかる。
恐怖だ。
敵に先手を取られた恐怖から焦燥感に駆られている。
だが、今は気にしていられない。
敵機らしき影が視界の右片隅に入った。
敵機は降下しつつ銃撃して二番機を撃墜し、再び上昇しようというのだろう。
こちらも上昇だ。
どちらが先に頭をとるか。
上を取った方が有利になる。
操縦桿を思い切りよく胸元まで引き付ける。
エンジン全開!
エンジンの振動が機体を通して伝わって来る。
Gがかかる。風とGで頬がゆがむ。
駄目だ!!
視界の片隅に強いる敵機の上昇の方が早い!
こちらのエンジンのパワー不足だ!
くそっ!
敵機は完全にこちらを引き離し……宙返りに入った!
後ろを取る気だ!
そうはさせるか!
こちらも宙返りだ!
敵機より小さく宙返りすれば背後を取れる!
速度で負けても機動性ならば!
くそっ! きついGだ。だが耐えろ! ここを耐えれば! ここを耐えれば!
アメ公なんかに負けてらんないんだよ!!
ど畜生ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!
とれる!! このまま行けば背後を取れる!!
速度差からして好機は一度、それに全てを賭ける!!
もう少しで、あと少しで……
ここだ!!
背後をとった!!
引き金に指をのせる。
もうちょい、もうちょい、もうちょい……
来た射撃軸線!! 照準に入った!!
すかさず引き金を引く。
機銃弾が発射された。飛んで行くのが見える。
まるでスローモーションのように全てが遅く見える。
当たれ!! 当たれ!! 当たれ!! 当たれ!!
当たれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!
当たった!!
敵機の胴体後部に当たった。破片が飛び散っている。
そのまま連続して弾が胴体前方に着弾していく。
その度に破片が舞い散っている。
キャノピーにも当たった。
グラッと音が聞こえるような感じで敵機の機首が下がった。
そして落ち始める。
煙を吹きながら敵機が落ちていく。
火も出始めた。
パイロットは……
敵機が火を噴きながら海に向かって落ちていく。
あっ爆発した。
バラバラになった機体が煙と共に海に落ちていく。
パラシュートは無しか。
被弾して即死したか、負傷して脱出できる力も無かったのか……
ふうっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっ。
大きく息を吐き出した。
あぁ心臓が波打っているのがわかる。
だけど終わった。
一機撃墜!!
さぁ二番機パイロットの山田を捜索しなくては。
無事にパラシュートで脱出してればいいんだが……
こうして敵機を見事に撃墜した田中飛行兵は機首を翻し、仲間の捜索に向かうのだった。
【to be continued】




