R028話 宣言
1942年2月 『アメリカ ワシントンDC』
25万人。
日本がアメリカに対し宣戦布告をした時、ワシントンDCで働いていた政府職員の人数である。
日本軍の奇襲攻撃によりルーズベルト大統領を始めとした政府閣僚全員と連邦議会議員の全員が死亡した。
これにより、国民に選ばれた連邦の代表は誰もいなくなった事になる。
しかし日本軍がワシントンDCにはウラン爆弾(原子爆弾)による攻撃を加えなかった事から連邦政府の各省庁は残っており、その職員は健在だ。ただし陸軍省と海軍省は降下部隊に攻撃され壊滅している。
政府閣僚が全滅した為、各省庁の代表となった次官達が集まり今後をどうするか緊急会議が開かれた。
だが、これが揉めに揉めた。
このアメリカの危機に各省庁がそれぞれの縄張り意識と主導権を握りたいと言う思惑から権力争いを引き起こしたのである。
臨時政府を立ち上げる事に関しては合意がとれたが、その代表を誰にするかで意見が対立した。
次官の中から選ぼうという意見。
生き残った州知事の中から選ぼうという意見。
引退した元大統領、副大統領、下院議長に出馬を願おうという意見。
様々な意見が出て、しかも代表を自分の都合の良い人間にしようという考えが根底にあるので全く纏まらなかった。
まるで小田原評定である。
しかし、日が経つにつれワシントンDCでも物資の不足が深刻化してくる。
そうなると流石に危機感が高まって来る。
どうにか各省庁の調整が済み代表が決められ当人との交渉が行われた。
その臨時政府代表として選ばれたのがジョン・ナンス・ガーナー前副大統領である。
ジョン・ナンス・ガーナー前副大統領。
1868年生まれの74歳。
テキサス州生まれで当初は弁護士だったが後に政界に身を投じる。
州議会議員となり、後に連邦議会の下院議員となる。
下院議員を30年も務め下院議長も務めた。
その後にルーズベルト政権において1933年3月から1941年1月までの約8年間、副大統領を務めていた。
1940年の大統領選挙の予備選挙に出馬するが敗北し、1941年1月に政界から身を引いている。
しかし、その長年の政治的キャリアと影響力から、史実ではその後もトルーマン大統領の相談役になるなどしていた人物である。
史実では後に故郷のテキサスに帰りそこで隠棲し亡くなるが、この歴史のこの時点ではまだワシントンDCにおり、アメリカの置かれた事態を憂慮していた。
この時点においてワシントンDCにいた人物の中でも最も政治的影響力を持っていた一人かもしれない。
長年、副大統領を務めていた事からも国民への知名度は抜群である。
そのジョン・ナンス・ガーナー前副大統領は臨時政府代表への就任を快諾した。
2年前には大統領選挙に出た人物である。
重い責任を背負う事に嫌は無かった。
それどころか、今のアメリカを救えるのは自分しかいないと内心でガーナー前副大統領は自負していた。
ガーナー臨時政府代表は国民向けのラジオ演説を始める前に出来た少しの合間に物思いに耽っていた。
考える事はルーズベルト大統領の事だ。
やはりあのままルーズベルトに大統領を任せるのではなかった。
自分は敗北したが、大統領選挙に出た事は間違いではなかった。
ルーズベルト大統領は何事にもやり過ぎるきらいがある。
今回の戦争もその性格が招いた結果だ。
もし、自分が大統領になっていれば、こんな事態は招かなかったものを……
そこまで考えたところで声をかけられる。
「代表、お願いいたします」
既にラジオ演説の準備は出来ている。
ガーナー臨時政府代表はラジオの向こうにいるであろう聴衆に向け語り出した。
「アメリカ国民の皆さん。
私はジョン・ナンス・ガーナー。1年前まで副大統領を務めていました。
しかし、今、再びここホワイトハウスにいます。
既に国民の皆さんもご承知の通り、日本の不当で卑劣な攻撃によりルーズベルト大統領を始めとする閣僚と連邦議会議員の皆さんは悲しむべき事に全員が亡くなりました。
アメリカ連邦政府は消滅したと言えましょう。
しかし、まだアメリカ合衆国が無くなったわけではありません。
未だ健在な政府各省の総意から、私はこの度、設立される事になったアメリカ合衆国臨時政府代表に就任する事になりました。
これはあくまで臨時政府であり、アメリカの現状が落ち着けば、選挙が行われ正当なる手続きで新たな大統領が選ばれるでしょう。
国民の皆さん。
我々は今、大きな戦いの中にいます。
我々は今、大きな苦難の中にいます。
我々は今、大きな失望の中にいます。
我々は今、大きな試練の中にいます。
そう、これは試練です。
この国が始まって以来のかつてない試練です。
我々はこの試練に打ち勝たなくてはなりません。
建国の父達が、この国を建国してから166年。
それ以来、多くの先人達が尊い犠牲を出しながらもこの国をより良くするために努力し続けてきました。
その歴史をここで終わらせてはなりません。
我々は偉大な先人達の継承者である事を忘れてはいけません。
国民の皆さん。
今、アメリカには強大な敵がいます。
しかし、国内に目を向ければ、今やこの国は解体の危機に瀕しています。
強大な敵を目の前にして破壊的な利己主義の道を選んではいけません。
どんなに苦しくても、どんなに困難でも、我々は敵に立ち向かわなければなりません。
そして正義を行い悪に打ち勝たなくてはなりません。
正義を行う為の勇気をアメリカ国民は持っています。
これまで起きた悲劇を乗り越える強さをアメリカ国民は持っています。
我々はこれまで誇りあるアメリカ人として尊厳と平等と自由を守る為に戦ってきました。
民主主義の理念を守るために戦ってきました。
それは昔も今もこれからも変わりません。
アメリカはいかなる敵にも屈服はしません。
今、アメリカの国民の皆さんが行うべき事は国民同士で相争う事をやめ再び一つの国に結束する事です。
人種の違いを乗り越え自由と民主主義を守るために結束する事です。
そして敵と戦うのです。
アメリカは必ずや勝利します。
その力は国民皆さん一人一人の中にある。
アメリカの明日は皆さん一人一人の中にある。
今日、この日より、この時より勇気を出し戦いを始めるのです。
アメリカの勝利を信じて。
この場にてアメリカ合衆国臨時政府代表として私は日本政府にも申し上げておきたい。
アメリカは決して屈服しない!
たとえどれだけの犠牲を払おうともアメリカ合衆国は屈しない!
アメリカは負けない!
我々は立ち上がり戦い続け、そして勝つと!!
敗北するのは日本だと!!
神よアメリカに祝福を!!」
【to be continued】




