R022話 スペインにて その②
1942年1月◯◯日 『スペイン 大西洋岸の港町セスタオ近郊』
白い雲が映える青空を飛行機が3機飛んでいた。
奇麗な編隊を組んで飛んでいる。
それらの飛行機が所属しているのは、とある飛行機会社だ。
飛行機の用途は農薬散布機となっている。
しかし、それは表向きであり、実際は桜華部隊の飛行隊だ。
そして全機が艦載機だった。
今、スペインで改装中の貨物船、完成した暁には改装空母になる艦に搭載される予定の
艦載機である。
その改装空母が搭載するのはドイツ製とアメリカ製の艦載機だ。
ドイツも空母グラーフ・ツェッペリンを建造中であり、その為の艦載機を試作、製造していた。
その中の不要となった艦載機を日本が入手していたのである。
まずは、アラドAr197艦上戦闘機を3機。
この機は1937年に初飛行したドイツ初の艦上戦闘機だ。
主翼は全金属製だが胴体は鋼管骨組み羽布張り製である。
1号機は液冷エンジンを積んだが、2号機からは空冷エンジンを搭載している。
複葉機で搭乗員1人、最高速度400キロ、7.9ミリ機銃2挺、50キロ爆弾4発搭載。
試験的な戦闘機であり、同時期の他国の艦載機に比べ性能が優れているとは言えないので3機のみの試作にとどまっている。
この機が初飛行した時には、日本では既に全金属製の単葉戦闘機「九六式艦上戦闘機」の生産が始まっていた。
次に、アラドAr95B艦上偵察機を1機。
この機は1937年に水上偵察機アラドAr95を艦載機型に改造した機体だ。
水上偵察機特有のフロートを外し、その代わりに固定脚を取り付けている。
ドイツ海軍では試のみ作にとどめられたが、南米のチリがこの機を3機輸入している。
複葉機で搭乗員2人、最大速度300キロ、7.9ミリ機銃2挺、魚雷1発もしくは爆弾675キロ。
その次は、アラドAr195艦上攻撃偵察機を3機。
この機は同じ目的で試作されたフィゼラーFi167艦上攻撃偵察機と比較審査され負けてしまい採用とはならなかった機だ。その為、3機しか製造されていない。
複葉機で搭乗員2人、最大速度290キロ、7.9ミリ機銃2挺、魚雷1発もしくは爆弾500キロ。
更に、フィゼラーFi167艦上攻撃偵察機を12機。
この機体は1938年に正式採用されながらもグラーフ・ツェッペリンの建造が遅々として進まなかった事から、旧式化してしまった機だ。
その為、12機しか生産されなかった。
旧式化とは言っても、イギリス海軍が1935年に正式採用し使用している艦載機ソードフィッシュよりは新しくカタログデータ的にも性能は上だ。
ドイツの場合はユンカースJu87の艦上搭載機型、ユンカースJu87C1艦上爆撃機が登場した為、このフィゼラーFi167艦上攻撃偵察機は旧式になったという事情がある。
複葉機で搭乗員2人、最高速度325キロ、7.9ミリ機銃2挺、魚雷1発もしくは爆弾1000キロ。
ドイツ海軍ではこれらの機の後に、単葉機のメッサーシュミットBf109T0艦上戦闘機やユンカースJu87C1艦上爆撃機が開発した為、これらの複葉機は完全に旧式化している。
その旧式化したり試作止まりになった機体を、その都度、閑院宮摂政(当時は総長)の命令で陸軍は購入していた。代金は献納という形で閑見商会が出しており機体の輸送も請け負っていた。
ただし、これらの機体は日本には運ばれずスペインに運ばれていたのである。
スペインでは、閑見商会が設立したダミーの飛行会社が輸入した民間機の扱いで、農薬散布機として使用するとの偽装工作が行われている。
アメリカ製の艦載機はカーチス社のSBC艦上爆撃機である。
アメリカ軍で最後に第一線機として使用された複葉機だ。
史実において太平洋戦争が開始された時、空母エンタープライズ、ヨークタウン、サラトガ、ホーネットの航空隊において未だこの複葉機が使用されていた。1942年春には全て後継機とか変えられるが、アメリカ本土ではその後も練習機として使用されている。
桜華部隊が使用しているのは元はフランスが購入したものだ。
1940年にフランス海軍は緊迫する情勢を鑑み戦力増強を模索する。
そこでアメリカからSBC艦上爆撃機を購入する事にした。
アメリカ政府もそれに同意し緊急に必要な事を理解していた事からアメリカ軍で使用していた機体をフランスに引き渡す事にしたのである。
そのSBC艦上爆撃機の輸送にフランス海軍の空母ベアルンが派遣されていた。
しかし、ベアルンがSBC艦上爆撃機を積んで本国に帰る前にドイツのフランス侵攻が始まり、瞬く間にフランスは敗北してしまった。
空母ベアルンはSBC艦上爆撃機を載せたまま針路を変え、カリブ海にあるフランス領マルティニーク島に避難したのである。
その後、マルティニーク島に運ばれた50機ものSBC艦上爆撃機はスクラップ処分となった。
それが史実である。
今回の歴史ではチリに設立された閑見商会のダミーの航空会社が、このマルティニーク島のフランス軍司令官に50機のSBC艦上爆撃機の買取りを申し出た。
使用目的は農薬散布機。
司令官は持て余すSBC艦上爆撃機の処分ができると同意する。
そして閑見商会のダミー会社が保有する輸送船にSBC艦上爆撃機は船積みされ船出した。
表向きの目的地はチリ。本当の行き先はスペインである。
そして全機が無事にスペインに到着し、今、スペインの大空を飛んでいる。
これらの飛行機のパイロット達は、閑見商会のダミー会社が南米で、白人の血が色濃く出ていた孤児達を拾って長年に渡り育てて来たものである。
会社の職員も白人系工作員だ。
既にパイロット達は洋上飛行も含めた飛行訓練を終えている。
後は、実際に改装空母での離着陸訓練をするだけだ。
その複葉機の艦載機からなる飛行隊が活躍する時が近づいている。
しかし、それを崩壊したアメリカも、今なおドイツと激しく戦っているイギリスも知らない。
同盟国のドイツやイタリアでさえ知らぬ事であった……
【to be continued】




