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R021話 スペインにて その①

【筆者からの一言】


スペインにて郷土料理のパエリアを食べるお話、なんて事はありません。

 1942年1月◯◯日 『スペイン 大西洋岸の港町セスタオ』


「おぉーっ、これが我々の艦になるのか!」

「新造艦だ。まだ手垢がついていないぞ」

「素晴らしい!」

「早く乗りたいな!」

 埠頭に何人かの東洋人達が集まり話していた。

 彼らの視線のその先にあるのは1隻の船だ。

 駆逐艦だ。

 軍艦に詳しい者が見たならば言うだろう。

「あれはチュルカ級駆逐艦だ」と。


 スペイン海軍が建造し運用しているチュルカ級駆逐艦。

 船体はスペインで、武装はイギリスからの輸入で建造される駆逐艦。


 しかし、今、目の前に浮かんでいるのはスペイン海軍の為に建造されたわけではない。

 そもそもスペイン海軍は既にチュルカ級駆逐艦の建造を終えている。

 16隻建造したが、それは1927年から1937年までの間の事だ。

 

 新たに建造されたのはタイ海軍向けである。

 ただしそれはあくまで表向きの事であり直ぐに売却される予定だ。

 いや、それは書類上の事であり、既にスクラップとして売却されている。

 新造艦なのに既にスクラップとして売却されているのだからふざけた話しだが、何事にも建て前は必要だからだ。


 タイ海軍はそのスクラップという名目の新造艦をブラジルの業者に売る事になっている。

 そのブラジルの業者の正体は閑見商会のダミー会社だ。


 建造された駆逐艦はこの1隻だけでは無かった。

 セスタオ海軍造船所では他に数隻建造中であるし、この日就役した艦以外にも既に就役している艦がある。


 更にはスペイン南部の大西洋側の港町サン・フェルナンドの海軍造船所と、地中海に面した港町カルタヘナ海軍造船所でもチュルカ級駆逐艦が建造されおり、既に数隻が就役していた。

 この二つの造船所で建造されたチュルカ級駆逐艦も表向きはタイ海軍向けである。


 チュルカ級駆逐艦に搭載されるイギリス製の武装は、第二次世界大戦が始まる前にイギリスに発注され輸入済みだ。

 流石に使用する砲弾や機銃弾、魚雷はスペインで生産している。

 その生産量を上げる為に閑見商会がスペイン海軍工廠に出資もしていた。その出資はポンドの偽札を利用し上海の銀行を経由したものではあったが。 


 それだけではない。大西洋の港町フェロルの海軍造船所では次々と改装された貨物船が就役していた。

 その艦形は史実においてアメリカとイギリスが運用した護衛空母に酷似している。


 この件に関してスペインとタイは裏にいる日本に全面的に協力していた。

 流石に軍艦の事であるし、それも隻数もあるとなると、ダミー会社だけでは手に負えない。

 第二次世界大戦が始まる数年前から密かに閑院宮摂政(その頃はまだ総長)の使者がタイとスペインを頻繁に訪れ接触し少しずつ話しを進めていた。


 スペインとしては、スペイン内戦後の不況の最中である。

 造船業界が活気付き利益が出る事は大歓迎であった。

 それに第二次世界大戦が始まった後は、大戦に参加こそしていないもののスペインはファシスト国家として日独伊三国同盟に近い関係にある。独ソ戦には義勇兵を派遣している。


 故に日本への協力も惜しまなかった。

 特に日本がアメリカと開戦し原子爆弾を使用したのを知るとその姿勢は顕著になる。

 スペインは日本への協力を惜しまなかった。


 タイとしても中立を維持し続けられ、それに仲介業で利益が出るのであればと文句は無かった。

 あとはイギリスやアメリカの目をごまかすだけである。


 三者三得の思惑が合致し、このような取り引きが成立していたのである。


 そして、スペインにはタイ海軍の兵士が滞在する事になる。

 表向きはタイ海軍であり身分証もある。

 だが実際は「桜華」部隊の兵士である。

 閑見商会の船会社で船員として、更には海軍の退役士官に鍛えられた孤児だった水兵達だ。

 それが、新たに就役した艦に乗り込み慣熟訓練を行い出撃する時を待っている。


 スペイン政府とタイ政府の全面協力があってこその策である。


 小型空母を中心とする「桜華」の艦隊が出撃する日は刻々と迫っている……


 【to be continued】


【筆者からの一言】


筆者「殿下、何でスペインで建造なんですか? 南米じゃダメなんですか?」

摂政「南米には大型艦を建造できる造船所が無いからだ」

筆者「投資して造船所を造ればよかったじゃないですか」

摂政「そこまでの資金が無い」

筆者「無いという人間に限って実は持ってるもんですよね」

摂政「おい、副官、こいつを射……」

シュタタタタタタタタタタタタ(筆者の逃げる足音)

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