R020話 射撃訓練
【筆者からの一言】
今回は長射程砲のお話。
1942年1月 『朝鮮半島 某海域』
「初弾弾着5秒前! だんちゃーーーく、今!!」
その声と共に無人島の海岸に大きな土煙が立ち昇った。
「よしっ!」
司令官が満足気な表情をして頷いた。
傍に控えている参謀達も同様の顔をしている。
「上々の成績です。これは期待以上ですな」
参謀長が司令官に話しかける。
「うむ。だが本番はこれからだ。気を引き締めていかねばな」
司令官はそう言ったが、表情はそれ程厳しくはない。結果に満足しているせいだ。
「はい。それはもう胆に銘じます」
そう返答する参謀長もにこやかだった。
その二人が会話している艦橋は人でいっぱいである。
戦隊司令部と船の艦橋要員が一緒にいるからだ。
艦橋の正面中央前のやや左舷側に艦長が立っている。
艦橋の形の半円形に合わせて、艦長の左斜め後ろに副長が立っている。
その副長の左斜め後ろに主計長が立っている。
主計長の後ろ周辺には一塊となって5人の主計科の伝令や記録係が待機したり記録を取っている。
変わって艦橋の正面中央前のやや右舷側、艦長の真横にあたる位置に司令官が立っている。
艦橋の形の半円形に合わせて、司令官の右斜め後ろに先任参謀が立っている。
その先任参謀の右斜め後ろに参謀が3人斜めに列を成している。
参謀達の後ろには司令部員が4人ほど立っている。
司令官と艦長の間の少し後ろには羅針盤があり、そこには航海長が立っている。
その航海長の右後ろには信号長と信号部員が3人立っている。
左後ろには航海部員と海図台には航海士が張り付いている。
この艦橋での立ち位置は海軍に倣っている。
これだけの人間がいれば艦橋もいっぱいになろうというものだ。
だが、混乱も摩擦も起こっていない。
それだけ訓練に訓練を重ねてきているからだ。
今、この船と同型艦の5隻が搭載している大砲の射撃訓練をしていた。
6隻の特別戦隊である。
全ての船が元は貨物船であり改装して2門の砲を積んでいた。
積んである大砲は前甲板と後甲板に一門ずつ。
その大砲は九0式二十四センチ・カノン砲だ。
元は列車砲である。
日本陸軍がフランスのシュナイダー社に発注した特製の九0式二十四センチ列車カノン砲だ。
九0式二十四センチ列車カノン砲がフランスで完成したのは1928年。
カタログ・データで最大射程は約5万メートルとなっている。
あの戦艦大和の主砲46センチ砲でさえ最大射程は約4万2000メートルであるから、九0式二十四センチ列車カノン砲はそれより遥かに長い射程を持つ。
ただし、最大射程が約5万メートルというのは、あくまでカタログ・データであり、フランスで完成した後にガーブル射撃実験場で行われた試射では、第1弾が5万2800メートル、第2弾が5万2400メートルもの飛距離を記録している。
九0式二十四センチ列車カノン砲は1929年に海路輸送され、日本で各種試験を行った後、1931年に正式採用される。
しかし、追加発注やライセンス生産される事はなかった。
一応動きはあった。
東京湾要塞や宗谷要塞に2門ずつ配置する計画や、日本国産の一式二十四センチ列車カノン砲を開発するという計画が出た事もあったが、結局全ては流れている。
予算の問題である。
ない袖は振れないという奴だ。
日本軍の兵器開発はいつもこの予算不足に泣かされている。
その為、この九0式二十四センチ列車カノン砲は日本陸軍が唯一保有した列車砲となった。
この砲の不運は予算不足だけでなく実戦でも発揮されてしまう。
太平洋戦争末期、この砲は満州にあった。
たまたま移動命令が出ており、分解作業中であった所にソ連軍の満洲侵攻が起こる。
そして移動中にソ連軍の攻撃を受け隊長以下部隊の大半は行方不明となり、九0式二十四センチ列車カノン砲も行方知れずとなってしまうのである。
それが史実だ。
しかし、今回の歴史では中身の違う閑院宮総長がいた。
奇しくも閑院宮戴仁親王が参謀総長になったのは、九0式二十四センチ列車カノン砲が正式採用の決まった年と同じ1931年である。
陸軍に予算は無くても閑見商会にはある。
と、言う事で閑見商会の特殊兵器開発部門が、この大砲の量産化に着手した。
とは言っても列車砲としてではなく、閑院宮総長の指示により艦載砲としてである。
そして今、その九0式二十四センチ・カノン砲を搭載した「特設重砲艦」6隻からなる戦隊の出撃準備が整った。
これも「桜華」部隊である。
「桜華・壬班」の「特設重砲艦戦隊」
なお、「特設重砲艦」という艦種は歴史上、どこの国にも無い。
完全に閑院宮摂政の造語である。
果たして閑院宮摂政は、この「特設重砲艦」をどこで、どのように使おうというのか……
その出撃の時は近い。
【to be continued】
【筆者からの一言】
第1話で登場したのは近距離戦闘を目的とした白兵戦用「襲撃艦」
今回登場したのは、それとは対極の遠距離戦闘を目的とした長射程の「特設重砲艦」
極端から極端へ。
それが摂政のやり方。




