誇らしげにしないでよ、と。
不安になるのも安心するのも同じ人で。
委員会で失敗した私に声をかけてくれたのは律野くんだった。
律野くんは影みたいにふらりと現れて知らない間に私の隣に座っていた。
正しくは声をかけてもらった、とは言わない。
律野くんはただ隣にいてくれただけだ。
それだけだ。でも、それ以上でもそれ以下でもない、その優しさが私は嬉しかった。
言わない「大丈夫ですよ」が嬉しかった。
夜に侵食され始めた空が窓の外に広がり始める。
解き終えた問題は純粋な黒でノートに並んでいた。
さっきまで手のつけようもなかった数学の問題なのに一人で解けてしまった。
喜ぶべきことなのに心は弾まなくて悲しくなる。
解けましたねと薄く笑って欲しかったのだとため息交じりにシャーペンを机に置いた。
「褒められたいなんてばかみたい」
自分の中にそんなに子供らしい心があるだなんて知らなかった。
律野くんは過剰に喜んだりしない、ほんの少し頬を緩めるだけだ。
でも、その顔が見たかった。
「また悪口ですか」
降ってきた言葉を意識する前にほっぺたに温かいものが触れた。
きゃ、と悲鳴が口の中で消える。
くるりと背後から現れた律野くんは再び私の向かいの席に腰を下ろした。
「どうぞ、疲れた時には糖分です」
差し出されたのは缶のおしるこで、さっき頬に触れたのはそれだったのだと理解する。
律野くんが心なし誇らしげに笑う。
「驚きましたか? 不意打ちは得意なんです」
「び、びっくりするからやめてよ! って、このやり取り本日二回目だよ!」
早鐘を打つ心臓を抑えて半泣きに抗議する。
律野くんは不思議そうに私を見返して、自分用のおしるこのプルタブに指をかける。
おしるこを飲む喉がこくりと静かに動いて、沈黙が落ちて、私はあぁと机に突っ伏す。
かたんと机の上に缶をおく音としばらくノートをめくる音。
「お疲れ様です、南さん。全問正解です。これなら赤点回避は大丈夫そうですね」
頭上から落ちてくる平坦な声音に二つの意味で安心した自分に思わず笑いがこぼれた。
影薄の彼のセリフ
4.不意打ちは得意なんです




