とある少女の幸福。
お互いに知っていたこと。
だから、言わずにきてしまった言葉。
夜が町を塗り替え始める。
人が少なくなり、道には私たちだけになった。
「どうして一年たってから会いに来たかわかる? 愛夢ちゃんは強い人だから、ちゃんと歩けるようになってから会いたかったんだ」
「私は、強くなんかない」
「強いよ」
「勝手に決め付けないで!」
キッと瑤くんを睨みつける。
目の淵から涙が頬を伝い落ちていく。
「置いていかれる気持ちも知らないくせに! 私がどれだけ泣いたか知らないくせに! なにが強いよ、私は瑤くんが死んで瑤くんがいなくなって悲しかった!」
「……うん」
「私は、私は……」
言葉が詰まってどうしょうもなくて、瑤くんが悪いわけじゃないのに、こんなことしか喚けない自分が嫌で悔しくて俯いて嗚咽を漏らす。
「愛夢ちゃん、幸せになってよ」
弾かれたように私は顔を上げる。
穏やかな瑤くんの顔。
「好きな人がいるじゃん? 紘弥のこと、好きだろ?」
涙が、溢れた。
「幸せになんなきゃダメじゃん」
「よ、うくん」
「なに、それも俺のせいにしちゃう感じ?」
おどけてみせる私の大好きな男の子。
私の、大好きだった男の子。
瑤くんはどこまでも優しく、私を抱きしめた。
抱きしめて言った。
「生きなきゃ、愛夢ちゃん。で、生きるなら幸せにならなきゃ、愛夢ちゃん。そうしないと愛夢ちゃんを好きな俺が浮かばれないじゃん?」
「よ、うくん……」
「確かにちょっと悔しいけどね。紘弥には負けたくなかったしさ。でも、」
でもさ――解かれた腕。
額に降ってくる口づけ。
甘くて優しくて淋しげな、でも穏やかな笑顔が私を見下ろす。
「愛夢ちゃんは生きてるんだから」
「瑤くん!」
「大丈夫だよ、愛夢ちゃん。強いっていうのは誰よりも優しいってことだから。だから、誰よりも幸せになれるよ」
ふわりと瑤くんの足が地面から浮く。
私が伸ばした手をすり抜けて、夜空を背にして瑤くんは最後に言った。
「愛夢ちゃん!」
唇が音無き声で告げる。
大好き、さよなら。
風が吹いて、そして瑤くんは夜に溶けた。
瞬きだした星空のした、私は伸ばした手を胸の前で握りしめる。
「私も、私も好きだったよ……」
瑤くん――――見上げた夜空には瑤くんが好きだといった星々が私を見つめて輝いていた。
戻ってきたあのひと7題。
7.二度目の、お別れ
(それは今度こそ永遠の?)
『確かに恋だった。』




