とある少女の隣人。
戸惑いは始めからない。
私はいつだって隣にいたかった。
「瑤くんは」
「もう確かに死んでるよ」
迷う私の声を遮るように、瑤くんの淡々とした声が続きを引き継いだ。無意識に顔が歪む。
瑤くんは表情をなくして、手の平を私に見せた。
広げられたそこには傷口。
「これ、愛夢ちゃんと喧嘩した時にできた怪我。あの時、血がたくさん出て愛夢ちゃんは死んじゃうって大泣きしたけど俺、死ななかったじゃん。だから、なんかあの時もどっかで期待してた」
あの時も。
それを聞いた瞬間に体から力が抜けた。
瑤くんが帰路の途中、突っ込んできたトラックに撥ねられたらしい。
家に着いた私が、青ざめた母から聞いたことはそれだけ。
どれだけ血が溢れて、どれだけ凄絶だったのかは今だって知らない。
だって、次に会った時には瑤くんは血のあとはなく生きていたから。
轢かれたけれど緊急手術をして、瑤くんは助かった。
駆け付けた病院で包帯でぐるぐる巻きになりながら、私を見て笑ってくれた。
その瞬間に私は神様はいるんだと知った。
「瑤くん、」
「俺、助かったって嬉しかった。無事だよって笑ったら、愛夢ちゃんが泣いてくれたのが性格悪いけど超嬉しかった」
瑤くんは無邪気にそう笑った。
その眩しすぎる笑顔に私は唇を噛んで、それでも俯くことはしなかった。
瑤くんはそっと笑顔を剥がして、悲しいぐらい優しく目を細めて言った。
「本当に嬉しかったんだ。本当だよ、愛夢ちゃん」
手術の翌日、瑤くんは死んだ。
頭の打ち所が悪かったことが原因だった。花を手にして見舞いに来た私が、瑤くんのことだからきっと食べ物がいいって言うかな、なんて考えながら病室へ向かえば。
ベッドに泣き伏すおばさんと、固く目を閉ざしたおじさんがいて、看護士さんが器具を黙々と片付けていた。
ぐらりと何かが傾いで、それでも病室に足を踏み入れた。
目に入るのは瑤くんの白い、顔。
動かない体。上下しない胸。
笑わない瑤くん。
昨日は笑ってくれた瑤くんの顔が、頭の中で硝子のように割れた。
私は、神様を呪った。
「瑤くん。手、握って」
虚ろなままに請う。
震える指先で求める。
隣にいる瑤くんを確かめたくて、縋りたかった。
どうしても隣にいるのに淋しげに笑う遠い人に触れたかった。
瑤くんが再び現れて驚かなかったと言えば嘘になる。
でも、それでも良かった。
死んでいても良かった。
幽霊でも良かった。
隣にいるなら、いてくれるなら。それだけで良かった。
瑤くんは何も言わずに私の手を握ってくれた。
私は割れた硝子が再生する音を聞いた。
戻ってきたあのひと7題。
5.きみがとなりにいる
『確かに恋だった。』




