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僕の羊と君が眠るまで。  作者: シュレディンガーの羊
◇戻ってきたあのひと7題
25/32

とある少女の隣人。




戸惑いは始めからない。

私はいつだって隣にいたかった。




「瑤くんは」

「もう確かに死んでるよ」


迷う私の声を遮るように、瑤くんの淡々とした声が続きを引き継いだ。無意識に顔が歪む。

瑤くんは表情をなくして、手の平を私に見せた。

広げられたそこには傷口。


「これ、愛夢ちゃんと喧嘩した時にできた怪我。あの時、血がたくさん出て愛夢ちゃんは死んじゃうって大泣きしたけど俺、死ななかったじゃん。だから、なんかあの時もどっかで期待してた」


あの時も。

それを聞いた瞬間に体から力が抜けた。

瑤くんが帰路の途中、突っ込んできたトラックに撥ねられたらしい。

家に着いた私が、青ざめた母から聞いたことはそれだけ。

どれだけ血が溢れて、どれだけ凄絶だったのかは今だって知らない。

だって、次に会った時には瑤くんは血のあとはなく生きていたから。

轢かれたけれど緊急手術をして、瑤くんは助かった。

駆け付けた病院で包帯でぐるぐる巻きになりながら、私を見て笑ってくれた。

その瞬間に私は神様はいるんだと知った。


「瑤くん、」

「俺、助かったって嬉しかった。無事だよって笑ったら、愛夢ちゃんが泣いてくれたのが性格悪いけど超嬉しかった」


瑤くんは無邪気にそう笑った。

その眩しすぎる笑顔に私は唇を噛んで、それでも俯くことはしなかった。

瑤くんはそっと笑顔を剥がして、悲しいぐらい優しく目を細めて言った。


「本当に嬉しかったんだ。本当だよ、愛夢ちゃん」


手術の翌日、瑤くんは死んだ。

頭の打ち所が悪かったことが原因だった。花を手にして見舞いに来た私が、瑤くんのことだからきっと食べ物がいいって言うかな、なんて考えながら病室へ向かえば。

ベッドに泣き伏すおばさんと、固く目を閉ざしたおじさんがいて、看護士さんが器具を黙々と片付けていた。

ぐらりと何かが傾いで、それでも病室に足を踏み入れた。

目に入るのは瑤くんの白い、顔。

動かない体。上下しない胸。

笑わない瑤くん。

昨日は笑ってくれた瑤くんの顔が、頭の中で硝子のように割れた。

私は、神様を呪った。


「瑤くん。手、握って」


虚ろなままに請う。

震える指先で求める。

隣にいる瑤くんを確かめたくて、縋りたかった。

どうしても隣にいるのに淋しげに笑う遠い人に触れたかった。

瑤くんが再び現れて驚かなかったと言えば嘘になる。

でも、それでも良かった。

死んでいても良かった。

幽霊でも良かった。

隣にいるなら、いてくれるなら。それだけで良かった。

瑤くんは何も言わずに私の手を握ってくれた。

私は割れた硝子が再生する音を聞いた。








戻ってきたあのひと7題。

5.きみがとなりにいる

『確かに恋だった。』



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