とある少女の追想。
笑ってばかりの子供だった。
涙なんか知らない子供だった。
秘密基地なんて名ばかり。
公園の裏手に見つけた少し拓けた空間。
背の高い草に囲まれているから、二人だけの秘密になりえた場所。
瑤くんは気持ち良さそうにぐっと伸びをした。
「んー、懐かし」
「私も久しぶりだから懐かしい」
「あ、まだベンチあんじゃん」
草むらから引っ張り出されたのは丸太。
椅子がわりに二人でよく座ったのを思い出す。
腰を下ろせば、笑いが込み上げた。
きょとんとした瑤くんが振り返る。
「どうした、愛夢ちゃん?」
「どうもしないよ、瑤くん。ただね、私たちは笑ってばかりだったと思ったの」
「嘘だよ。愛夢ちゃんは泣き虫だった」
「嘘つき。瑤くんのほうが泣き虫だった」
決して涙をみせてくれないのに、いつも笑ってばかりだったのに、ちゃんと私は知っていた。
瑤くんは泣き虫だった。
泣かないくせに泣き虫だった。
秋めく風が草むらを揺らして、私の髪をなびかせる。
「瑤くんは私には泣いてくれなかったね。いつも赤い目をするだけで、私に笑ってみせた」
「謎だったよ。だってそうすると愛夢ちゃんは泣くじゃん」
「ずるいと思ってたんだよ。男の子ってこんなにずるいのかって怒ったの」
いたずらを叱られた時も、たくさん練習したのに運動会で負けた時も、近所の猫が死んだ時も、瑤くんは私の前では泣かなかった。
仲良しだと評判で、隠し事なんてないようで、気を許しあった仲のようで、でも瑤くんはずっとそうやって私と同じにはならなかった。
「……懐かし。愛夢ちゃんはよく俺のわからないことで怒ってた」
「それは思い出だよ。今の私は怒ってない」
「そう。だから、懐かしいんじゃん」
「なんかカッコつけてる」
「もとから俺はイケメン生まれだから」
瑤くんが思い出のままに笑う。
思い出と同じ温度で、同じ声で、同じ笑顔で笑う。
私はふいに風の冷たさに無意識に腕を抱いた。
戻ってきたあのひと7題
3.おもいでの場所で
『確かに恋だった。』




