とある少女の安堵。
変わらないことが美徳だとは思わない。
ただ、その事実に安堵する自分のことは嫌いになれない。
アーモンドみたいな瞳に綿菓子みたいな髪の毛、くるくると表情を変える人懐っこい顔。
サッカーが好きで、いやスポーツ全般が好きで上手くて、勉強もそこそこ出来て、でも数学は壊滅的で、皆に囲まれていつも笑っていた男の子。
そんな瑤くんは私の幼なじみだった。
家が隣同士で小さい頃からいつも一緒。
瑤くん、愛夢ちゃん、と高校生になってもその呼び名に戸惑いはなかった。
優しい周囲からは茶化されることはあまりなく、むしろ仲の良さを羨ましがられた。
さすがにもう二人でかけっこをしたり、怪盗ごっこをしたりはしないけれど、それでも私と瑤くんは仲が良かった。
去年の秋、瑤くんが交通事故で亡くなるまでは。
「瑤くんがいない間にポチが子供産んだよ」
「え、ポチって雌だったの?」
「ポチの本名はポテュリューナ二世だって知らなかった?」
近場のベンチに腰を下ろして、私たちは話しをしていた。
結局、肉まんはアスファルトの上に置いてきた。
誰かの靴に踏み潰されて、轢き潰されて、すり潰されて、見るも無惨になったらどうしようかと一瞬だけ考えたけど、一瞬で割とどうでもいいことになった。
「なら次はポテュリューナ三世になるじゃん。どっかの怪盗みたいだ」
瑤くんは笑うたびに片頬にだけえくぼができる。
なくとなくそれを見ていれば、瑤くんが目を瞬いた。
「どうしたの、愛夢ちゃん?」
「片頬にえくぼが出来るって不思議」
「それ、解明できてないよ」
「……骨盤の歪み? それとも性格の」
「アンバランス、アシンメトリー。ちょっと危険な感じに魅力じゃん?」
自分でそんなことを嘯いて、瑤くんはけらけらと笑う。
自然と私の口元も緩んだ。
「変わらないね、瑤くんは」
「変わらないな、愛夢ちゃんこそ」
そうやって笑い合う。
二人でいれば、私たちはいつだって幼い頃に舞い戻る。
二人して駆け回っていたあの頃のままに。
ふいに瑤くんが立ち上がった。
どうしたの、と見上げれば瑤くんは照れたように頬をかく。
「あの場所に行かない?」
「いいよ」
何の抵抗も、僅かな思考もなく私は応えた。
流れるように、伝い出た言葉に驚きはなかった。
瑤くんはそんな私に少しだけ目を瞬いて、それからちょっと苦笑した。
それは、瑤くんが嬉しいけど少しだけ悲しいときにする瞳だった。
だからこそ、私は知らないふりで目を反らした。
戻ってきたあのひと7題。
2.変わらないふたり
『確かに恋だった。』




