とある少女の邂逅。
人は生を受け入れた。
なら、その逆だってありうるはずだ。
「あ」
食べかけの肉まんが手からアスファルトの上に落ちた。
一個税込み120円。一口分差し引いて105円分の損害。
まだ三秒ルールは適用かしら、というより三秒ルールってまだ死語じゃないかしら、と憐れな肉まんを眺める。
「あー、もったいない。96円分の損失じゃん」
幼さが残る声音が降ってきて、私は顔を上げる。
やっぱり見間違えて肉まんを取り落とした訳ではなさそうだった。
そこにいるのは綿菓子みたいな髪をした男の子。
とても見覚えのある、でももう決して会うことのできないと思っていた人。
「……瑤くんのせいで落としたんだよ」
「え、俺のせいにしちゃう感じ?」
「それに私の一口を大口に換算しないで。96円じゃなくて105円の損失だから」
「なんか乙女ぶってる」
「私はずっと乙女生まれだよ」
肉まんを拾うのはもう諦めた。
三秒ルールはもうとっくに過ぎたし、それより今は肉まんを食べたいとは思わない。
ねぇ、瑤くん。
目の前にいる男の子に手を伸ばす。
なあに、と優しく笑ってみせるその顔。
去年の秋、その笑顔が黒い額縁に納められていたのを確かに覚えている。
あれは夢だったかと疑ってから、いや、むしろ今が夢なのかと冷静に思考が空回る。
「ねぇ、瑤くん」
「なあに、愛夢ちゃん」
指が右頬に触れて、私はようやく悟る。
この男の子は、瑤くんは確かに瑤くんで、だけど、だからこそ――――
「私の瑤くんは去年の秋に死んだよ?」
ざあっと木々がざわめいて、瑤くんが日だまりの中の猫のように目を細めて微笑った。
立ち尽くす私に瑤くんは言った。
「ただいま、愛夢ちゃん」
指先で触れた瑤くんの右頬はひどく冷たかった。
まるで暗い部屋に置き去りにされた、可愛そうな人形みたいに。
戻ってきたあのひと7題。
1.いるはずのないひと
『確かに恋だった。』




