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僕の羊と君が眠るまで。  作者: シュレディンガーの羊
◇戻ってきたあのひと7題
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とある少女の邂逅。




人は生を受け入れた。

なら、その逆だってありうるはずだ。




「あ」


食べかけの肉まんが手からアスファルトの上に落ちた。

一個税込み120円。一口分差し引いて105円分の損害。

まだ三秒ルールは適用かしら、というより三秒ルールってまだ死語じゃないかしら、と憐れな肉まんを眺める。


「あー、もったいない。96円分の損失じゃん」


幼さが残る声音が降ってきて、私は顔を上げる。

やっぱり見間違えて肉まんを取り落とした訳ではなさそうだった。

そこにいるのは綿菓子みたいな髪をした男の子。

とても見覚えのある、でももう決して会うことのできないと思っていた人。


「……(ヨウ)くんのせいで落としたんだよ」

「え、俺のせいにしちゃう感じ?」

「それに私の一口を大口に換算しないで。96円じゃなくて105円の損失だから」

「なんか乙女ぶってる」

「私はずっと乙女生まれだよ」


肉まんを拾うのはもう諦めた。

三秒ルールはもうとっくに過ぎたし、それより今は肉まんを食べたいとは思わない。

ねぇ、瑤くん。

目の前にいる男の子に手を伸ばす。

なあに、と優しく笑ってみせるその顔。

去年の秋、その笑顔が黒い額縁に納められていたのを確かに覚えている。

あれは夢だったかと疑ってから、いや、むしろ今が夢なのかと冷静に思考が空回る。


「ねぇ、瑤くん」

「なあに、愛夢(ナルム)ちゃん」


指が右頬に触れて、私はようやく悟る。

この男の子は、瑤くんは確かに瑤くんで、だけど、だからこそ――――


「私の瑤くんは去年の秋に死んだよ?」


ざあっと木々がざわめいて、瑤くんが日だまりの中の猫のように目を細めて微笑った。

立ち尽くす私に瑤くんは言った。


「ただいま、愛夢ちゃん」



指先で触れた瑤くんの右頬はひどく冷たかった。

まるで暗い部屋に置き去りにされた、可愛そうな人形みたいに。








戻ってきたあのひと7題。

1.いるはずのないひと

『確かに恋だった。』



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