とある少年の恋模様。
馬鹿みたいに好きなんだと自覚すれば、零れるのは苦笑ばかりで。
けれど、相手も同じだと知ればどうしょうもなく愛しくて。
繋いだ手を解かないように笑っていたい。
「なに、また邪魔しに来たの?」
不機嫌をあらわにしてそう言われた。
気づけばそこは図書室で、目の前には眉をひそめた河野がいた。
「あれ、なんで俺図書室にいるんだ?」
「さっき普通に歩いて入ってきたけど」
「夢遊病?」
「まだぼんやりしてるの?」
呆れた、と肩をすくめられる。
「両想いになれて付き合ってんだから、しゃんとしなよ」
「な」
「クラス公認でしょ、おめでと」
「……クラス全員になんでばれてんだ」
「アタシだけど?」
「……だと思ったよ、どうせ」
ため息を零せば、贅沢ね、と河野が非難する。
それに答えず、窓に目を向けた。
紅葉はまだ赤々としていて、あの日のことを思い出す。
なんであいつだかわからないと口にした自分がいたのだと苦笑する。
本を見れば笑顔を、飴を見たら声を、日誌を見れば慌てた中森を思い出す。
そして、先日抱きしめたことも思い出してしまって赤面する。
好きだと、あの瞬間にまた自覚したことも。
足が浮いたように思考がふわついて、会いたいなんて思う。
さっきまで一緒にいた癖にと、自分でつっこむ。
「なんか好きすぎて俺、バカみたいだ」
机に伏せてため息をつけば、脳天に衝撃。目の前に星が光って、頭を押さえる。
「痛いんだが、河野……」
「惚気んな、阿呆。馬鹿。へたれ」
「へたれは勘弁してくれ……」
ふん、と河野が俺に角くれた本を片手に鼻を鳴らす。
「アタシ、あんたの恋煩いはウケないけど、あんたのそういう惚気は気持ち悪いから断る」
「うわ。河野に言えないなら、俺はいったい誰に言えばいいんだよ」
「中森に言いなよ」
さらりと名前を出されて、固まる。
河野はそんな俺に一瞥くれて本に帰る
自失から立ち直り、抗議の声を上げる。
「なんで本人に言うんだよ。それじゃ格好悪いだろ!」
「溺れてるのね、本当に」
「な」
「せいぜい頑張って。応援はしないけど」
ひらひらと手を振られる。
もう行け、というようなその仕種に言い返そうとして、でも止めてため息をつく。
「さんきゅ、河野」
「アタシは何もしてないけど」
席を立つ俺に河野が白い指先で扉を示す。
「ほら、彼女がこっち見てるよ。浮気者」
「え、あ、中森!?」
「あー、走ってったね。誤解されたかな。付き合って早々にこれは辛いけど」
「浮気してないし! 幼なじみだし!」
慌てて追いかけようとして、でもその前に河野を振り返る。
「さんきゅ、河野」
「だから、感謝される筋合いないんだけど」
「あぁ。でも、さんきゅ」
じゃあな、と手を振って駆け出す。
図書教諭に注意を貰い、俺はすいませんと言いつつ図書室を走り出た。
中森にどうやって説明しようか考えながら。
恋に溺れる彼のセリフ5題。
5.好きすぎて俺、バカみたいだ
『確かに恋だった。』より




