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僕の羊と君が眠るまで。  作者: シュレディンガーの羊
◇恋に溺れる彼のセリフ5題
14/32

とある少年のお別れ。



委員会で遅くなり、教室に行けば中森が一人残っていた。

窓の外はもう日が沈みかけているから、送る、と言えば何も言わずに頷かれた。



「それで倉上がなんて言ったと思う? あいつ、正解は寝てる間に俵詰めして海に流すって言ったんだぞ?」

「そう、ですか。倉上くんは不思議ですね」


歯切れ悪く中森が相槌を打つ。

俺はそれを聞きながら、微かに唇を噛んだ。

今日、中森は一度も俺のほうをを見ていない。

会話もぎこちない。

最近、中森は俺相手だと笑わなくなった。

そろそろ引き際だな、と内心で頼りなく苦笑する。

曲がり角が近づいて俺は足を止めた。


「中森、俺のこと嫌いなんだろ? ならもう近づかないし、話し掛けない」


今まで悪かったな、無理にそう笑って踵を返す。

あと少しで中森の家だから、ここで去るのが一番いいと思った。

諦められるかと聞かれれば、断言できない。

ただ、中森の笑顔を奪っているのが俺なら、それはもうアウトだ。

だから明日からはもう近づかない。

そう心に決めれば、背中越しに叫ばれた。


「わ、私がいつ澤谷くんのこと嫌いって言いましたか!」

「は?」


聞き間違いかと思って振り返る。

そうすれば今日初めて目が合った。


「私は一度も嫌いだなんて言った覚えありませんから」


俯いて、肩を震わせて中森がそう言う。

その言葉の真意を遅れて理解する。

信じられなくて呆けていると、痺れを切らしたのか中森が顔を上げる。


「簡単に言ってないです。これが私の本音ですから!」


いつの日か俺が口にした言葉を、中森が口にする。

その顔が林檎のように赤くて、もうどうしょうもなくなる。

ああ、もうどうして中森は。


「抱きしめていい?ってかそうさせて」


返事を待たずに抱きしめる。

華奢な体は腕にすっぽり収まった。


「え、え?」


状況についていけず、明らかに混乱している中森がまた可愛くて笑う。

ああもうだめだな、と細い肩に頭を載せる。


「さ、澤谷くん?」

「なんで」

「え?」

「なんで中森、そんなに可愛いわけ」


触れている体温が一気に上がった。

それすら堪らなく愛しくて、どうしたものかと苦笑する。


「抱きしめてると顔見えないな」


腕を解こうとすれば、中森の手が俺のシャツを掴んだ。

完全に予想外で驚けば、しどろもどろに小さい声が言う。


「み、見ないでください。いま私の顔、真っ赤だから」

「別に何回も見たことあるけど」

「今はダメです!」


きゅっとシャツを掴んで中森が俺にしがみつく。

鎖骨に小さな頭が預けられ、細い肩が微かに震えていた。


「どうして好きにさせたんですか。好きなのにどうして顔見れるんですか。好きなのにどうして普通に話せるんですか。私には無理です。全然普通に出来ません。ドキドキして、全然それどころじゃありません!」


言葉を挟む隙もなく吐露された思いに、衝動的にまた抱きしめた。

ああもう、本当にどうしてだと俺まで赤くなる。

中森の癖が移っただけだと、俺は小さく呻いた。








恋に溺れる彼のセリフ5題。

4.抱きしめていい?ってかそうさせて

『確かに恋だった。』より

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