とある少年のお別れ。
委員会で遅くなり、教室に行けば中森が一人残っていた。
窓の外はもう日が沈みかけているから、送る、と言えば何も言わずに頷かれた。
「それで倉上がなんて言ったと思う? あいつ、正解は寝てる間に俵詰めして海に流すって言ったんだぞ?」
「そう、ですか。倉上くんは不思議ですね」
歯切れ悪く中森が相槌を打つ。
俺はそれを聞きながら、微かに唇を噛んだ。
今日、中森は一度も俺のほうをを見ていない。
会話もぎこちない。
最近、中森は俺相手だと笑わなくなった。
そろそろ引き際だな、と内心で頼りなく苦笑する。
曲がり角が近づいて俺は足を止めた。
「中森、俺のこと嫌いなんだろ? ならもう近づかないし、話し掛けない」
今まで悪かったな、無理にそう笑って踵を返す。
あと少しで中森の家だから、ここで去るのが一番いいと思った。
諦められるかと聞かれれば、断言できない。
ただ、中森の笑顔を奪っているのが俺なら、それはもうアウトだ。
だから明日からはもう近づかない。
そう心に決めれば、背中越しに叫ばれた。
「わ、私がいつ澤谷くんのこと嫌いって言いましたか!」
「は?」
聞き間違いかと思って振り返る。
そうすれば今日初めて目が合った。
「私は一度も嫌いだなんて言った覚えありませんから」
俯いて、肩を震わせて中森がそう言う。
その言葉の真意を遅れて理解する。
信じられなくて呆けていると、痺れを切らしたのか中森が顔を上げる。
「簡単に言ってないです。これが私の本音ですから!」
いつの日か俺が口にした言葉を、中森が口にする。
その顔が林檎のように赤くて、もうどうしょうもなくなる。
ああ、もうどうして中森は。
「抱きしめていい?ってかそうさせて」
返事を待たずに抱きしめる。
華奢な体は腕にすっぽり収まった。
「え、え?」
状況についていけず、明らかに混乱している中森がまた可愛くて笑う。
ああもうだめだな、と細い肩に頭を載せる。
「さ、澤谷くん?」
「なんで」
「え?」
「なんで中森、そんなに可愛いわけ」
触れている体温が一気に上がった。
それすら堪らなく愛しくて、どうしたものかと苦笑する。
「抱きしめてると顔見えないな」
腕を解こうとすれば、中森の手が俺のシャツを掴んだ。
完全に予想外で驚けば、しどろもどろに小さい声が言う。
「み、見ないでください。いま私の顔、真っ赤だから」
「別に何回も見たことあるけど」
「今はダメです!」
きゅっとシャツを掴んで中森が俺にしがみつく。
鎖骨に小さな頭が預けられ、細い肩が微かに震えていた。
「どうして好きにさせたんですか。好きなのにどうして顔見れるんですか。好きなのにどうして普通に話せるんですか。私には無理です。全然普通に出来ません。ドキドキして、全然それどころじゃありません!」
言葉を挟む隙もなく吐露された思いに、衝動的にまた抱きしめた。
ああもう、本当にどうしてだと俺まで赤くなる。
中森の癖が移っただけだと、俺は小さく呻いた。
恋に溺れる彼のセリフ5題。
4.抱きしめていい?ってかそうさせて
『確かに恋だった。』より




