とある少年への報復。
やっかいなのはその価値を自分自身が知らないこと。
確信犯ならまだ救いがあるのに無意識にだから手に負えない。
面白い本が読みたいと言えば、図書室に行こうと中森に誘われた。
図書室なんて河野と話をするために行ったあの日以来だ。
中森からの申し出は珍しいから、もちろん二つ返事で了承した。
そして、さっきからずっとにこにこと本の紹介をされている。
「それは朝涼さんの大学青春の話で、これはリマ嬢の書いた私の一番好きな本です。描写がすごく綺麗で、淡々と切なくって」
「なぁ」
止まらない説明にくいっと本を引っ張る。
困った。
さすがにオススメの本講座にはそろそろ飽きてきた。
唐突に話を遮られて、中森がきょとんと本を片手に首を傾げる。
「なんですか?」
「なぁ、もう一回好きって言って」
「え?」
「好きって言って」
必要最低限の言葉で繰り返す。
俺の言わんとすることを理解したのか、中森の顔が一気に赤くなる。
「さ、澤谷くん意地悪です! 油断も隙もありません!」
「中森が油断してるからだ」
「……これ、オススメの本です」
俺との会話を投げて、中森が俺に三冊の本を押し付ける。
一番上の表紙は淡い水彩画調で、人が描かれていた。
中森を伺えば必死で平気なふりをしているから、会話を戻すのはやめた。
その本を示して尋ねる。
「これのあらすじは?」
「雪の中の逃走劇です。その説明が一番簡潔だと思います」
二冊目と三冊目の本も見る。
中森はふわりと笑って説明する。
「それは林檎宝石さんで、童話みたいなお話です。もうひとつは、つじーさんで男の子が兎好きの女の子の為に頑張るお話です。両方ともすごく素敵なお話で」
「好きな話?」
先回りしてみれば、ふわりとした笑顔が一瞬で赤面に変わる。
睨まれたけれど飄々としておく。
中森は赤い顔でむくれたように言う。
「……今回はこれで終わりです」
「わかった」
「では」
固い声音で頭を下げて、中森が図書室から早足で出ていく。
その背中を追いかける。
「中森」
「なんですか」
むっとした顔をされ、少し意地悪しすぎたなと苦笑する。
「手、出して」
「嫌です」
「いいから」
拗ねたような表情で出された手の平に、いくつか飴を載せる。
赤と白の包装に中森の顔がぱっと明るくなった。
わかりやすいその反応に内心で笑う。
「中森、これ好きだろ。だからお礼」
「こんなに貰っていいんですか?」
「お礼だからな。それとも嫌い?」
おどけてみせれば、中森が顔を上げる。
見上げてくる瞳はさっきまでの不機嫌は見る影もなかった。
あっと思った時にはもう遅い。
「大好きです! ありがとうございます!」
眩しいくらいの笑顔が下から俺をまっすぐと見ていた。
それから、ご馳走様です、とぺこりと頭を下げて中森は駆けていく。
その背中が見えなくなってから、俺は額を押さえてしゃがみ込んだ。
「……反則だろ、あれ」
笑顔と台詞を思い出して、言いようのないため息が零れる。
顔が上げられない。
熱い顔を自覚して、唸る。
油断してたのは俺のほうだと。
恋に溺れる彼のセリフ5題。
2.頭ん中、お前ばっかなんだけど
『確かに恋だった。』より




