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僕の羊と君が眠るまで。  作者: シュレディンガーの羊
◇恋に溺れる彼のセリフ5題
13/32

とある少年への報復。



やっかいなのはその価値を自分自身が知らないこと。

確信犯ならまだ救いがあるのに無意識にだから手に負えない。



面白い本が読みたいと言えば、図書室に行こうと中森に誘われた。

図書室なんて河野と話をするために行ったあの日以来だ。

中森からの申し出は珍しいから、もちろん二つ返事で了承した。

そして、さっきからずっとにこにこと本の紹介をされている。


「それは朝涼さんの大学青春の話で、これはリマ嬢の書いた私の一番好きな本です。描写がすごく綺麗で、淡々と切なくって」

「なぁ」


止まらない説明にくいっと本を引っ張る。

困った。

さすがにオススメの本講座にはそろそろ飽きてきた。

唐突に話を遮られて、中森がきょとんと本を片手に首を傾げる。


「なんですか?」

「なぁ、もう一回好きって言って」

「え?」

「好きって言って」


必要最低限の言葉で繰り返す。

俺の言わんとすることを理解したのか、中森の顔が一気に赤くなる。


「さ、澤谷くん意地悪です! 油断も隙もありません!」

「中森が油断してるからだ」

「……これ、オススメの本です」


俺との会話を投げて、中森が俺に三冊の本を押し付ける。

一番上の表紙は淡い水彩画調で、人が描かれていた。

中森を伺えば必死で平気なふりをしているから、会話を戻すのはやめた。

その本を示して尋ねる。


「これのあらすじは?」

「雪の中の逃走劇です。その説明が一番簡潔だと思います」


二冊目と三冊目の本も見る。

中森はふわりと笑って説明する。


「それは林檎宝石さんで、童話みたいなお話です。もうひとつは、つじーさんで男の子が兎好きの女の子の為に頑張るお話です。両方ともすごく素敵なお話で」

「好きな話?」


先回りしてみれば、ふわりとした笑顔が一瞬で赤面に変わる。

睨まれたけれど飄々としておく。

中森は赤い顔でむくれたように言う。


「……今回はこれで終わりです」

「わかった」

「では」


固い声音で頭を下げて、中森が図書室から早足で出ていく。

その背中を追いかける。


「中森」

「なんですか」


むっとした顔をされ、少し意地悪しすぎたなと苦笑する。


「手、出して」

「嫌です」

「いいから」


拗ねたような表情で出された手の平に、いくつか飴を載せる。

赤と白の包装に中森の顔がぱっと明るくなった。

わかりやすいその反応に内心で笑う。


「中森、これ好きだろ。だからお礼」

「こんなに貰っていいんですか?」

「お礼だからな。それとも嫌い?」


おどけてみせれば、中森が顔を上げる。

見上げてくる瞳はさっきまでの不機嫌は見る影もなかった。

あっと思った時にはもう遅い。


「大好きです! ありがとうございます!」


眩しいくらいの笑顔が下から俺をまっすぐと見ていた。

それから、ご馳走様です、とぺこりと頭を下げて中森は駆けていく。

その背中が見えなくなってから、俺は額を押さえてしゃがみ込んだ。


「……反則だろ、あれ」


笑顔と台詞を思い出して、言いようのないため息が零れる。

顔が上げられない。

熱い顔を自覚して、唸る。

油断してたのは俺のほうだと。








恋に溺れる彼のセリフ5題。

2.頭ん中、お前ばっかなんだけど

『確かに恋だった。』より

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