とある少年の片思い。
日直を交替した、と言われた。
「は?」
「委員会があるらしいので、清水さんと交替しました、中森です」
ぺこりと下げられた頭を凝視する。
それは間違いなく俺が好きな中森だった。
「澤谷くんは不真面目ですね」
やや呆れたように中森が日誌を示す。
そこには一行にも満たない文字の羅列。
「そんなに書くことないだろ」
「それでもたくさん書くのが仕事です」
シャーペンをノックして、中森が続きを埋めにかかる。
俺は手持ち無沙汰になって、さらさらと動くそのペン先を見ていた。
「そういえば最近、澤谷くん変ですね」
「いきなりだな」
「だってお弁当を逆さに包んできたりとか、ノート提出なのに教科書を提出してたりとか、体育でバスケ中なのにボール蹴ったりとかしているので」
「……よく見てるな」
奇行が多いのは中森に対する気持ちのせいだが、それを見られているのは辛いところだ。
正直、恥さらしもいいところ。
文字を綴る音が止んで、中森を見る。
中森はシャーペンを持ったまま悩ましげに眉をひそめた。
「二行残りました。あと何を書いて埋めましょうか」
「話変わるの早くないか。てか、全行埋めるつもり?」
「もちろんです」
「……担任の似顔絵でも描いたら」
そんな風に嘯けば、中森が途端にむくれた。
シャーペンを置いて、日誌を閉じる。
「真面目に考えてくれないならいいです。もう提出してきますから」
頬を膨らませて、中森が踵を返す。
「澤谷くんの考え方、私にはちっともわかりません」
その台詞に無意識に手を伸ばして、華奢な腕を捕まえる。
なんですか、と訝しげに振り返った中森に告げる。
「俺の頭ん中、お前ばっかなんだけど」
中森の動きが止まる。
驚きで見開かれた瞳をそのまま見つめていれば、みるみる内に顔が赤く染まった。
林檎みたいだ、なんて何気なく零せば唇をわななかせる。
「そ、そういうこと簡単に言わないでください!」
「簡単には言ってない。それに本音だけど」
「な、尚更悪いです!」
更に叫ぶ様子に思わず笑う。
目を泳がせて、顔を赤くして、慌てふためくその姿。
「可愛いな」
自然とそう零せば、紅潮したまま中森が再び固まる。
どうしたのかと顔を覗き込む。
「中森?」
「わ、わ、私、日誌出してきます!」
中森はわたわたと日誌を掴んで廊下に駆けていく。その背中に叫ぶ。
「待ってるから、早くなー」
「ーーっ」
返らない声に、それでも表情が手にとるようにわかりまた笑ってしまう。
「本当にお前ばっかだ」
恋に溺れる彼のセリフ5題。
2.頭ん中、お前ばっかなんだけど
『確かに恋だった。』より




