とある少年の恋煩い。
なんとなく知っているのと、明言するのは違う。そこには明確な差がある。
それは素直に認められるかと云う純粋かつ簡潔な問題。
俺を悩ませるとある問題。
秋めく窓辺、そんな歌詞があったなとぼんやりと思い出す。
どのしても歌が思い出せなくて、途中でその思考を投げ出す。
「澤谷はなに。アタシの貴重な読書タイム、妨害しにきたわけ」
正面の机で本を読む河野が不機嫌に口を開く。
確かに図書室になら、河野がいると思ったから来た。
「幼なじみに対しても辛辣だな」
「も、っていうのは頂けないんだけど。言っとくけどアタシ、友達思いで評判だから」
顔を上げない河野に内心で安堵する。
目を見られないと話しやすい。
今日の図書室は人がない。
実際、いるのは俺と河野だけだ。
ふいに河野が俺に尋ねる。
「で、なんの話し」
「は?」
唐突の問いに疑問符を返せば、淡々と指摘された。
「なんかあったんでしょ。このところ、ずっとぼーっとしてる」
それを聞いて驚き、それから破顔する。
河野との付き合いは遡れば、保育園入学以前からだ。
隠し事も癖も思考回路も、もうとおに知れている。
辛辣なフリをしているが、河野はいつだってこうだ。
なんだかんだで俺を心配してくれている。
だから、俺は制限なしで話してしまう。
「近頃、色々と手につかないんだ」
「体調不良なら病院行けば」
「なんか同じ奴ばっか気になるんだ」
「それ、」
「会いたくなるし、声聞きたくなるし、どうせなら近くにいたい」
河野が口をつぐむから、俺は対して考えもせずに思考そのままに垂れ流す。
「わかんないんだ、正直。なんであいつなのか理由なんてこれっぽっちも出でこない。でも、気づけば目で追って、考えてる」
頁をめくる音が止まっているのに気づく。
河野はゆっくりと瞬くだけで、何も言わずに頁の表面を見つめていた。
まくしたてるように並べた言葉が今更に馬鹿らしくて、上手く笑えず顔が歪む。
「俺が恋煩いとか、笑うだろ?」
堪らずおどけてみせれば、河野はちらりと俺を見てからまた本に目を落とす。
「べつにアタシは笑わないけど。あんただって恋ぐらいするでしょ、人間だし」
その言い方があんまりにも自然で、河野らしくて拍子抜けした。
そこで気を張っていた自分に気づいて苦笑する。
「河野にそう言われっとなんか安心するな」
「そう。なら、安心料でも払う?」
「それは友情割引ってか友情で免除だろ」
「冗談なんだけど、馬鹿?」
毒を吐いて、白い指が再び頁をめくる。
俺は机に頬杖をついて窓に目を向けた。
色づく木は赤く秋風にざざめく。
その葉がひとひら舞い落ちるのが見えた。
「なあ、河野」
「さっきから読書の邪魔なんだけど」
「俺、中森が好きだ」
口にすればそれはなんて呆気ない。
赤い紅葉がざわざわと音をたてる。
なんだか、不思議と笑えた。
河野が本から顔を上げ、俺を見る。
「何、笑ってるの。気持ち悪いんだけど」
「ひでぇな」
それでもなぜか笑えて、河野はそんな俺に呆れたという風に本を閉じた。
恋に溺れる彼のセリフ5題。
1.俺が恋煩いとか、笑うだろ?
『確かに恋だった。』より




