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僕の羊と君が眠るまで。  作者: シュレディンガーの羊
◇恋に溺れる彼のセリフ5題
11/32

とある少年の恋煩い。



なんとなく知っているのと、明言するのは違う。そこには明確な差がある。

それは素直に認められるかと云う純粋かつ簡潔な問題。

俺を悩ませるとある問題。



秋めく窓辺、そんな歌詞があったなとぼんやりと思い出す。

どのしても歌が思い出せなくて、途中でその思考を投げ出す。


「澤谷はなに。アタシの貴重な読書タイム、妨害しにきたわけ」


正面の机で本を読む河野が不機嫌に口を開く。

確かに図書室になら、河野がいると思ったから来た。


「幼なじみに対しても辛辣だな」

「も、っていうのは頂けないんだけど。言っとくけどアタシ、友達思いで評判だから」


顔を上げない河野に内心で安堵する。

目を見られないと話しやすい。

今日の図書室は人がない。

実際、いるのは俺と河野だけだ。

ふいに河野が俺に尋ねる。


「で、なんの話し」

「は?」


唐突の問いに疑問符を返せば、淡々と指摘された。


「なんかあったんでしょ。このところ、ずっとぼーっとしてる」


それを聞いて驚き、それから破顔する。

河野との付き合いは遡れば、保育園入学以前からだ。

隠し事も癖も思考回路も、もうとおに知れている。

辛辣なフリをしているが、河野はいつだってこうだ。

なんだかんだで俺を心配してくれている。

だから、俺は制限なしで話してしまう。


「近頃、色々と手につかないんだ」

「体調不良なら病院行けば」

「なんか同じ奴ばっか気になるんだ」

「それ、」

「会いたくなるし、声聞きたくなるし、どうせなら近くにいたい」


河野が口をつぐむから、俺は対して考えもせずに思考そのままに垂れ流す。


「わかんないんだ、正直。なんであいつなのか理由なんてこれっぽっちも出でこない。でも、気づけば目で追って、考えてる」


頁をめくる音が止まっているのに気づく。

河野はゆっくりと瞬くだけで、何も言わずに頁の表面を見つめていた。

まくしたてるように並べた言葉が今更に馬鹿らしくて、上手く笑えず顔が歪む。


「俺が恋煩いとか、笑うだろ?」


堪らずおどけてみせれば、河野はちらりと俺を見てからまた本に目を落とす。


「べつにアタシは笑わないけど。あんただって恋ぐらいするでしょ、人間だし」


その言い方があんまりにも自然で、河野らしくて拍子抜けした。

そこで気を張っていた自分に気づいて苦笑する。


「河野にそう言われっとなんか安心するな」

「そう。なら、安心料でも払う?」

「それは友情割引ってか友情で免除だろ」

「冗談なんだけど、馬鹿?」


毒を吐いて、白い指が再び頁をめくる。

俺は机に頬杖をついて窓に目を向けた。

色づく木は赤く秋風にざざめく。

その葉がひとひら舞い落ちるのが見えた。


「なあ、河野」

「さっきから読書の邪魔なんだけど」

「俺、中森が好きだ」


口にすればそれはなんて呆気ない。

赤い紅葉がざわざわと音をたてる。

なんだか、不思議と笑えた。

河野が本から顔を上げ、俺を見る。


「何、笑ってるの。気持ち悪いんだけど」

「ひでぇな」


それでもなぜか笑えて、河野はそんな俺に呆れたという風に本を閉じた。








恋に溺れる彼のセリフ5題。

1.俺が恋煩いとか、笑うだろ?

『確かに恋だった。』より

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