表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕の羊と君が眠るまで。  作者: シュレディンガーの羊
◇青い恋をしている10題
10/32

子供は恋を夢見て眠る。




大人になりたくないなんて

恋を知らないお子様の言葉だから。




教室から部活をする生徒を見下ろして、彼がふいに呟きました。


「衝動的だよなぁ」

「どういう意味ですか?」

「別に。そのまんまの意味だけど?」


彼の瞳が私を写しました。

綺麗な硝子みたいで私その目が好きです。

首を傾げてみれば、微かに笑われました。


「今を精一杯、生きてるみたいな」

「それ褒めています?」

「んにゃ、羨んでる羨んでる」


ひらひらと振られた手になんだかちょっとむっとしました。

よくわからないけど、子供扱いされた気がしたのです。


「子供扱いしないでください」

「こんなちまいのによくゆーよ」

「今のは誹謗中傷です。謝罪を要求します」

「小難しい単語を使うなよ」

「うっさい、黙れです」


ちょっと口調が乱れました。

楚々としていたいのに彼の相手は難しいです。

テンポというか、なにかが崩れるみたいでいつも少し困ってしまいます。


「お前もガキだよなぁ」

「あなたに言われたくないです」

「うわぁ、傷つくわー僕」


わざとらしいポーズは無視します。

そのほうが効率がいいと経験上の判断です。

ふいに彼が黙るので私も黙ります。

野球部の声が聞こえます。

なんか甲子園とか叫んでます。

理解不能です。

吹奏楽の演奏が聞こえます。

さっきからドの音を外しすぎです。

頑張ってください。

と、ふいに彼が天井を仰ぎました。


「いいなぁ……」

「私がですか?」

「んにゃ、みんな」

「みんなの定義が曖昧です」


至って当然の指摘をすれば、彼がくたりとこちらを見ました。

柔らかそうな髪が少し揺れて、彼を幼くします。


「このまま大人になってくならいーのになって思ったんだよ」

「このまま、ですか?」

「うん。馬鹿で鈍感で狡くて嘘つきで怖いものしらずで素直じゃなくて臆病でそのくせどこか献身的で大人になろうとしてる誰かさんが、さ」

「やけに具体的ですね」

「まぁ、見てればなんとなくわかるよ」

「余計に意味がわかりません」

「いーよ、わかんなくて」


そう言ってまた彼が天井を見上げます。

なんかぐるぐるします。

気にくいません。

なんですか、その態度。

わからなくていいとか、ひどい台詞ですよ。


「あなただって、そうですよ」


堪らずに言い返してしまいます。


「私はそう思いますよ」

「お前なぁ。タメ口じゃなきゃ、なに言ってもいいと思ってないか」

「暴言は吐いてません」

「んー、確かにそうだな。暴言吐いたのは俺だ」


そう言って彼の目が優しくなりました。

口元も緩んで、なんだかちょっと満足そうです。

私は心がふわふわします。

さっき彼が言ったのを思い出して、おかしくなりました。

このまま大人になってく。

それはすごく甘い甘いことだと思いました。

でも、青い考えです。

私はたぶんそこに甘んじることはないと思うのです。


「先生」


彼を呼びます。


「私はこのまま大人になってくなんてごめんです。立ち止まるなんてごめんなんです」


手を伸ばせば届く距離まで近づく。


「私は先生に追いつきますよ。青春に恥じない大人になります」

「一生徒がいいたんかを切るね、若い若い」

「先生はそうやってせいぜい余裕かましてるといいです」


触れることはしません。

それはまだ、許されてないことだから。

だから、この気持ちを抱いたまま、それでも私は何かを捨てて手に入れて大人になっていくのです。


「好きです、先生」

顔を除きこめば、無感動に見つ返されました。

加えてため息がひとつ。


「だから、衝動的って言ったんだよ」

「なら諦めてください」

「はぁ、俺の教え子ってこんなんばっかだ」


困ったふりが下手な彼は、今日もすこし嬉しそうなので私も嬉しいです。

私は先生を好きになれて嬉しいです。




私たちは大人になっていきます。

でも、このままと、このままでないものと両方を大切にしていくのです。

青さも不器用さも、怖いもの知らずな所もなくさずに大人になるのです。

そう。恋した記憶も、きっと忘れずに。








青い恋をしている10題。

10.このまま大人になってく

『確かに恋だった。』



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ