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義弟に嫌われているので侯爵家を出たら、なぜか毎日探し回られています。  作者: アキラ・モーリング


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09 行かないで ユリウス視点

本日は2話投稿します。

 侯爵家の執務室。


 机の上へ広げられた書類を前に、レオニードは腕を組んでいた。


「……共同経営、か」


 低く落ちた声。


 その視線の先には、ユリウスが作り上げた大量の資料が並んでいた。


 ヴァイス商会との共同経営案。


 侯爵家主導による経営支援事業。


 店舗再建。


 流通支援。


 そして、その中心には必ずリディアの名前があった。


 ユリウスは真っ直ぐ侯爵を見る。


「現状のままでは商会の事業は頭打ちです」


 レオニードは否定しなかった。


 ヴァイス商会はここ数年で急速に規模を広げていた。


 リディアが立て直した店舗は評判を呼び、依頼は増え続けている。


 だが規模が大きくなったことで問題も増えていた。


 リディアは侯爵令嬢として表立って動いているわけではない。


 だが、身分を伏せていても噂は広がる。


 フェルディナンドの末娘が侯爵家の後妻となったことは周知の事実だ。


 そこから自然と、“侯爵家と縁のある商会”という見方が広まっていた。


 その結果。


 侯爵家の威光を笠に着ていると陰口を叩く者。


 侯爵家へ取り入ろうと、再建事業へ不当に口を出そうとする者。


 さらには、侯爵家との繋がりを理由に優先的に利益を回しているのではないか、と疑う者まで現れ始めていた。


 本来、ヴァイス商会は民間商会だ。


 だから貴族相手には強く出づらい。


 これ以上の再建事業の拡大は要らぬ諍いを起こしかねない。ここら辺が民間商会の限界だろう。と言うのがユリウスの見解だ。


 だが侯爵家が正式に共同事業として関われば話は変わる。


「元々、リディアを侯爵家に残したまま事業をやらせる案を考えなかったわけではない」


 資料をめくる。


「だが、高位貴族が民間商会へ便宜を図っていると見られれば面倒だった。利益誘導だの、特定商会への肩入れだのな」


「初期はそうだったのでしょう。でも、他の貴族から横槍が入った今なら“共同事業”の言い訳が立つ」


 ユリウスは間髪入れず答えた。


「侯爵家が商会を抱え込む形ではなく、侯爵家は商会に対して経営支援事業として正式に提携する。利益も公開し、再建先も審査制にする。そうすれば癒着や独占と見られにくい」


 レオニードは黙って資料を読む。


 その沈黙に、ユリウスはさらに続けた。


「実際、貴族が融資した店舗の再建では、貴族側からの無理な干渉が増えています。リディアの再建実績に便乗したい連中もいる」


「……把握している」


「だから本格的な横槍を入れられる前に形を整えるべきです」


 レオニードはゆっくり息を吐いた。


「お前、本当に色々調べたな」


「必要でしたから」


 即答だった。


「必要、か」


 その目は、“誰のために?”と語っているように見えた。


 だがユリウスは気づかないふりをした。


 レオニードは机へ資料を置く。


「……フェルディナンド殿には?」


「すでに話を通しています」


「なんと言っていた」


「悪くない案だと」


 実際、感触はかなり良かった。


 フェルディナンドもこの件で頭を抱えていたからだ。


 思ったより新事業が大きくなりすぎた。


 定型通りで対処しきれない案件が予測より膨れ上がっている。


 元々再建先ごとの個別対応は必要の範囲内だったが、それを差別だなんだと難癖付けてくる連中や、事業にかこつけて甘い汁を吸おうとする者が日に日に増えていた。


 だからこそ侯爵家との正式提携は、商会側にとって厄介ごとに圧力をかけられる利点が大きい。


「……なるほどな」


 レオニードは椅子へ深く背を預けた。


「確かに、お前の案なら現実味はある」


 肯定的な返事にユリウスは胸の奥で安堵した。


 通常の学院生活に加え、進学のための大量の課題。


 その合間を縫ってリディアの送迎をこなし、さらに商会側の情報を集めて資料まで作っていたのだから、正直かなり無茶をしていた。


 だが必要だった。


 レオニードが、リディアへ出した条件は二年。


 だから、この二年は縁談も全て断っているのを知っている。


 つまり。


 ユリウスにとっても、この二年が勝負だった。


 侯爵家のままなら、義姉弟なのだから、一度どちらかを傍系貴族の籍へ移せば問題なく嫁げる。


 だが、もしリディアが一度でも平民へ籍を移せば、貴族籍へ戻るのは難しい。


 そうなればリディアとの婚姻は一気に難しくなる。


 貴族社会はそういうものだ。


 その日は、そこで話が終わったが、かなり前向きな感触だった。


 正直、少し安心していた。


 だが。


 油断だった。


 数日後。


 その日もユリウスは疲れていた。


 朝からリディアを送迎し、合間に商会の情報を整理して資料を作り、学院で勉強し、進学準備の課題に追われていた。


 自分で決めたこととはいえ、さすがに負担は大きい。


 それでも今日は、妙に落ち着かず、予定を切り上げて早めに帰宅した。


 屋敷へ入ったところで、ちょうどリディアの侍女――ミアを見つける。


「リディアは?」


「リディア様は応接室に……」


「誰とだ」


「侯爵夫妻とフェルディナンド様とアレクシス様が」


 その瞬間。


 嫌な予感が一気に膨れ上がった。


「……何の話だ」


「卒業後についての――」


 そこまで聞いた瞬間、ユリウスは踵を返した。


 卒業後。


 正式な話。


 ここまで慎重に進めてきたのに。


 先に籍を移されるわけにはいかない。


 応接室の前まで来ると、ユリウスは一度だけノックした。


「どうぞ」


 返事と同時に扉を開け放つ。


 勢いよく開かれた扉に、部屋の空気が止まった。


 父上。


 お義母上。


 フェルディナンド。


 アレクシス。


 そしてリディア。


 全員の視線が一斉に集まる。


 だがユリウスはそれどころではなかった。


 机へ広がる書類を掴み取る。


 そして目を見開いた。


「……これは」


 そこにあったのは戸籍関係の書類ではない。


 自分が作った共同事業案だった。


 フェルディナンドが肩を竦める。


「ユリウス殿の案を詰めていた」


 ユリウスは一瞬固まる。


 だが次の瞬間には、完全に頭が切り替わっていた。


「だったら私も呼んでください」


 ぎろりと睨みつける。


 そのまま勝手に席へ座った。


「ここの収支予測は修正した方がいい」


 そう言って書類へ指を差す。


「地方支援を増やすなら人員確保が先です。リディア一人に負担を集中させる形は駄目だ」


「ほう?」


「あと再建先への監査役も必要です。侯爵家側から人を出せば余計な横槍は減る」


 気づけば完全にユリウスの独壇場だった。


 やがて一通り話し終えたところで、


「それならやはり、侯爵家で再建支援事業を立ち上げ、貴族向けの再建事業の共同経営……もしくは協力関連事業として提携した方が良いな」


 レオニードがそう結論づけた。


「侯爵家側で正式事業として立ち上げる以上、侯爵家にも責任者は必要だ」


 言いながら、視線をリディアへ向けた。


「実際に再建現場を回し、商会側とも連携できる人材は限られているな」


  フェルディナンドもリディアへ顔を向ける。


「……リディアしかいませんね」


 アレクシスが苦笑混じりに答えた。


「表向きは侯爵家側の補佐官や管理役を付けるにしても、実際に案件をスムーズに動かせるのはリディアしかいないだろうな」


 レオニードが頷く。


「再建方法も、現場判断も、店ごとの調整も全部リディアが組み上げてきた。今さら別の人間へ任せても回らん」


 フェルディナンドも異論はないらしい。


 ユリウスはそこでようやく息を吐く。


 ――間に合った。


 その安堵のまま、ユリウスは全員の顔を見回す。


 そしてひと呼吸してはっきりと告げた。


「……では、これでリディアは侯爵家を出る必要はなくなったという事で、いいですね?」

本日は2話投稿します。

20時にもう一本投稿するので、良かったら読んでください(^^)


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