28.きっと無駄にならない
28.きっと無駄にならない
「気に入った?」
「はい!」
コテっと小首を傾げたサラに、ミウが嬉しそうに頷く。
「そう。じゃあ、それ、ミウの」
「へ?」
老紳士がミウへとラッピングした方を差し出す。
「これ、広間で踊ったデータから作った、から。記念」
「え? え?」
「初めてのご利用のようですので、僭越ながらワタクシめからご説明致しますね」
微笑ましそうな笑みを浮かべ、老紳士が指を鳴らすと、背後にあった棚が両開きにスライドし、スクリーンが現れる。
「当施設では、舞踏広間をご利用のお客様ごとに踊った曲や設定したロケーションのデータを一次保存しております」
スクリーンには広間や曲などがデフォルメされたイラストで可愛く表示されて。
「そのデータの中で、お好きなものをお選び頂き、そこからイメージされる小瓶の作成と香りを調香、最後に当店にてお受け渡しを行っております」
大切な思い出に! の文字がスクリーンに浮かんで終了し、棚が元に戻る。
「記念品なので、容量はさほどございませんが、使い切れるので毎回ご注文頂くお客様も多いのですよ」
お値段も香水としてはリーズナブルと言える設定だ。特注と考えればさらにお得と言って良い。
「勿論、容量を増やすオーダーも別途頂きますが可能でございます。それから……お客様方にはこちらを」
スッとカウンターの上、それぞれの前に名刺サイズのカードが出された。
マットな蒼みかかった白いカードの表面には城のシルエットが銀で、それより少し明るい銀でアクアリウム・ラグーンの文字が入っている。
裏面には下部に数字を含んだ文字列。
「そちらには今回の広間データと香水のデータが入っております。後ほどお持ちの端末などから当施設のサイトへアクセス頂いても内容が確認可能です。また、次回以降のデータも蓄積、お気に召した香水の追加生産にもご利用頂けます」
ただし追加生産分は一般的な量とお値段になる。
「なるほど……」
「記念、だし。サービスを体験するのも、今回は大事、でしょ? それに、ダンス、頑張ったから」
「そうですね。確かに」
一応今回は施設を体験してレポートするお仕事だし、とミウも納得した様子。
「じゃあ……えっと、サラ先輩」
「?」
「ありがとうございます」
カードとラッピングされた香水を胸に、ミウがくすぐったそうな笑みでそう言った。
◆◆◆◇◆◆◆
「うん……」
サラがいつもと同じ、ポツリとした返事を返す。
ミウはいそいそとカードをお財布に入れ、香水は肩掛けポーチへ。
――良い匂いだし、入れ物も可愛い。
何だか自分でも思った以上に嬉しさがあった。
それは、香水もそうだが、ダンスも最後まで失敗せずに出来たし、サラがこれまでの努力を認めてくれた気がしたから。
――サラ先輩が合格って言うなら、確実だよね。
サラの合格点もとい及第点は、シェルディナードと踊れるレベルか否かの一点のみ。
厳しいお眼鏡に叶ったなら、技術が申し分なく身についたと判断して良い。
例えもう踊ることはなくても、努力したものは無くならない。一番認めて欲しかった相手ではないけれど、その相手を同じくらい大切に思うサラが認めた。
それだけでも、誰にも知られない、他の誰かに褒められるより、ずっとスッキリして心が軽くなる。
一つ一つ、想いを手放していく。
悲しい気持ちはある。けれど、それだけじゃない。
想いは雪のように降り積もり、やがて溶けて消えても、溶けた雪は大地にしみていずれ清水となって湧きい出て世界を潤す。苦いも甘いも想いはきっと無駄にならない。
「次、行きましょうか。後半戦ですね!」
「……そう、だね」
店を出て、城から伸びる床以外が透明なチューブ状の通路を歩いて次のエリアへ。
湖中の中心側を見れば、今までいた城とレストラン、下へ視線を向ければ水中を揺らぐ花畑とサイクリングコースのチューブが見える。
「あ。分かれ道ですね」
真っ直ぐと右へ行く道。
「右は、サイクリング」
「そっか。こっちがわにも乗り降りの場所があるんですね」
「そう」
「じゃあ真っ直ぐ行きましょう」
行きもそうだったが、今回はパス。
真っ直ぐ進み、洞窟のような外観のエリアへ足を踏み入れる。
一瞬薄暗くなり、やがて内部の様子が目の前に広がった。
外観と異なり乳白色でつるりとした内壁に、間接照明よろしく下から柔らかくも極彩色の光が放たれ、ゆらめく水面のように笑う。
「うっわぁ……」
思わずミウの口からため息めいた感嘆の声が上がった。
所々に泉や水路の巡らされた鍾乳洞の小ホールといった感じで、ゆるやかなすり鉢状で至るところに腰掛けるのに丁度良い大小の段差。様々な楽器が設置されていて、中央には真っ白なグランドピアノが静かに佇んでいる。
天井からは半透明な白藤の花に似た植物が垂れ下がり、ゆらゆらと揺れて。
明日も更新予定です!
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