27.似合ってた
27.似合ってた
翠の鳥籠に光りの花が踊る。
曲の最後、鏡合わせに掌を合わせると光が月へと昇って余韻を引き連れて消えていく。
曲の終了と共に映し出された光景は通常の広間に戻る。
サラは再びミウをエスコートし、ゆっくりはける。
先程ミウを貶して笑った輩の横を通り過ぎる時、サラは何も言わなかったが、輩二人の顔色が悪くなったのはしっかりと視界に収めた。
隣ではミウが何も言わずに通り過ぎた事に安堵の息をこぼしていたりするのだが。
広間を出てドレス店まで戻ると、店員が出迎え更衣室へとミウを再び引きずり込む。
――……似合ってた。
既に輩の事は欠片も頭の中にない。
ミウに今回着せたドレスが似合っていて、どうすればあれを受け取らせる事が出来るか? それのみに思考は舵を切っている。
――取りあえず買って、ルーちゃん経由……。ダメ。じゃあ……。
着替えを待つ間に用意されたソファに腰掛け、何を言わずとも用意された珈琲のカップを手にして口をつけた。
「お客様。こちらご確認をお願い致します」
スッと差出された小さめの箱を一瞥して、サラは小さく頷く。
「問題ないよ。ありがとう」
「承知致しました」
「ちょっと、相談なんだけど」
「それでしたら……」
そんなやり取りをして、珈琲を飲み終えたタイミングでミウが更衣室から元の格好で戻ってきた。
「お待たせしました」
「うん。……ミウは、何か飲む?」
「あ。大丈夫です」
「そう。じゃあ、行こう」
舞踏広間とは別の階段からエントランス階へ降りる。
あの無礼者二人組については、もうサラの頭のどこにもない。踊り終えて横を通り過ぎた際の表情と顔色を確認した時点で意識の外だ。
「こっち」
「あ、はい」
エントランス階には来てすぐ見たように、レストラン、図書館、そしてまだ未見のお土産ショップがある。
「わあ。ピクニックエリアのお店とは内容が違うんですね」
あちらは主に『ザ・お土産』な感じのお菓子やぬいぐるみなどが多かった。
こちらもそういった品があるにはあるが、比べると少し上品でお値段的にも若干高い。多いカテゴリはお手頃〜お高めなアクセサリー等の装飾品。
そしてその隣にはオシャレな店構えの貴金属店、いわゆる宝石店が一段上の雰囲気を放っている。
まずはお土産屋に寄って、買ったものは転送してもらう。そしてサラは腰が引けているミウを半分強制で連行する。
「あのぅー……サラ先輩? あたしは外で待ってるのでお一人で」
「……」
「すいません聞いて下さい⁉」
抗議など届いていない。店の敷居を跨ぐとミウが途端に静かになった。
と、言うより雰囲気に気圧され黙ったという方が正確か。
展示されている品があまりにも高そうで、ちょっと声張ったら割れるんじゃなかろうか、なんて考えがミウの頭を過ぎったらしい。そんな事は起こるわけないが。
サラは常と変わらぬ足取りで奥へと進む。その後に置いていかれないように必死ですといった顔のミウが続く。
店内は中々広い。入口の部屋の正面奥と左側にも部屋があり、宝石の他に時計なども置いてある。
正面奥の部屋へ進み、カウンターへ近づく。
「舞踏広間ご利用のお客様ですね。お待ちしておりました」
柔和な笑顔に濃灰のスーツが似合う老紳士が会釈し、そう言いながら小さめの箱を取り出して見せる。
紺色の箱の蓋は箱の下に重ねられていて、透明なラッピングで中身が見えるようになっていた。
「可愛い……。あの、これ何ですか?」
「オーデコロン。一言で、言っちゃえば、香水」
コトリとカウンターの上にラッピングされたものと同じ香水瓶が置かれる。
「ミウがルーちゃんからもらったのは、多分、オードパルファム」
香水は含まれる成分の濃度で呼び方が変わり、濃度が高いほど効き目も長いが、その分付けすぎなどにも注意が必要だ。
「これは、一番濃度、低いから。持続時間も、短いよ」
色のついていない透明な小瓶。本体は鳥籠のような形と凹凸があり、蓋の部分は月を模している。
蓋からスポイトのような芯が出ていて、その先端から滴る一雫を手首につけ、軽く両手首を擦り合わせるとフワリ香りが漂った。
冬の夜の澄んだ空気を思わせるトップノートから、空気が和らぎ瑞々しさを感じるミドルノート、そして春の夜明けを告げるような仄かな甘さを帯びたラストノートへ。
「わぁ……。いい匂い」
全体的に爽やかなのだが、最後の余韻は花開くような甘さを漂わせる。その甘さもしつこくなく、優しいものだ。
季節の変わり目は体調崩しやすいので、皆様もお気をつけて。
私はこの時期体調崩しの常連です。明日も更新予定です。




