22.今この人なんて言った?
22.今この人なんて言った?
今この人なんて言った?
ミウが硬直している間にも、サラはポチポチと何かをパネルに打ち込んでいく。
「ま、待って下さい! ちょ!」
ポチポチする腕に飛びつくも、時すでに遅し。
「完了」
「何がですかー!」
胸ぐら掴んで奥歯ガタガタ言うまで揺らしてやろうか。
身体強化すれば出来なくも!?
なんて血迷うような思考がミウの頭でぐるぐる回る。
「頑張ったんでしょ」
「そ……」
――それは、そうですけど……。
貴族の婚約者におさまろう、既にいる婚約者(貴族)に張り合うには、少なくとも基本教養くらい身につけておかないといけなかった。
夜会などでの社交は貴族の義務。
妻の役目でもある。
だから、普通レベルで踊れるまでレッスンにも通って。
「一度も、披露しないの、もったいない、し」
「もったいなくて良いですよ……」
身体強化しても普通に踊れるようになるまで足の皮は剥けるし、タコはできるし、擦り切れて血染めのダンスシューズは量産するし。
そこまでしても、『普通』なのだ。何とか形になった、可もなく不可もなし。
ミウの顔がどんよりと曇る。
「……なんで?」
「何でって」
「頑張った、ら、認めて、欲しい、じゃない」
「…………」
頑張っても普通レベル。あれだけやってもそこまでしか出来ない。それで認められても……。
いや。違う。認められたいとは思う。当たり前だ。けれどそれは……。
「オレは、ルーちゃんじゃ、ない、けど」
「!」
じくりと。胸の奥が痛んだのか、ミウの顔が歪む。
「ミウが、頑張ってたの、は、知ってる、し」
頑張った。頑張ったのは、頑張ったと認めて欲しかったのは。その人は。
「ルーちゃんの、友人、として。オレには、見届ける、必要が、あるから」
「……わかり、ました」
――そもそも一度言われたら、あたしに拒否権なんて無いんだし。
ため息をついたミウにサラが、壁からシャボン玉に包まれて出てきた小瓶を取って渡す。
小瓶の中身は靴底にふりかけて使う、通称『妖精粉末』だ。社交ダンスでパートナーとの身長差が大きくある場合に使用するもので、丁度良い身長差になるよう見えないゲタを履かせられる。
ゲタを履かせると言っても、ステップを踏む感触は床のもと変わらない。厚底靴とは違う、普通に歩く感触と変わらないようになっているのが特徴だ。おかげで産まれたての子鹿にならないで済む。
とは言え、端から見ると使用した方は浮いているので格好が良いとは言い難いのだが。
粉をふりかけ終わると、ミウとサラの前の床にそれぞれミウは桃色、サラは水色に光る足跡が一歩先に現れる。
「わからなく、なったら、それの、通りに、足運べば良い、から」
どうやらリードマークのようだ。
「でも、そっちだけ見るの、禁止」
「でしょうけどそれ意味あります?」
それリードマークの意味とは。
マークだけ見ていると、どうしても下をみてしまう。
よく、足許みないで顔上げろと言うけれど、足運びで精一杯の者にそれはきついんじゃなかろうかと常々思うミウである。
相手の足を踏みそうだし、それ歌なら楽譜や歌詞カードみないで暗譜暗唱しろって事と同意義だ。
「だから、最初に数歩だけ、覚えて、その先、を、リードマークで、確認する」
数メートル先なら見たら顔は上がるし、向く先は進行方向になる。
見ればリードマークも数メートル先まで表示されていた。
――物も機能もわかってないと使えないというか、使いこなせないと便利じゃないよね……。
今のリードマークしかり。使い方を知っていれば便利。知らないと役立たず。でもこの場合、道具が悪いんじゃなく使い手に問題があるぴったりの事例。
元々が乗り気じゃない時は些細な事でも一段気分が下がる。何で自分はこうなんだろう……そんな感じで負のスパイラルが始まるのだ。が。
「あ」
「え。何ですか。サラ先輩がそんな声出すの珍しい通り越して怖いんですけど」
「…………」
「すみません。つい本音が」
やさぐれもといヤケになると怖いものがなくなる効果も否めない。
「で。何ですか」
「…………。衣装、も、貸してもらえる」
「さっさと踊りましょうか」
これ以上ろくでもない事を言われないうちに。




