23.ザ・力業
23.ザ・力業
白く細く陶器みたいに滑らかな指、手。
それでも実際に手を重ねれば、やはりミウの手などすっぽり収まる大きさ。
――ああ。そうだよね。サラ先輩、男だもんね。
出掛けにそう思った事を再認識。見かけの衝撃も、施設内を回っているうちに薄れていつも通りになっていた証拠である。
ところで。
「あの。サラ先輩?」
「なに?」
「これ、社交ダンスじゃないですよね?」
いや、ミウとしては良い気がするのだが。
大体において種類にも寄るが、社交ダンスは密着して行う事が多い。けれど今ふたりで踊ろうとしているのは、リードマークから見ても離れているし、音楽も社交ダンスで使うものと違う。何と言うか、端的に言って民俗舞踊のステップと曲に近い気がする。
「鏡舞踏」
「えーと……確か、うー……大昔、の、社交ダンスの原型、でしたっけ?」
その名の通り、基本は男女共に同じ動きをするもので、触れ合うのは掌を合わせたりつなぐ程度。
社交ダンスよりも密着度は格段に下がる。
「そう。……違う、のが、良い?」
「いえ、そういう訳じゃないです」
でも何だかモヤる気が……。
リードマークと音楽に合わせて舞踏広間の中央へ。
重ねていた手を離し、少し二人とも離れてからくるりとターン。再び近寄り、軽く掌を合わせながらターン。
近寄って離れて、時計回り、逆回り。
まるで水面にできた波紋のように、響き合う。
難しいステップもなく、決まった型もない。
肩肘張る必要も、ない。
ただ、楽しむための。
――まあ、いっか。
モヤモヤしていた何かが落ち着いていく。
元々ミウは細かく考えるのは苦手だ。身体を動かしていたら、胸元で凝っていたものがゆるゆると溶けていく。
それよりも。
――わ。ちょ、サラ先輩速い!
簡単とはいえ、社交ダンスそもそもが頑張って普通レベルなのがミウ。むしろ気軽に型らしい型がない半ば即興に近く、かつ鏡のように相手と呼吸を合わせなければならないこれは普通にきちっと踊るより難易度が高い。
何でそれでいま踊れているかと言うと、ひとえに動体視力でサラの動きをガン見して次の動きを予測しているからに他ならないという事実。ザ・力業である。
なお、普通レベルにできたのもこの力業のなせるわざ。
筋肉と身体能力は裏切らない。
などとミウが現実逃避する時間どころか一瞬すらなく、必死でサラの一挙手一投足をミウは追う。
あんまりにも必死で、サラがほんの僅かに微笑んでいる事なんてわからなかった。
◆ ◆ ◆ ◇ ◆ ◆ ◆
軽快な音楽が終わり、始めた時と同様に舞踏広間の中央に立ち、両手の掌を合わせる。
鏡舞踏の最後だけは少し独特で、ぴったり掌を合わせるのではなく、ややずらす。どれくらいかと言われれば、鏡の向こうへ指が入って、鏡像と手を握り合わせるくらいのズレ。
ぜぇはぁ、とミウが若干へばってなければ綺麗にフィニッシュも決まっただろうに残念である。
そんな減点要素があったからではないだろうが、拍手の代わりにどこの誰とも知らない輩の嘲笑が投げかけられた。
「あらやだ。この舞踏広間であんな踊り?」
「よせよせ。言ってやるな。私達のようなプロとは違うんだ」
え。何アレ。
ミウとサラが声の主である闖入者二人を見てそんな顔をする。
背の高い男性と女性。共に魔族のようだ。身に纏うドレスが無駄に豪華なのと、見下すような視線を考えると貴族なのかも知れない。
――でも、十家の人じゃないっぽい。
曲がりなりにもシェルディナードの副官として夜会に連れ出される機会もそれなりにある。社交で相手の顔を覚えるのは基本だ。
そういった場で彼らの顔を見た記憶がない。
最もそういった場で下位のものは上位の者が話し掛けてくれるのを待たねばならない。下位から声を掛けるのはマナー違反だから。
なので居たとしても貴族の中での立ち位置は低いだろう。新しく貴族になった家かも知れない。
にしても、だ。
――命知らず……。
現在、ミウの隣にいるのは貴族家のトップ。
貴族家の中で上位十家を十家と呼び、サラの家はその頂点だ。ちなみに頂点とその次の間には、越えられない壁がある。
そして……。
――ううっ。そこはかとなく漂ってきてる!
どうやら、彼らの言動はそのトップ次期当主の不興を買ってしまったらしい。先程から冷気がミウの肩を震わせている。




