20.制度は使ってナンボ
20.制度は使ってナンボ
光。暗い所から出た直後でそれが目に痛いと感じないのは、直前にあった薄明りの区間があったからだろう。
「ふ、わぁぁあ!」
路から出るまでずっと俯きがちだったミウが、そこに現れた光景に本日何度目かの驚きを含んだ声をあげる。
そこには幾つかの尖塔を有する白亜の城がそびえ立っていた。
さらに。
「これ、並木道ですか?」
通路出入り口から城まで続く路。その両脇にはゆらゆら水面に向かって枝を揺らす花模様。
揺れる長い枝には小さな蕾と、オパールのように色彩が遊ぶ五枚の花弁が可愛い小花が笑うように咲く。
水面からはキラキラと陽光が降って、ミウは思わず立ち尽くす。
人間で言うところの平均的体格をもった成人男性が十人くらい両手を広げて横並び出来そうな路は、オフホワイトの石畳。路の真ん中には等間隔で街灯のように長い柱をもつ灯りが配置されている。
柱の上には白い球体状の灯りがあり、昼間の今はややわかりにくいものの、仄かに淡く光っていた。
並木道の天井は高く透明で、一瞬これが湖の中だと忘れそうになるほど。
柱よりも数は少ないものの、同じ様に等間隔で路の外縁に張り出す半円のテラスには、ベンチやソファなどそれぞれ寛げるものが置かれている。
「凄い……」
「そこの、木、みたいのは、湖水珊瑚の、一種」
「確か、ケル先輩の所で採れるんでしたっけ?」
「そう。生きてる、時は、あんな感じ」
「生きて……あ、そっか。宝石になったのは加工されてるから」
湖水珊瑚は海で採れる珊瑚とは少し違い、淡い色合いが特徴。
「綺麗ですねー。そういえば、初等部ではここで年に一度は写生会が開催されるって聞いた事があります」
「うん。ここ、人気。あとは……意外と、読書、とか。してるの、多いらしい、よ」
「へー……」
ミウとしては読書よりお昼寝してしまいそうだ。ふっかふかのソファや寝椅子もあるし。
「ひゃ……わ……!」
ザアッと急に音がしてミウは一瞬だけ身を竦ませたが、すぐに感嘆へと響きを変える。
路の天井を虹が、虹のように色とりどりの魚が泳ぐ。それぞれの鱗が陽光を弾き、光が気泡と共に尾を描く様子に見惚れた。
路の上には群れから離れたまばらな魚の影が落ちて、模様か影絵みたいだ。
「提携してる、宿泊施設、に泊まる、と、夜間も、入れる、よ」
宿泊者限定の貸し切りタイムは、ライトアップされてまた別の趣があると大層人気である。
「うわー。それは見てみたくなりますね」
提携宿泊施設のお値段も幅があり、お安いプランも完備。
「そっかぁ。だから騎士団の福利厚生って活用してる人多いし、人気なんですね……」
今までそんなものを活用してるヒマも無かったけど、今度からもう少し……いや、バンバン利用しよう。とミウは決意を新たにした。制度は使ってナンボだ。
実際、ミウの仕事場であるシアンレード騎士団に入るとモテる、という噂もあり、その原因となっているのはエンタメ特化領地の福利厚生。
領地主導のエンタメ施設が騎士団員だと格安で利用できるのが一番大きい。他階層の住民は熾烈なチケット争奪戦を行うものも、比較的ゲットしやすく、それ目当てに近寄る者もいると。
きっかけがそんなの嫌だと思うかも知れないが、きっかけすら作れないよりマシとも言える。
閑話休題。
ゆっくり歩き、やがては城へと辿り着く。
「遠くから見ても凄いと思いましたけど、近くでも圧巻ですねー……」
尖塔を携える白亜の城。巨大なアーチを描く両開きの扉が今は開かれ、そこから見える広間も豪華。
しかしそれとは別に目を惹くのは何と言っても、城の左右にそれぞれつけられた建物だろう。
「こっちは……?」
湖の中心、内側に向かって張り出した場所にある鳥籠のような建物にミウが首を傾げる。城とくっついている様だが。
「レストラン、だけど」
「レストラン? でも、ピクニックエリアが」
「お高い方」
「あ。了解です」
値段の話題で全てを察する庶民のスキルが発動……したかは別に置いておこう。
「午前、十一時から、十四時まで、がランチ。十五時から、十七時まで、が、カフェタイム。十八時から、が、ディナー。ディナーは、宿泊施設利用者じゃ、ない、なら、二十時まで。宿泊者、なら、二十二時まで」
「なるほど。泊まってる人は二十時以降、半分貸し切り状態ですね」
進捗確認とブックマークありがとうございます。
頑張ろうって思えます。と、いう事で明日も更新です。




